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3.新国王の命令
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クライブは、主人に先ほどの出来事を報告する。
寸分の狂いもなく、事実を淡々と告げるクライブに主人である国王は満足そうに微笑んだ。
「ふーん、あのわがまま姫がねぇ……」
「はい。家族の元へ行きたいと」
「ダメに決まってる。まだ役目を果たしてないんだから自由はないよ。もちろん、死ぬ権利もない」
リーリアは国王の妃だ。しかし、この男はリーリアを忌み嫌っている。
「はっ……」
「あーあ、でも面倒だな。あの子、長く持ちそうにないね」
クライブは黙って頭を下げる。歪んだ顔を、主人に見せない為に。
「思った以上にわがまま姫の評判が悪くてさぁ。関わりたいって男が誰もいないんだよね。表向き、僕の側妃ってのも良くないよねー。結婚しなきゃよかったかなぁ。でもそれだと僕らは簒奪者になっちゃうしさぁ。ねぇ、リーリアの評判はどうだったの?」
どう足掻いても立派な簒奪者だよ。
クライブは顔を伏せて国王に敬意を払うふりをしながら湧き上がる怒りを抑え込んだ。
騎士として腕を磨いたのも、どれだけ求められてもいつでも辞められる契約にしたのも、いつか自分の力が必要になった時すぐに動けるようにする為。
クライブが国に帰った時リーリアは既に幽閉されており国中の人々は新しい王を歓迎していた。
「はっ……私は留学しておりましたので詳しく存じませんが、かなり評判は悪かったようです」
「けどクライブ、君は違う。そうだよね?」
玉座から立ち上がった国王は、頭を下げたままのクライブの顎をさする。顔を上げたクライブの目をじっと見つめ、自白魔法を発動した。
目が赤く染まったクライブは、淡々と答える。
「……はい。私はリーリア様に好意を抱いております」
「偉い偉い。魔力はいるけど、やっぱりこの魔法は便利だね。ねぇ、クライブはリーリアが王になって欲しい?」
「いえ……リーリア様は国民に嫌われています。王になってもお辛いだけでしょう」
「なら、リーリアと共にどこかで静かに暮らせるとしたら、どう?」
「リーリア様が望むなら……」
「リーリアの意思は関係ない。クライブは、そんな穏やかな暮らしをしたい?」
「……はい」
「じゃあ、話は簡単だね」
国王がパチンと指を鳴らすと、クライブの瞳がいつもの青に戻った。
「命令だよ。リーリアを口説け。お前の為なら命を投げ出してもいいと思うくらい惚れさせろ。見張りは外してやる。お前がリーリアを見張れ。今回のようにリーリアが死のうとしたり、逃げようとすればお前もリーリアも死罪とする。これは王命だ」
「……かしこまりました。私は陛下の妃に手を出す事になってしまうのですが……よろしいのですか?」
「それはお互い不名誉だね。あの女と離縁しておくよ。もうこの国は僕らのものだし。騒ぎを起こして愛想が尽きた」
「そう……ですか」
「口説けと命じる理由は聞かないの?」
「聞いたところで教えて頂けないでしょう。私は騎士です。主人の命令に背いたりしません。それに……私はリーリア様に好意を抱いています。リーリア様と過ごす時間が増えるのは僥倖です」
「リーリアが好きなんでしょ? 私がリーリアを利用しようとしていると分かってるのにそんな事を言うんだ」
「陛下がリーリア様を嫌っているのは存じています。国中の男達がリーリア様を嫌っていてもおかしくないと思います。ですが……私は幼い頃のリーリア様しか知らないのです。あの時の彼女は、素直なお姫様でした」
「信じられないね。私はあの顔を見るだけで吐き気がするよ。造形は美しくても、中身は悪魔さ」
「では、私は悪魔に魅入られてしまったのでしょう」
「ははっ。そうかもね。優秀な騎士クライブの唯一の欠点は、女の趣味が悪いことかな」
「……」
「悪い悪い。あのわがまま姫を惚れさせるのは大変そうだよね。けど、半年でやり遂げて」
短い。そう言いたかったがクライブに反論は許されなかった。
寸分の狂いもなく、事実を淡々と告げるクライブに主人である国王は満足そうに微笑んだ。
「ふーん、あのわがまま姫がねぇ……」
「はい。家族の元へ行きたいと」
「ダメに決まってる。まだ役目を果たしてないんだから自由はないよ。もちろん、死ぬ権利もない」
リーリアは国王の妃だ。しかし、この男はリーリアを忌み嫌っている。
「はっ……」
「あーあ、でも面倒だな。あの子、長く持ちそうにないね」
クライブは黙って頭を下げる。歪んだ顔を、主人に見せない為に。
「思った以上にわがまま姫の評判が悪くてさぁ。関わりたいって男が誰もいないんだよね。表向き、僕の側妃ってのも良くないよねー。結婚しなきゃよかったかなぁ。でもそれだと僕らは簒奪者になっちゃうしさぁ。ねぇ、リーリアの評判はどうだったの?」
どう足掻いても立派な簒奪者だよ。
クライブは顔を伏せて国王に敬意を払うふりをしながら湧き上がる怒りを抑え込んだ。
騎士として腕を磨いたのも、どれだけ求められてもいつでも辞められる契約にしたのも、いつか自分の力が必要になった時すぐに動けるようにする為。
クライブが国に帰った時リーリアは既に幽閉されており国中の人々は新しい王を歓迎していた。
「はっ……私は留学しておりましたので詳しく存じませんが、かなり評判は悪かったようです」
「けどクライブ、君は違う。そうだよね?」
玉座から立ち上がった国王は、頭を下げたままのクライブの顎をさする。顔を上げたクライブの目をじっと見つめ、自白魔法を発動した。
目が赤く染まったクライブは、淡々と答える。
「……はい。私はリーリア様に好意を抱いております」
「偉い偉い。魔力はいるけど、やっぱりこの魔法は便利だね。ねぇ、クライブはリーリアが王になって欲しい?」
「いえ……リーリア様は国民に嫌われています。王になってもお辛いだけでしょう」
「なら、リーリアと共にどこかで静かに暮らせるとしたら、どう?」
「リーリア様が望むなら……」
「リーリアの意思は関係ない。クライブは、そんな穏やかな暮らしをしたい?」
「……はい」
「じゃあ、話は簡単だね」
国王がパチンと指を鳴らすと、クライブの瞳がいつもの青に戻った。
「命令だよ。リーリアを口説け。お前の為なら命を投げ出してもいいと思うくらい惚れさせろ。見張りは外してやる。お前がリーリアを見張れ。今回のようにリーリアが死のうとしたり、逃げようとすればお前もリーリアも死罪とする。これは王命だ」
「……かしこまりました。私は陛下の妃に手を出す事になってしまうのですが……よろしいのですか?」
「それはお互い不名誉だね。あの女と離縁しておくよ。もうこの国は僕らのものだし。騒ぎを起こして愛想が尽きた」
「そう……ですか」
「口説けと命じる理由は聞かないの?」
「聞いたところで教えて頂けないでしょう。私は騎士です。主人の命令に背いたりしません。それに……私はリーリア様に好意を抱いています。リーリア様と過ごす時間が増えるのは僥倖です」
「リーリアが好きなんでしょ? 私がリーリアを利用しようとしていると分かってるのにそんな事を言うんだ」
「陛下がリーリア様を嫌っているのは存じています。国中の男達がリーリア様を嫌っていてもおかしくないと思います。ですが……私は幼い頃のリーリア様しか知らないのです。あの時の彼女は、素直なお姫様でした」
「信じられないね。私はあの顔を見るだけで吐き気がするよ。造形は美しくても、中身は悪魔さ」
「では、私は悪魔に魅入られてしまったのでしょう」
「ははっ。そうかもね。優秀な騎士クライブの唯一の欠点は、女の趣味が悪いことかな」
「……」
「悪い悪い。あのわがまま姫を惚れさせるのは大変そうだよね。けど、半年でやり遂げて」
短い。そう言いたかったがクライブに反論は許されなかった。
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