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8.タイムリープ
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「やぁ、久しぶり。最近はどうだい?」
「穏やかに暮らしておりますわ。離縁して頂き、感謝しております」
「ふぅん……。そう」
怪しげに微笑む国王と、リーリアとクライブ。たった3人しかいない謁見の間は、深い闇に包まれていた。
時刻は深夜3時。
国王の命令で、リーリアを謁見の間に連れて行ったクライブはひっそりと魔力を練り上げていた。時を戻るには多くの魔力が必要になる。
リーリアがクライブの記憶を望んだ事で、必要な魔力は跳ね上がっていた。
(リーリア様の望みだ……叶えるしかあるまい……なんとか……魔力の核だけは残すんだ……)
目の前の敵を欺く魔力も必要になる。リーリアの魔力が予想以上に上がったので、なんとかなるかもしれないとクライブは必死で計算を続けていた。
「ねぇリーリア。僕の目を見て」
国王はリーリアに自白魔法をかけた。リーリアは、予定通り幻術魔法で自白魔法にかかった振りをする。
「……かかったね。さぁリーリア教えて。王位に興味はある?」
「ありませんわ」
「じゃあ、クライブと共に城を出て、2人で穏やかに暮らせるとしたらどう?」
「最高ですわね」
「クライブ、うまく口説いたね」
「……リーリア様の目の前でそのような事は……」
「大丈夫。自白魔法を使った記憶は消えるから。あーそっか、だからクライブも戸惑ってるんだね。知ってるよ。君がリーリアに執着してる事も、彼女を愛してる事も、彼女を自分だけのものにしたいと思ってる事もね。家とお金をあげる。2人で暮らすと良い。もちろんこの部屋で起きた事は忘れてね。そうすればリーリアと幸せに暮らせるよ。その前に……リーリア、クライブと共に椅子に魔力を流せ」
リーリアは不安そうに、クライブを見つめた。
「魔法が効いていないのか?! お前はクライブが好きだろう?!」
「はい。わたくしはクライブを愛しておりますわ」
「だったら、ここに魔力を流せ。そうすればクライブと2人きりで幸せに過ごせる」
「国王陛下……? なぜ魔力を……?」
「クライブ、お前の主人は僕だろう?! この女をお前にやる! だから早く魔力を流せと命じろ!」
「理由をお聞かせ願えますか?」
「ちっ……! 理由など要らん!」
「理由を」
「くそっ! 2人に自白魔法は無理なんだよ! クライブはリーリアさえいれば良いのだろう?!」
「ええ。国に興味はありません。早く理由を」
一歩も引かないクライブに苛立った国王は椅子を蹴り上げた。大きな音が部屋に響き渡る。
「この椅子には封印が施されている! リーリアが心から愛した男と共に魔力を流せば封印が解ける! でないと僕が本当の王になれないんだよっ! 私はまだ、アラン・ マクドナルド ・フィグだ! ドゥーラント王家の名を継げていない!」
「なるほど、そういう事でしたか」
もうすぐ行われる、正式な即位の儀式。王の証である王冠と杖、そして椅子。その三つに魔力を流し、虹色に輝けば王と認められる。基本的に、魔力さえ流せば良く認められない事などない。あくまでも形式的なものだ。
しかし、他国の王族をたくさん招いて行われる儀式は、本当の王になる為に必ず必要な儀式。虹色に光らなければ大失態。あっという間に世界中に醜聞が広がるだろう。失敗は許されない。
大切な儀式で必ず使う椅子に、リーリアの父は封印を施した。
リーリアが認めた者と共に魔力を流さないと、椅子は決して輝かない。虹色の光は幻影魔法でも再現できない。虹は出せても、輝く虹は無理なのだ。唯一無二の光は王になる証として代々使われている。光らせるには封印を解くしかない。アランは封印を解く為リーリアを手懐けようとした。だが、どれだけ優しくされてもリーリアは決してアランに心を開かなかった。
そこで、利用されたのがクライブだ。
アランはリーリアとクライブが幼い頃に一度だけ会った事も、クライブが誰にも忠誠を誓わない事も、リーリアの為に国に帰ってきた事も知っていた。
リーリアを閉じ込めた塔の警備にクライブを指名したのも、2人を引き合わせようと思ったからだ。
アランの思惑通り2人は再会して惹かれあった。
だが、アランは知らなかった。クライブとリーリアの目的を。
「リーリア様。ここに魔力を流せば我々は自由です。やりましょう」
「クライブが言うなら、やるわ」
これでやっと思い通りだ。兄達から馬鹿にされる事もなく、自分の城を手に入れられる。
アランは、輝かしい未来を信じて疑わなかった。
「リーリア様。いきますよ。やっとご家族に会えますね」
「ええ、クライブ。絶対また会いましょうね。約束よ」
「はい。約束です」
クライブが、全ての魔力を解き放った。リーリアの魔力も吸われていく。何かがおかしいと気が付いたアランは叫び声を上げたがすぐにかき消され、空間が歪んでいった。
「リーリア様、愛しています。どうか、今度こそ幸せな人生を」
時を戻る寸前に呟いたクライブの声は、確かにリーリアに届いていた。
「穏やかに暮らしておりますわ。離縁して頂き、感謝しております」
「ふぅん……。そう」
怪しげに微笑む国王と、リーリアとクライブ。たった3人しかいない謁見の間は、深い闇に包まれていた。
時刻は深夜3時。
国王の命令で、リーリアを謁見の間に連れて行ったクライブはひっそりと魔力を練り上げていた。時を戻るには多くの魔力が必要になる。
リーリアがクライブの記憶を望んだ事で、必要な魔力は跳ね上がっていた。
(リーリア様の望みだ……叶えるしかあるまい……なんとか……魔力の核だけは残すんだ……)
目の前の敵を欺く魔力も必要になる。リーリアの魔力が予想以上に上がったので、なんとかなるかもしれないとクライブは必死で計算を続けていた。
「ねぇリーリア。僕の目を見て」
国王はリーリアに自白魔法をかけた。リーリアは、予定通り幻術魔法で自白魔法にかかった振りをする。
「……かかったね。さぁリーリア教えて。王位に興味はある?」
「ありませんわ」
「じゃあ、クライブと共に城を出て、2人で穏やかに暮らせるとしたらどう?」
「最高ですわね」
「クライブ、うまく口説いたね」
「……リーリア様の目の前でそのような事は……」
「大丈夫。自白魔法を使った記憶は消えるから。あーそっか、だからクライブも戸惑ってるんだね。知ってるよ。君がリーリアに執着してる事も、彼女を愛してる事も、彼女を自分だけのものにしたいと思ってる事もね。家とお金をあげる。2人で暮らすと良い。もちろんこの部屋で起きた事は忘れてね。そうすればリーリアと幸せに暮らせるよ。その前に……リーリア、クライブと共に椅子に魔力を流せ」
リーリアは不安そうに、クライブを見つめた。
「魔法が効いていないのか?! お前はクライブが好きだろう?!」
「はい。わたくしはクライブを愛しておりますわ」
「だったら、ここに魔力を流せ。そうすればクライブと2人きりで幸せに過ごせる」
「国王陛下……? なぜ魔力を……?」
「クライブ、お前の主人は僕だろう?! この女をお前にやる! だから早く魔力を流せと命じろ!」
「理由をお聞かせ願えますか?」
「ちっ……! 理由など要らん!」
「理由を」
「くそっ! 2人に自白魔法は無理なんだよ! クライブはリーリアさえいれば良いのだろう?!」
「ええ。国に興味はありません。早く理由を」
一歩も引かないクライブに苛立った国王は椅子を蹴り上げた。大きな音が部屋に響き渡る。
「この椅子には封印が施されている! リーリアが心から愛した男と共に魔力を流せば封印が解ける! でないと僕が本当の王になれないんだよっ! 私はまだ、アラン・ マクドナルド ・フィグだ! ドゥーラント王家の名を継げていない!」
「なるほど、そういう事でしたか」
もうすぐ行われる、正式な即位の儀式。王の証である王冠と杖、そして椅子。その三つに魔力を流し、虹色に輝けば王と認められる。基本的に、魔力さえ流せば良く認められない事などない。あくまでも形式的なものだ。
しかし、他国の王族をたくさん招いて行われる儀式は、本当の王になる為に必ず必要な儀式。虹色に光らなければ大失態。あっという間に世界中に醜聞が広がるだろう。失敗は許されない。
大切な儀式で必ず使う椅子に、リーリアの父は封印を施した。
リーリアが認めた者と共に魔力を流さないと、椅子は決して輝かない。虹色の光は幻影魔法でも再現できない。虹は出せても、輝く虹は無理なのだ。唯一無二の光は王になる証として代々使われている。光らせるには封印を解くしかない。アランは封印を解く為リーリアを手懐けようとした。だが、どれだけ優しくされてもリーリアは決してアランに心を開かなかった。
そこで、利用されたのがクライブだ。
アランはリーリアとクライブが幼い頃に一度だけ会った事も、クライブが誰にも忠誠を誓わない事も、リーリアの為に国に帰ってきた事も知っていた。
リーリアを閉じ込めた塔の警備にクライブを指名したのも、2人を引き合わせようと思ったからだ。
アランの思惑通り2人は再会して惹かれあった。
だが、アランは知らなかった。クライブとリーリアの目的を。
「リーリア様。ここに魔力を流せば我々は自由です。やりましょう」
「クライブが言うなら、やるわ」
これでやっと思い通りだ。兄達から馬鹿にされる事もなく、自分の城を手に入れられる。
アランは、輝かしい未来を信じて疑わなかった。
「リーリア様。いきますよ。やっとご家族に会えますね」
「ええ、クライブ。絶対また会いましょうね。約束よ」
「はい。約束です」
クライブが、全ての魔力を解き放った。リーリアの魔力も吸われていく。何かがおかしいと気が付いたアランは叫び声を上げたがすぐにかき消され、空間が歪んでいった。
「リーリア様、愛しています。どうか、今度こそ幸せな人生を」
時を戻る寸前に呟いたクライブの声は、確かにリーリアに届いていた。
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