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「マリベル様? どうされたのですか? どこか、痛いのですか? まさか、あの男に傷つけられた傷が痛むのですか?」

「大丈夫です。身体はどこも痛くありません」

「では、心が痛いのですか? とても悲しそうなお顔をなさっておられます」

駄目だ。落ち着け。フィリップ様とは初対面。あまり気を許し過ぎてはいけない。

「……大丈夫です。そろそろ失礼しますね。客間をご用意しますから、ごゆっくりお寛ぎ下さい。近いうちに、部屋をご用意しますね。お祖父様に伺わないと、決められないもので……しばらくは客間でお許し下さい」

「俺はマリベル様とリリア様の護衛を申し付けられておりますから、護衛さえ出来れば野宿で構いません」

「それは困ります。どうか、客間でお休み下さいませ」

押し問答をしていると、ミリィが来てくれてお祖父様の命令で部屋を用意したと報告してくれました。お祖父様の命令と言うと、フィリップ様は素直に部屋に入って下さった。

とにかく、彼と離れたい。悪い人じゃないのは分かる。むしろ、私なんかと違い物凄く良い人だ。だからこそ、離れたい。彼と一緒に居ると、心地良くて甘えてしまいそうになる。

いくらお祖父様が信頼した方でも、いや、お祖父様が信頼した方だからこそわたくしは気を許しては駄目。

だって、本当に彼が信用出来るか分からないもの。お祖父様の人を見る目は信用してるけど、絶対じゃない。

平和な世の中なら……きっとわたくしはフィリップ様を好きになっていただろう。彼の真っ直ぐで優しいところは、とても好感が持てる。

だけどわたくしは恋をしないと決めている。平和な時代を知ってるからこそ分かる。こんな戦乱の世で、恋をするなんてリスクしかない。

誰と結婚するか分からないんだもの。結婚する相手を愛せるように……独身の間は、絶対に誰も好きにならない。たとえ婚約していても、マシュー様みたいな事もあるんだから……結婚するまで誰も好きになっては駄目。

そうしないと、余計な苦しみを味わう事になる。わたくしは、恋はしない。しないって……決めてたのに……なんでこんな気持ちになるのよっ……。
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