聖女は世界を愛する

編端みどり

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番外編

5.勧誘を断れ

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「英雄殿が先程までお名前を呼んでたのに元聖女様のお名前が分からないなど、理解できません」

国王陛下が、冷たく言ったのを皮切りに、周りにもそんな声が広がる。プライドを刺激したのか、顔が真っ赤だ。あーあ、短気な統治者なんて最悪ね。

「とにかく! 聖女様はスラムを癒した責任を取って我が国に仕えろ!」

あんまりな言い分に、周りは呆れている。

「どうしてそんな事をしないといけないの? それに、わたくしの夫は騎士ですけど、わたくしはこの国に仕えてはおりませんわ」

「その通りだ。彼女はこの国に住んではいるが、それだけだ」

国王陛下が畳み掛ける。

「そんなわけあるか! 通信魔道具も聖女様のお力だろう!」

ああ、アレか。確かにイツキと一緒に作ったな。もうみんな作れるから、結構流通してきてるんだよね。そのうち庶民も使えるようになるでしょ。

「あれは、イツキ様のお力ですわ。少しわたくしもお手伝いいたしましたけど。それでどうしてわたくしが貴方の国に行かないといけないの? スラムを理由なく放置して、悩みの種等と宣う無能が統治する国に行くメリットはなぁに? 此処には各国の王族や重鎮の方がいらっしゃるわ。皆様がいる前で、教えてくださる? 貴方の国にどんな魅力があるの?」

「我が国に来て頂ければ、王宮に住んで頂き、毎日最高の料理を提供します! ドレスも、宝石も思いのままです! 最高の使用人もおつけします!」

「……それだけ?」

「なっ……それだけとは……他に欲しいものはなんでもお渡しします!」

「要らないわ。わたくし、ご馳走様にも、ドレスにも宝石にも興味はないわ。使用人なんて不要よ。神殿にいた時みたいに、お付きと称して虐待されたらかなわないわ」

周りが、シーンとなる。

「そうそう、わたくしの名前を聞いてきたのも夫だけでしたわね。そう、まるで貴方みたいにみぃ~んなわたくしを、聖女と呼ぶのよ。思い出したら、悲しくなってきたわ……」

「そうでしょう! そんな悲しい思い出のある国より我が国に!」

似たような申し出は、遠回しにどこの国にも言われた。

「でも、貴方が欲しいのは聖女でしょう? 他の国も皆様も、聖女としてのわたくしが欲しいだけでしょう? そんなの、神殿と変わらないじゃない。違うと仰るなら、今この場で申し出て下さる?」

いくつかの国から申し出があった。

「我が国は聖女様を大事にします!」

「愛梨沙様! 我が国にいらして下さい!」

ああ、めんどくさい。様子を見ているけど、チャンスがあれば声をかけようとしてる人もいる。

「それで、貴方たちはわたくしに何を与えられるの? さっきも言ったけど、お金にも宝石にも興味はないわよ」

ほーら、シーンとしちゃって。
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