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26.一緒に食べよう

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「ジーナ、今日は午後からお休みしてね」

「え、ええっ?! お仕えしたばかりですのに?!」

「うん。僕、今日から予定を増やしたんだ。午前中は騎士団に行くから侍女服を着て付いてきて。午後からは家庭教師が来るから、ジーナは休み。分かった?」

「承知しました」

「これ、僕の好きな本なんだけど、興味あるなら休みの間に読んでみる?」

「はい! 嬉しいです! ありがとうございます!」

『ホントに喜んでる?! こんな事で良いんだ。ありがとう、フィリップ、ライアン!』

「じゃあ、すぐ準備してくれる? 最初だし、遅刻するなんて良くないし」

「はいっ! すぐに着替えて参りますわ!」

『遅刻しても咎められたりしないのに、なんて真面目な方なのかしら。わたくしのせいでお待たせしないように、急いで準備しないと』

「あ、急がなくて良いよ。まだ時間あるし。女性は、準備に時間がかかるもんね。二時間後に部屋を出る予定だから、ゆっくり準備して」

『なんてお優しいの?! やっぱりなんだかんだと女性の扱いに慣れてらっしゃるのね。素敵だわ! そういえば、昨夜疲れた様子のお兄様が訪ねて来てケネス殿下に恋人はいらっしゃらないといって帰って行ったけど、お兄様が知らないだけで愛する方がいらっしゃるのではないかしら?』

フィリップの努力は実らず、ジーナは勘違いを加速させた。ライアンから指導されたケネスの振る舞いが、女性に慣れていると判断されてしまう。

男達の努力は、ジーナには届いていない。

「ケネス殿下は、お優しいですね」

『こ、これは良い反応なのでは?! さすがライアン!』

だが、ケネスは気が付かない。

「そ、そんな事ないよっ! じゃあ、僕は部屋に居るから。朝食ちゃんと食べた?」

「まだですわ」

「ちゃんと食べてきてよ! 昨日だって結局携帯食しか食べてないでしょ?」

「はい。申し訳ありません」

『予想通りか……ライアン凄い……なんだか悔しいけど、僕も、もっとジーナの事を分かるようになりたいな』

「もう! 次から僕と一緒に食事してよ! 分かった? ちょっと面倒かもしれないけど、食器は用意させるから! 僕の食事、いつも多くて困ってるの! 一緒に食べて?」

『ライアンから、こう言えばジーナは一緒に食事してくれるって……ちょっとコック達に嫌味を言われるかもしれないけど、食器を用意して貰うくらい出来るよね? 僕はいつも一人でご飯を食べてるし、量も多いから分ければ僕のダイエットにもなるし、ジーナとも話せるし……』

「承知しました。では、ご面倒をおかけしないようにわたくしの食器を用意しておきますわ。兄が今朝届けてくれましたの。次の食事からお持ちして、ご一緒致しますね。部屋で洗いますので、コック達に咎められる事はありませんわ」

『フィリップに食器を用意するように言ったの、ライアンだよね?! 僕の弟凄い! 後でお礼を言っておこう』

『コックにも気を遣うケネス殿下は素晴らしいけど、あんな人達を気遣う価値はないわ。今朝だって、自分達の賄いの後にケネス殿下の食事を用意したのよ?! あり得ないっ!! 咎めたかったけど、お兄様からしばらくは大人しくしておけって言われてるし……確かに情報収集する上では警戒されるとまずいのよね。でも、やっぱり腹が立つわ。顔を覚えたかったのに、ちゃんと見えなくて声しか覚えられないし。目が悪くても良いと思ってたけど、ケネス殿下にお仕えするとなると不便ね。顔も覚えられないと厳しいわ。眼鏡、どうにかして買おうかしら……でも、わたくしが自由にできるお金はないし……』

噛み合うようで噛み合わない2人は、お互いを大事にしているのだけは間違いない。

「朝ごはん食べないならお昼を早めにするから、一緒に食べる?」

「はい!」

嬉しそうなジーナを見て、ケネスの心臓は早鐘を打っていた。
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