聖女は世界を愛する

編端みどり

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番外編

3.スラムにて

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「これで全員挨拶したか?」

「それがね、礼状に返信してきたおうちは、誰もいないの。他は全部挨拶したよ」

「……ああ、それは来るわけねぇから気にすんな」

「え? なんで?」

「返信は、愛梨沙様へのお誘いが入っておりましたから、ニック様がお話し合いをされておりましたわ。あんなに何箇所にも返信するなと書いておいたのに、返信する時点で貴族失格ですわ」

「穏便な話し合いだったろ?」

「そうですわね。ニック様にしては穏便でしたわ。穏便にあそこまで恐怖を与えるなんて、ニック様は貴族が向いておりますわ」

「貴族はやらねぇって言っただろ」

「1人だけ愛梨沙様のドレス姿を堪能するなんてずるいですわ」

「なんで、着てるの知ってるの?」

「……愛梨沙、もう喋るな」

「予想通りですわねぇ」

……あ、これカマかけられた?

「やっぱり貴族、怖い」

思わずニックの腕に抱きつく。優しく頭を撫でて貰えて、嬉しくてへにゃりと笑うと、周りからざわめきが起きる。

「愛梨沙様、今から作戦をするのに注目を集めてどうなさいますの……」

「ご、ごめん!」

「いや、こんだけ注目されてるのに近寄れねぇ空気も便利だろ。アリサ様、10分だけお願いしますね」

「お任せ下さいな」

アリサちゃんが、周りに聞こえる声で言う。

「相変わらず仲がよろしいですわね。お疲れでしょうし、わたくしは愛梨沙様へ飲み物を持って参りますわ。それまで、どうぞ2人でゆっくりお話くださいませ。あちらは、座る事ができますわ。ニック様、愛梨沙様をエスコートしてさしあげたら如何?」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、しばらく2人で休ませて頂きます」

ニックと2人で、椅子に座る。すぐに2人で仲良く話している幻影を出して、わたしとニックは透明化して、部屋を抜け出す。瞬間移動で家に帰って、変装する。

「わたしって分かるかな?」

「オレは分かるが、他のやつは分からないんじゃねぇか」

「じゃ、これで」

ニックは、体格も良いからヨボヨボのお爺さんにするために体格を小さくする。わたしは華奢なイメージがあるから、逆に背を伸ばす。幻影も駆使して、別人になる。

「これなら、分からないよね」

声も、老婆のものにする。ニックもだ。

「わかんねぇ」

「ニックもわかんない」

「じゃ、時間ねぇし行くぞ」

……………………

「うそ……」

覚悟はしていたつもりだった、だけど、スラムは酷くて、いっぱい死体がある。死体の横に、子どもがいて……

「落ち着け、いいか、すぐやるぞ」

「……うん」

まずは、癒しをスラム全体にかける。突然の事に人々が戸惑っている隙に、浄化をかける。ボロボロの遺体が、綺麗になる。生き返ったりはしないけど……。人々が、わたし達に気が付いて近づいてくるけど、それを遮るように大量の野菜をそこかしこの地面から生やす。

突然の食べ物に、みんなが気を取られている隙に家に帰り、元の姿に戻る。

「愛梨沙、よくやった」

「……うん」

いっぱい死んでた。もっと早くやれば……。

「しっかりしろ、すぐ戻るぞ。通信魔道具が愛梨沙とイツキの力で増えてきたから、情報がくるのも早い。絶対聞かれるから、幻影じゃ対処できねぇ」

「……もっと、早く……」

「愛梨沙!」

ニックに、ほっぺたを叩かれる。痛くはないけど、びっくりしてニックの顔を見る。

「お前は、聖女じゃねえ、人間で、オレの妻だろ? 全部を救うのは無理だ。国王すら放っておいた事に、愛梨沙が責任を感じるな! 愛梨沙が今出来る事は、なんだ?」

わたしと、ニックに浄化と透明化をかけて、幻影の場所に瞬間移動する。幻影と重なったら、できるだけ違和感がないタイミングで幻影を解除する。念のため、わたしたちと反対の位置で大きな音を出し、みんながそちらを見た瞬間に解除した。

そして、椅子から立ち上がる。

「ニック、ありがとう。もう大丈夫。でも帰ったら、いっぱい話聞いて?」

「もちろん、なんでも聞くぜ」

ニックのエスコートを受けて、歩き出す。タイミングを見計らっていたアリサちゃんの所へ行き、飲み物を受け取り、飲む。

「愛梨沙様、もうよろしいのですか?」

「ええ、もう大丈夫。他にご挨拶した方がいい方を教えて頂けますか?」

「では、わたくしがご紹介しますわね」

夜会はあと少し、きっちり役目を果たそう。
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