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「俺を養子にしたのは、ガンツ様のご厚意ですよ。俺が伯爵家を継ぐなんてあり得ません。俺は粗野だからと家で疎まれてましてね。腕っぷしだけはありましたので戦場でむやみやたらに暴れて死にかけていたんです。そんな時、ガンツ様に拾われ、戦い方や礼儀作法を教えて頂きました。その上、俺が疎まれてるのを知ると、両親に話をつけて養子にして下さったんですよ。だから、俺が跡取り候補な訳ではありませんよ。ガンツ様は、リリア様やマリベル様が伯爵家を継げるように法整備を整えたのですから。俺なんかが、伝統あるレズリー伯爵家を継げる訳ありませんよ」

「それは、何故ですの?」

「俺は家族に疎まれるほどの乱暴者ですし、実家は領地もありません。身分が違い過ぎます」

「では、領地のない男爵家の子息であるリチャードは、身分が違いお母様に相応しくないと?」

「あ……! いや、そんなつもりではなかったのです!」

フィリップ様は、真っ青な顔で焦りはじめました。この時のわたくしは、少し頭に血が昇っておりました。フィリップ様にリチャードを否定された気がして、つい意地悪な言い方をしてしまいました。

フィリップ様に悪気はなかった。わたくしが勝手に、悪い方に捉えてしまっただけなのに。

「ごめんなさい。わたくし、意地悪を申しましたわ。どうかお詫びに、この菓子を召し上がって下さいまし」

「いや……そんな……。悪いのは俺なのに……」

「分かっておりましたの。フィリップ様はリチャードが我が家に相応しくないなんて思ってらっしゃらないって。お祖父様が養子にする方が、そんな意地悪な方の筈ありませんもの。それなのに、フィリップ様を疑ってしまいました。お母様には、どうしてもお幸せになって欲しくて……」

「分かります。リリア様とは何度かお会いした事がありますけど、あんなにお幸せそうに微笑まれているお姿は初めて拝見しました。リチャード様は、リリア様に相応しい素晴らしい男性です」

「フィリップ様もお祖父様が養子になさるくらい素晴らしい男性ですわ。お祖父様は、同情だけで人を懐に入れたりなさいません。だから、フィリップ様もご自分の事を乱暴者だなんて仰らないで下さいまし。わたくし、フィリップ様とは初対面ですけど、とても誠実でお優しい方だと思いますわ」

「しかし、俺は家族に疎まれていました」

「あら、わたくしもお父様に疎まれておりましたわ。殴られたり、水をかけられたり罵倒されたり。でも、わたくしは自分に価値がないなんて思いません。フィリップ様も、お祖父様がお認めになる程自分は素晴らしい人間なんだと威張ってよろしいと思いますわよ」

「こんな可憐な令嬢に……なんて事を……」

「そんなに怒ってくださるなんて、フィリップ様は初対面のわたくしを慮って下さるお優しい方ですね」
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