上 下
27 / 32

27.謀

しおりを挟む
「だから、この男は魔力無しなんです!」

声高にアランの声が響くと、8割程度の来賓がクライブに冷たい目を向けた。

「危うく騙されるところだったよ。我が国は国交を断絶する」

アランの兄がクライブに宣言した瞬間、笑い声が響いた。

「私が……魔力無しですか? そんなわけないでしょう。なんなら、魔法をお見せしましょうか?」

クライブは大きな虹を幻影魔法で創り出すと会場にざわめきが広がり、とある国の王族が声を上げた。

「クライブ殿の魔力の核は、虹色に輝いておりますぞ。こんなに美しい核を見たのは初めてです。彼が魔力無しなんてありえない。そもそも、魔力のない人などおりませぬ。少ない人はおりますが、全くないというのは聞いたことがない」

「う、うそだ! クライブは時を戻して……!」

「とうの昔に失われた魔法ですよね。そんなもの、私は使えませんよ。なんなら自白魔法を使って頂いても構いません。アラン様なら、自白魔法をお使いになれるのでは? このような事態ですし、彼が魔法を使ってもお咎めはないでしょう。ねぇ、国王陛下、王太子殿下」

「……いや……自白魔法なんて……」

「使ってやる! 見てろ!」

「アラン! やめろ!」

兄が止めるのも聞かず、クライブの挑発に乗ったアランは自白魔法を使用した。

「時を戻る魔法を使えるだろう! 白状しろ!!!」

「そんなもの使えませんよ」

自白魔法にかかった者特有の赤い目、操り人形のような動き、来賓はアランが自白魔法を使ったと信じた。

「う……嘘だ! お前は、リーリアが好きだろう! だからあいつを助ける為に魔法を……!」

「リーリアの事は世界一愛しています。リーリアの為なら、どんな魔法も使いますよ」

「だから! 時を戻す魔法を使えるのだろう!」

「使えませんよ」

「嘘だ! あの時、お前はリーリアと消えた! 僕がリーリアの家族を殺したから! 時を戻して家族を救おうとしたんだろう!! 時を戻す魔法を使えるはずだ! 吐け!」

「リーリアの家族はみな生きています。私は時を戻す魔法なんて使えませんよ」

「う、嘘だ……嘘だ嘘だ!」

アランの魔法が暴走して、クライブの自白魔法が解けたように周りには見えた。

「……記憶が曖昧なのですが……なにが起きたのでしょうか?」

クライブは魔法が解けたふりをした。親切な王族が、クライブに一部始終を説明する。

「なるほど。私が魔法を使えないと思われたのですね。幻影魔法では証拠が薄いですかね。すぐ戻って参ります」

クライブは転移魔法を使い、消えた。転移魔法まで使える人物を魔力なしと罵倒したアランに厳しい視線が向けられる。

慌ててアランを退室させようと王太子達が動き出したが、すぐにクライブがリーリア達を連れて戻って来た。

「アラン様はどのような意図があってわたくしの大切な婚約者を侮辱するんですの?」

「リーリア王女……違うんだ……息子の勘違いで……」

国王は、謝るしかできない。王太子は歯軋りをしながら弟を睨みつけている。

「勘違いで国交を断絶されたらかなわないね。父上、いっそこちらから縁を切ったらどうですか?」

「ああ、そうさせてもらう。我々の未来の家族が侮辱されたんだ。今までのお付き合いには感謝するが、今後は我が国と関わらないで頂きたい。そちらの王太子殿下が既に宣言してくれたようだが、我が国もフィグ王国との国交を断絶させて頂きますよ」

「ま……待ってくれドゥーラント王……」

「こうなった理由の報告と、正式な謝罪を頂くまではフィグ王国とは関わりません。それだけの事をなさったと、理解しておられるでしょう? それではみなさん、失礼致します。ああそうだ、こんな空気の悪いところ、いたくないでしょう。クライブ、良かったら希望する方は送って差し上げてはどうだ?」

「良いですね。私は魔力が多いので、ここにいる皆様くらいならお送りできますよ」

「疲れたらわたくしが魔力をクライブにあげるわ」

「それでしたらお付きの方もお送りできるでしょうね」

呼ばれた王族達は、緊急だったので全員転移魔法で来ていた。自国に転移魔法の使い手がいない国は、フィグ王国が転移魔法を使った。フィグ王国は転移魔法の使い手が3人もいるのが自慢だった。

その3人が1日がかかりで送った人員をクライブはリーリアから魔力を貰いながら1時間程度で送り届けてしまった。

国王や王太子がフィグ王国が送ると言っても、誰も首を縦に振らなかった。
どこに送られるかわかったものじゃないと言った者もいたが、反論はできなかった。

彼等は、呆然とするアランを追い出す事しか出来ず、多くの国の要人の前で恥を晒した。

最後にクライブ達が消えると、国王と王太子の怒鳴り声が城中に木霊した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」  十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。  だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。  今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。  そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。  突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。  リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?  そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?  わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

処理中です...