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11.失礼な侍女
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ケネスに仕える事を許されたジーナは、嬉しさのあまりとにかくケネスの世話を焼こうとした。
だが、ケネスからことごとく拒否されてしまう。着替えの手伝いをしようとしたが、自分で出来ると部屋を追い出されてしまった。
部屋から追い出されて落ち込んでいたジーナは、見知らぬ侍女に話しかけられた。
「あなた、新しいメイド?」
「はい、ケネス殿下のお世話を申し付けられました。ジーナと申します。よろしくお願いします」
『王太子殿下から、わたくしが伯爵令嬢である事は内密にと言われているから……家名は名乗らないようにしないと』
メイドは、ほとんどが平民だ。平民は家名を持たないので、ジーナは名前だけを名乗る事にした。侍女はマナー等を予め知っている方が都合が良いという理由で貴族の子女が多い。城の使用人は実力主義で、メイドとして雇われた平民が実力を認められて王妃の侍女のリーダーをしていたりもする。だが、プライドのある貴族は侍女の方が偉いと考える者も多い。侍女が優遇されている訳ではなく、業務内容や能力で給金が決められているので侍女よりも給金の高いメイドも多数居る。それが許せない侍女は、全てのメイドを虐げる事で自身のプライドを保とうとする。
ジーナに話しかけた侍女は、日常的にメイドを虐げていた。クビになったケネスのメイドは、彼女の配下となりメイドの情報を流す事で虐めを逃れていたので、新しく来たジーナを利用しようと偵察にきていた。
「そ、あのメイド、ついにクビになったんだ。ってか、生きてんのかな? 処刑されたとは聞かなかったけど……」
「前任の方をご存知なのですか?」
「ええ、よーく知ってるわ。だから、貴女もわたくしの言う事を聞きなさい。あの駄目王子に仕えるなんて大変だものね。仕事を教えてあげる」
「……ケネス殿下は素晴らしい方ですわ。ですが、わたくしは昨日雇われたばかりです。仕事をご教授下さいませ」
『悪意がある言い方ですわね。許せません。だけど、今は情報を集める必要があります。なんとか上手くやりませんと』
ジーナは怒りを必死で抑えて、震える声で名前を名乗らない侍女に話しかけた。
「まず、貴女の給金は幾ら?」
「え……?」
『いきなり給金を聞きますか?! え……ど、どうしましょう。正直に給金はないと答えればよろしいのでしょうか。いや……それは怪しまれますわよね。でも、城のメイドの給金など知りませんわ! 高過ぎても怪しまれるし、安過ぎたら安く雇ったと殿下達が批判されても困ります。ああもう! 初対面でいきなり給金を聞いてくるとは思いませんでしたわ!!!』
「何よ、言えないの? 言えないくらい高いの? そういえばアンタ、言葉も身なりも綺麗だものね。どっかの商会のお嬢様かしら? さぞ高給で雇われたんでしょうね。だからあんな駄目王子すら褒めるの?」
「いえ……わたくしは商会の娘ではありません。給金は……その、まだお聞きしておりませんでしたので……」
「ふーん、普通は給金を提示されて仕事を決めるものではないの。どこのお嬢様よ」
「いえ……わたくしはお嬢様などでは……城ではこのような言葉遣いをしろと……言われました」
『なんなのこの人! 面倒過ぎるわ! どうしよう、わたくしこの人……苦手だわ。ニコラ、助けてっ!』
社交の得意な妹を呼びたい衝動に駆られたが、あいにくここには誰も居ないし、逃げる事も出来ない。
彼女を否定して、王族への不敬を訴えるのは簡単だ。だが、彼女1人を排除しても第二、第三の彼女が居る事は明確だから、情報収集の為にも彼女に気に入られる方が良い。
ジーナは、必死で頭を働かせた。
『わたくしはニコラにはなれない。でも、この方を上手くかわして、気に入られないと情報が得られないわ。彼女が求めているのはわたくしの給金を知る事……どうして、給金が知りたいの? 商会の娘じゃないかとか……何故、そんな事を聞くの?』
だが、ケネスからことごとく拒否されてしまう。着替えの手伝いをしようとしたが、自分で出来ると部屋を追い出されてしまった。
部屋から追い出されて落ち込んでいたジーナは、見知らぬ侍女に話しかけられた。
「あなた、新しいメイド?」
「はい、ケネス殿下のお世話を申し付けられました。ジーナと申します。よろしくお願いします」
『王太子殿下から、わたくしが伯爵令嬢である事は内密にと言われているから……家名は名乗らないようにしないと』
メイドは、ほとんどが平民だ。平民は家名を持たないので、ジーナは名前だけを名乗る事にした。侍女はマナー等を予め知っている方が都合が良いという理由で貴族の子女が多い。城の使用人は実力主義で、メイドとして雇われた平民が実力を認められて王妃の侍女のリーダーをしていたりもする。だが、プライドのある貴族は侍女の方が偉いと考える者も多い。侍女が優遇されている訳ではなく、業務内容や能力で給金が決められているので侍女よりも給金の高いメイドも多数居る。それが許せない侍女は、全てのメイドを虐げる事で自身のプライドを保とうとする。
ジーナに話しかけた侍女は、日常的にメイドを虐げていた。クビになったケネスのメイドは、彼女の配下となりメイドの情報を流す事で虐めを逃れていたので、新しく来たジーナを利用しようと偵察にきていた。
「そ、あのメイド、ついにクビになったんだ。ってか、生きてんのかな? 処刑されたとは聞かなかったけど……」
「前任の方をご存知なのですか?」
「ええ、よーく知ってるわ。だから、貴女もわたくしの言う事を聞きなさい。あの駄目王子に仕えるなんて大変だものね。仕事を教えてあげる」
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『悪意がある言い方ですわね。許せません。だけど、今は情報を集める必要があります。なんとか上手くやりませんと』
ジーナは怒りを必死で抑えて、震える声で名前を名乗らない侍女に話しかけた。
「まず、貴女の給金は幾ら?」
「え……?」
『いきなり給金を聞きますか?! え……ど、どうしましょう。正直に給金はないと答えればよろしいのでしょうか。いや……それは怪しまれますわよね。でも、城のメイドの給金など知りませんわ! 高過ぎても怪しまれるし、安過ぎたら安く雇ったと殿下達が批判されても困ります。ああもう! 初対面でいきなり給金を聞いてくるとは思いませんでしたわ!!!』
「何よ、言えないの? 言えないくらい高いの? そういえばアンタ、言葉も身なりも綺麗だものね。どっかの商会のお嬢様かしら? さぞ高給で雇われたんでしょうね。だからあんな駄目王子すら褒めるの?」
「いえ……わたくしは商会の娘ではありません。給金は……その、まだお聞きしておりませんでしたので……」
「ふーん、普通は給金を提示されて仕事を決めるものではないの。どこのお嬢様よ」
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