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22.再会
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「おめでとうございます」
笑顔を貼り付けた貴族達、あからさまに値踏みするような視線を向ける王族達。数々の下世話な視線を優雅にかわしながら、リーリアはクライブと共に過ごす時間を楽しんでいた。
「ダンスの時間ね。踊りましょ。それでは、失礼します」
リーリアをダンスに誘おうとした貴族の少年は誘いの言葉を言う事すらできなかった。
「リーリア様、よろしかったのですか?」
「いいの。それより呼び捨てにしてよ。敬語もいらない。クライブはわたくしの婚約者なのよ」
「失礼しました。リーリア、良かったのか? 彼は公爵家の跡取りだぞ」
「わたくしが他の男性と踊っても良いの?」
「……そりゃ、嫌だけどさ。社交なんだし……」
「分かってるわよ。あとで彼とも踊るわ。でも、最初はクライブと踊りたかったの。最後も貴方が良いわ。クライブもご令嬢達と踊ってね。狙い目は王族よ。上手く味方を増やしてちょうだい」
「ああ、分かってる」
「見惚れるのはナシだからね!」
「リーリアが一番綺麗だよ」
「……ちょ……!」
ステップが乱れたリーリアを、クライブがさりげなくフォローする。リーリアの失敗は、誰にも気付かれなかった。
「それじゃ、お互い頑張ろうぜ」
「もう……! あとで覚えてなさいよ!」
(婚約者になってから垣根がなくなったのは嬉しいけど、積極的になったから心臓がもたないわ)
リーリアの表情は多くの男性を虜にし、女性達は王女様を夢中にさせた騎士に興味津々だ。
「クライブ様、踊ってくださいまし」
「わたくしも!」
「わたくしもお願いします!」
面白くないけど、仕方ない。気持ちを切り替えたリーリアが先程別れた公爵の子息と踊り終わると、目の前に見覚えのある男が現れた。
「はじめましてリーリア王女。噂通りお美しい。一曲踊って頂けませんか?」
「アラン王子……」
「おや、私をご存知でしたか?」
「ええ、肖像画を拝見した事がありますの。お噂通り、お美しいお方ですわね。一曲、よろしくお願いします」
リーリアとアランが踊り出すと、カシムとクリストファーが密かに魔法を使い群衆に紛れた。
クライブも令嬢とのダンスを上手く切り上げ、カシム達と合流する。
クライブとリーリアの過去を知るのは家族のみなので協力者を募る事はできなかったのだ。
リーリアは不安を抱えながらダンスを始めた。
「ねぇ、どうして彼と婚約したの?」
「クライブとは、子どもの頃に会ったんです。わたくしが一目惚れしてしまって」
「……ふうん。それっていつの話? 教えてよ」
リーリアの背筋に、一筋の汗が流れる。アランの笑みは恐ろしく、なにかを探っているように見えた。
「子どもの頃です。いつだったか忘れてしまいました」
「……そう。てっきり塔の中かと思ったよ」
リーリアの手が少し強張ったのを、アランは見逃さなかった。
「君の婚約者は、魔力なしだよね?」
「……どうしてそう思われるんですの?」
「だって、そうだろう!」
年上のアランがリーリアを怒鳴りつけると、アランの兄が慌てて飛んで来た。
「アラン、なにしてるんだ! 失礼しましたリーリア王女。弟は体調が優れないようです」
「まぁ、それは大変ですわ。すぐに部屋を用意させます。本日は、わたくしの婚約発表に来て頂き誠にありがとうございました」
「……お前っ……!」
「アラン、もう喋るな。我が国はリーリア王女とクライブ殿の婚約を心から祝福致します」
「光栄ですわ。今後とも友好的なお付き合いができるようご配慮頂ければ幸いです」
にっこりと微笑むリーリアの言葉の裏を察した王太子は、急いで弟を会場から出した。
笑顔を貼り付けた貴族達、あからさまに値踏みするような視線を向ける王族達。数々の下世話な視線を優雅にかわしながら、リーリアはクライブと共に過ごす時間を楽しんでいた。
「ダンスの時間ね。踊りましょ。それでは、失礼します」
リーリアをダンスに誘おうとした貴族の少年は誘いの言葉を言う事すらできなかった。
「リーリア様、よろしかったのですか?」
「いいの。それより呼び捨てにしてよ。敬語もいらない。クライブはわたくしの婚約者なのよ」
「失礼しました。リーリア、良かったのか? 彼は公爵家の跡取りだぞ」
「わたくしが他の男性と踊っても良いの?」
「……そりゃ、嫌だけどさ。社交なんだし……」
「分かってるわよ。あとで彼とも踊るわ。でも、最初はクライブと踊りたかったの。最後も貴方が良いわ。クライブもご令嬢達と踊ってね。狙い目は王族よ。上手く味方を増やしてちょうだい」
「ああ、分かってる」
「見惚れるのはナシだからね!」
「リーリアが一番綺麗だよ」
「……ちょ……!」
ステップが乱れたリーリアを、クライブがさりげなくフォローする。リーリアの失敗は、誰にも気付かれなかった。
「それじゃ、お互い頑張ろうぜ」
「もう……! あとで覚えてなさいよ!」
(婚約者になってから垣根がなくなったのは嬉しいけど、積極的になったから心臓がもたないわ)
リーリアの表情は多くの男性を虜にし、女性達は王女様を夢中にさせた騎士に興味津々だ。
「クライブ様、踊ってくださいまし」
「わたくしも!」
「わたくしもお願いします!」
面白くないけど、仕方ない。気持ちを切り替えたリーリアが先程別れた公爵の子息と踊り終わると、目の前に見覚えのある男が現れた。
「はじめましてリーリア王女。噂通りお美しい。一曲踊って頂けませんか?」
「アラン王子……」
「おや、私をご存知でしたか?」
「ええ、肖像画を拝見した事がありますの。お噂通り、お美しいお方ですわね。一曲、よろしくお願いします」
リーリアとアランが踊り出すと、カシムとクリストファーが密かに魔法を使い群衆に紛れた。
クライブも令嬢とのダンスを上手く切り上げ、カシム達と合流する。
クライブとリーリアの過去を知るのは家族のみなので協力者を募る事はできなかったのだ。
リーリアは不安を抱えながらダンスを始めた。
「ねぇ、どうして彼と婚約したの?」
「クライブとは、子どもの頃に会ったんです。わたくしが一目惚れしてしまって」
「……ふうん。それっていつの話? 教えてよ」
リーリアの背筋に、一筋の汗が流れる。アランの笑みは恐ろしく、なにかを探っているように見えた。
「子どもの頃です。いつだったか忘れてしまいました」
「……そう。てっきり塔の中かと思ったよ」
リーリアの手が少し強張ったのを、アランは見逃さなかった。
「君の婚約者は、魔力なしだよね?」
「……どうしてそう思われるんですの?」
「だって、そうだろう!」
年上のアランがリーリアを怒鳴りつけると、アランの兄が慌てて飛んで来た。
「アラン、なにしてるんだ! 失礼しましたリーリア王女。弟は体調が優れないようです」
「まぁ、それは大変ですわ。すぐに部屋を用意させます。本日は、わたくしの婚約発表に来て頂き誠にありがとうございました」
「……お前っ……!」
「アラン、もう喋るな。我が国はリーリア王女とクライブ殿の婚約を心から祝福致します」
「光栄ですわ。今後とも友好的なお付き合いができるようご配慮頂ければ幸いです」
にっこりと微笑むリーリアの言葉の裏を察した王太子は、急いで弟を会場から出した。
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