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23.兄と弟
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「アラン、とんでもない事をしてくれたな。国交を断絶されたらどう責任を取るつもりだ!」
「うちの方が大きな国なんですから、そんな事したら困るのは向こうです」
「……はぁー……お前は今まで何を勉強してきたんだ! 確かに10年前はうちの方が力があった。お前の失態くらい、黙らせられただろう。しかしな、今は違う。国力は同じか、うちが下だ!! しかもリーリア王女は、国王や王太子が溺愛しているんだぞ! それだけじゃない! あの男……いや、クライブ殿は今や各国が欲しがる優秀な騎士だっ! 彼ひとりで、何人分の強さがあると思ってるんだ! 彼は直接魔法を使うのは苦手だが、防護魔法は超一流で魔法の知識も豊富だ! そんな彼が魔力なしだと! とんでもない侮辱じゃないか! リーリア王女はかなり怒っておられたぞ! お前は国を滅ぼすつもりかっ!」
「はぁ? あの女は怒ってませんよ。ヘラヘラ笑っていたじゃないですか」
「……お前は……言葉の裏すら読めないのか……?」
「兄上はなにか勘違いをしておられます。この国は本当は私のものなんです」
幸せそうに微笑むリーリアとクライブを見て、アランのなにかが崩れていった。
弟の異変を感じ取った兄は、根気強く話を聞いた。そして、弟が未来を知っていると理解した。
クライブが失われた魔法を使い、魔力なしになった。魔力なしは何百年も存在していない。差別意識を持つ者も多い。
アランの兄も、そうだった。先ほどまで尊敬し、恐れていた男を急に蔑むようになった。
「……確かに……それならクライブ殿……いや、クライブは魔法が使えない……魔力なしだ……」
「そうなんです! 確かに以前は魔法が得意な強い騎士でした! しかし今は……!」
「ふむ。確かにそれならこの国はアランのものだ」
「兄上! やっと分かって下さったのですね!」
「しかし、彼は防護魔法が得意だ。それはどう説明する?」
「おそらく、誰かの助けを借りているのではないでしょうか?」
「防護魔法しか使えないのも……魔力なしなら説明がつくか……事前に誰かに防護魔法をかけてもらっているだろう」
「王太子は魔法が得意だと聞いています。以前も、強固な防護魔法でリーリアを守っていました」
「そうか。カシム殿が魔法でサポートしているのだろうな。彼は妹に甘いらしいし、リーリア王女に泣きつかれたのだろう」
「リーリアは魔法が苦手です」
「そんな話は聞いてないぞ」
「……少しは練習したんですかね?」
「そうかもしれんな。得意とも聞いておらんが、苦手とも聞いてない。魔法が苦手な王族はすぐに噂が回るからな。リーリア王女は、過去を反省し少しは修行したのかもしれぬ」
「あいつはわがままで国中から嫌われていました。幼児が使える魔法も出来ない、出来損ないでしたよ」
「ふむ。ならリーリア王女がクライブに防護魔法を使っているとは思えぬな。カシム殿の魔法が強力でも、防護魔法ならば1週間は保つまい。カシム殿とクライブを引き離し、魔力なしだと公表してしまえば、信頼はガタ落ちだ。アランが国王になれるぞ。可愛い弟の為だ、いくらでも協力してやろう」
「兄上! ありがとうございます!」
追い越せなかった兄が、自分の為に力を貸してくれる。アランは嬉しくなり、自身の計画を矢継ぎ早に話し始めた。
アランの計画を聞いた兄は、密かに弟をコントロールすると決めた。
「目立つ事はするな。今は誠実な態度を心がけろ。アランは見目も良く、女性に人気ではないか。お前が優しくすればどんな女性もお前に身を任せるだろう。上手くリーリア王女に取り入れ。失われた術式か……ぜひ欲しいな。魔力なしになるので私は使えないが、他にやりようはいくらでもある。アラン、リーリア王女とクライブ、どちらが術を覚えていると思う?」
「きっとクライブです。過去のリーリアは魔法がとても苦手でしたから」
「そうか……確かあの男はコーエン侯爵家の養子だったな」
「以前は実子でした」
「おそらく魔力なしの赤ん坊が生まれたので出生を隠していたのだろうな。よし、私は詳しくあの男を調べておく。良いかアラン、焦るなよ。事を起こす前には必ず私に相談してくれ。私は弟が心配なんだ」
「兄上……分かりました! お約束します!」
一度も聞いた事のない兄の優しい言葉に、アランの心は高揚した。兄は優しく弟を抱きしめた。
嬉しくて嬉しくて……アランはすっかり忘れていた。
過去の兄はアランを駒として扱っていた。
民には優しいが、身内には厳しい。それが不満でアランは国の乗っ取りを画策した。今もアランを抱きしめながら、兄は不敵な笑みを浮かべている。
「うちの方が大きな国なんですから、そんな事したら困るのは向こうです」
「……はぁー……お前は今まで何を勉強してきたんだ! 確かに10年前はうちの方が力があった。お前の失態くらい、黙らせられただろう。しかしな、今は違う。国力は同じか、うちが下だ!! しかもリーリア王女は、国王や王太子が溺愛しているんだぞ! それだけじゃない! あの男……いや、クライブ殿は今や各国が欲しがる優秀な騎士だっ! 彼ひとりで、何人分の強さがあると思ってるんだ! 彼は直接魔法を使うのは苦手だが、防護魔法は超一流で魔法の知識も豊富だ! そんな彼が魔力なしだと! とんでもない侮辱じゃないか! リーリア王女はかなり怒っておられたぞ! お前は国を滅ぼすつもりかっ!」
「はぁ? あの女は怒ってませんよ。ヘラヘラ笑っていたじゃないですか」
「……お前は……言葉の裏すら読めないのか……?」
「兄上はなにか勘違いをしておられます。この国は本当は私のものなんです」
幸せそうに微笑むリーリアとクライブを見て、アランのなにかが崩れていった。
弟の異変を感じ取った兄は、根気強く話を聞いた。そして、弟が未来を知っていると理解した。
クライブが失われた魔法を使い、魔力なしになった。魔力なしは何百年も存在していない。差別意識を持つ者も多い。
アランの兄も、そうだった。先ほどまで尊敬し、恐れていた男を急に蔑むようになった。
「……確かに……それならクライブ殿……いや、クライブは魔法が使えない……魔力なしだ……」
「そうなんです! 確かに以前は魔法が得意な強い騎士でした! しかし今は……!」
「ふむ。確かにそれならこの国はアランのものだ」
「兄上! やっと分かって下さったのですね!」
「しかし、彼は防護魔法が得意だ。それはどう説明する?」
「おそらく、誰かの助けを借りているのではないでしょうか?」
「防護魔法しか使えないのも……魔力なしなら説明がつくか……事前に誰かに防護魔法をかけてもらっているだろう」
「王太子は魔法が得意だと聞いています。以前も、強固な防護魔法でリーリアを守っていました」
「そうか。カシム殿が魔法でサポートしているのだろうな。彼は妹に甘いらしいし、リーリア王女に泣きつかれたのだろう」
「リーリアは魔法が苦手です」
「そんな話は聞いてないぞ」
「……少しは練習したんですかね?」
「そうかもしれんな。得意とも聞いておらんが、苦手とも聞いてない。魔法が苦手な王族はすぐに噂が回るからな。リーリア王女は、過去を反省し少しは修行したのかもしれぬ」
「あいつはわがままで国中から嫌われていました。幼児が使える魔法も出来ない、出来損ないでしたよ」
「ふむ。ならリーリア王女がクライブに防護魔法を使っているとは思えぬな。カシム殿の魔法が強力でも、防護魔法ならば1週間は保つまい。カシム殿とクライブを引き離し、魔力なしだと公表してしまえば、信頼はガタ落ちだ。アランが国王になれるぞ。可愛い弟の為だ、いくらでも協力してやろう」
「兄上! ありがとうございます!」
追い越せなかった兄が、自分の為に力を貸してくれる。アランは嬉しくなり、自身の計画を矢継ぎ早に話し始めた。
アランの計画を聞いた兄は、密かに弟をコントロールすると決めた。
「目立つ事はするな。今は誠実な態度を心がけろ。アランは見目も良く、女性に人気ではないか。お前が優しくすればどんな女性もお前に身を任せるだろう。上手くリーリア王女に取り入れ。失われた術式か……ぜひ欲しいな。魔力なしになるので私は使えないが、他にやりようはいくらでもある。アラン、リーリア王女とクライブ、どちらが術を覚えていると思う?」
「きっとクライブです。過去のリーリアは魔法がとても苦手でしたから」
「そうか……確かあの男はコーエン侯爵家の養子だったな」
「以前は実子でした」
「おそらく魔力なしの赤ん坊が生まれたので出生を隠していたのだろうな。よし、私は詳しくあの男を調べておく。良いかアラン、焦るなよ。事を起こす前には必ず私に相談してくれ。私は弟が心配なんだ」
「兄上……分かりました! お約束します!」
一度も聞いた事のない兄の優しい言葉に、アランの心は高揚した。兄は優しく弟を抱きしめた。
嬉しくて嬉しくて……アランはすっかり忘れていた。
過去の兄はアランを駒として扱っていた。
民には優しいが、身内には厳しい。それが不満でアランは国の乗っ取りを画策した。今もアランを抱きしめながら、兄は不敵な笑みを浮かべている。
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