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32.三人の進む道
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「アラン……お前……騙したのか……?」
「お久しぶりです兄上。先に私を騙していたのは兄上でしょう? こんなものまで付けて……信じてたのに、残念ですよ」
「王族に戻りたいと泣いていたのも演技か?! ふざけるなよ! これじゃ……終わりじゃないか! いや待て……この会話は聞こえていない筈……」
「ドゥーラント王国に取り入って、内部から腐敗させ、取り込め。でしたね。ここは、多くの王族が集まる謁見の間です。結界魔法で誤魔化したおつもりでしょうけど兄上はカシム王太子殿下やリーリア王女には敵いませんよ。兄上の結界は無効化されています。見えておられないようですが、周りに多くの王族や国の要人がいらっしゃいますよ」
「ふざけるな! おい! お前! 国に帰るぞ! 転移魔法を使え!!! 早く! なぜ何も言わないんだ!」
「兄上、おかしいと思わなかったのですか? 転移魔法の使い手は各国で引く手数多です。全て私のせいにしたようですけど、兄上や父上が政敵を葬ったあの事件の後……転移魔法の使い手は他国に引き抜かれましたよね?」
「……うるさい! 邪魔な奴らを葬るチャンスがあったから葬っただけだ! アランが暴れたのは本当だろう! この男は私が直々に雇ったんだ! 王族に仕えられて嬉しいと言っていたぞ!」
「王族に仕える名誉を餌に、格安で雇おうとしたのでしょう? いつもの兄上なら疑っていた筈です。国が傾いて注意力がなくなってしまったのでしょうか? 転移魔法の使い手が、あんな端金で雇える筈ないんですよ」
「……まさか……」
「クライブ様の顔もちゃんと覚えていなかったのですね。兄上らしい。鎧を脱いでローブを着て、目を隠すだけで欺けるとは思いませんでした。次の手も考えていたのですが、無駄になってしまいましたね」
「……アラン……お前……私の地位を奪うつもりか……」
「いいえ。私は国に帰るつもりはありませんし、平民のまま一生を終えます。ただ……私は兄上に騙されたんです。借りは返しておきたいでしょう?」
「ふざけるな! なんの得もないのになんで……!」
「得だらけですよ。魔力を失って、迫害されてようやく気がついたんです。自分がいかに愚かだったのか。うちの国が、どれだけおかしかったのか。一部の人間が幸せになるのではなく、みんなが幸せになる方が良い。私は……アラン・ マクドナルド ・フィグはリーリア王女の考えに賛同します。差別をして得をするのは、上の人間ですよ。民の不満を逸らす為に、人にランクを付けるんです」
アランの訴えは、大きな波紋を呼んだ。アランの家族は、王族ではなくなってしまった。
アランは自身の死を偽造し、アラン・ マクドナルド ・フィグはこの世から消えた。
彼はただのアランとして、幸せに暮らしている。
「ここからね」
「ああ、ここからだ」
リーリアとクライブは、王族としての仕事をこなしながら自身の考えを訴え続けている。
邪魔が入ることもあるが、リーリアはめげずに人々に訴える。
「リーリア王女は魔力が多いのに、どうして魔力がない人の気持ちが分かるんですか?」
そんな風に言われることもある。だがリーリアは笑顔で人々に訴える。
「確かに今のわたくしには魔力がたくさんあるわ。けど、知ってるの。魔力が少ないと馬鹿にされて悔しかった気持ちも、悲しかった気持ちも。全部」
リーリアの訴えは人々の心を打ち、少しずつ、少しずつ人々の意識が変わり始めた。
長い時をかけて、リーリアとクライブは世界中を周り、訴え続けた。
そして、歳をとったリーリアに最後の時が訪れた。
「クライブ……わたくしもう駄目みたい」
「リーリア……俺もすぐ行くから」
「駄目よ。クライブはいっぱい生きて、お土産話を持ってきてちょうだい。……ねぇ、最後にあの虹を見せて」
クライブが魔法で創り出した虹は、とても美しいものだった。リーリアはクライブの作った虹を眺めながら、静かに目を閉じた。
リーリアの死後、クライブは長い間気落ちしていた。しかし周りに助けられて立ち直り、死ぬまで妻の言葉を人々に伝え続けた。
もうやり切ったと言い残してクライブは妻の元へ旅立った。
ひと組の夫婦が残した偉業は人々に影響を与え、夫婦の意思を継いだ人々が今も生き続けている。
「お久しぶりです兄上。先に私を騙していたのは兄上でしょう? こんなものまで付けて……信じてたのに、残念ですよ」
「王族に戻りたいと泣いていたのも演技か?! ふざけるなよ! これじゃ……終わりじゃないか! いや待て……この会話は聞こえていない筈……」
「ドゥーラント王国に取り入って、内部から腐敗させ、取り込め。でしたね。ここは、多くの王族が集まる謁見の間です。結界魔法で誤魔化したおつもりでしょうけど兄上はカシム王太子殿下やリーリア王女には敵いませんよ。兄上の結界は無効化されています。見えておられないようですが、周りに多くの王族や国の要人がいらっしゃいますよ」
「ふざけるな! おい! お前! 国に帰るぞ! 転移魔法を使え!!! 早く! なぜ何も言わないんだ!」
「兄上、おかしいと思わなかったのですか? 転移魔法の使い手は各国で引く手数多です。全て私のせいにしたようですけど、兄上や父上が政敵を葬ったあの事件の後……転移魔法の使い手は他国に引き抜かれましたよね?」
「……うるさい! 邪魔な奴らを葬るチャンスがあったから葬っただけだ! アランが暴れたのは本当だろう! この男は私が直々に雇ったんだ! 王族に仕えられて嬉しいと言っていたぞ!」
「王族に仕える名誉を餌に、格安で雇おうとしたのでしょう? いつもの兄上なら疑っていた筈です。国が傾いて注意力がなくなってしまったのでしょうか? 転移魔法の使い手が、あんな端金で雇える筈ないんですよ」
「……まさか……」
「クライブ様の顔もちゃんと覚えていなかったのですね。兄上らしい。鎧を脱いでローブを着て、目を隠すだけで欺けるとは思いませんでした。次の手も考えていたのですが、無駄になってしまいましたね」
「……アラン……お前……私の地位を奪うつもりか……」
「いいえ。私は国に帰るつもりはありませんし、平民のまま一生を終えます。ただ……私は兄上に騙されたんです。借りは返しておきたいでしょう?」
「ふざけるな! なんの得もないのになんで……!」
「得だらけですよ。魔力を失って、迫害されてようやく気がついたんです。自分がいかに愚かだったのか。うちの国が、どれだけおかしかったのか。一部の人間が幸せになるのではなく、みんなが幸せになる方が良い。私は……アラン・ マクドナルド ・フィグはリーリア王女の考えに賛同します。差別をして得をするのは、上の人間ですよ。民の不満を逸らす為に、人にランクを付けるんです」
アランの訴えは、大きな波紋を呼んだ。アランの家族は、王族ではなくなってしまった。
アランは自身の死を偽造し、アラン・ マクドナルド ・フィグはこの世から消えた。
彼はただのアランとして、幸せに暮らしている。
「ここからね」
「ああ、ここからだ」
リーリアとクライブは、王族としての仕事をこなしながら自身の考えを訴え続けている。
邪魔が入ることもあるが、リーリアはめげずに人々に訴える。
「リーリア王女は魔力が多いのに、どうして魔力がない人の気持ちが分かるんですか?」
そんな風に言われることもある。だがリーリアは笑顔で人々に訴える。
「確かに今のわたくしには魔力がたくさんあるわ。けど、知ってるの。魔力が少ないと馬鹿にされて悔しかった気持ちも、悲しかった気持ちも。全部」
リーリアの訴えは人々の心を打ち、少しずつ、少しずつ人々の意識が変わり始めた。
長い時をかけて、リーリアとクライブは世界中を周り、訴え続けた。
そして、歳をとったリーリアに最後の時が訪れた。
「クライブ……わたくしもう駄目みたい」
「リーリア……俺もすぐ行くから」
「駄目よ。クライブはいっぱい生きて、お土産話を持ってきてちょうだい。……ねぇ、最後にあの虹を見せて」
クライブが魔法で創り出した虹は、とても美しいものだった。リーリアはクライブの作った虹を眺めながら、静かに目を閉じた。
リーリアの死後、クライブは長い間気落ちしていた。しかし周りに助けられて立ち直り、死ぬまで妻の言葉を人々に伝え続けた。
もうやり切ったと言い残してクライブは妻の元へ旅立った。
ひと組の夫婦が残した偉業は人々に影響を与え、夫婦の意思を継いだ人々が今も生き続けている。
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