聖女は世界を愛する

編端みどり

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番外編

2.夜会

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「ニック、もう逃げたい」

「気持ちは分かるが、今日だけは頑張ろうぜ。帰ったら愛梨沙の好きなもの一緒に作ろうぜ」

「ホント?! じゃあ、チーズのリゾット食べたい! ベーコン多めで!」

「わかったよ。どうせここじゃ食えないだろうしな」

「そうよねー……」

わたしたちは、今から夜会に出ないといけない。各国の要人がニックに会いたいらしく、国王陛下への問い合わせがすごいらしい。だから、今回だけ夜会に出る事になったんだけど、この空気はツライ。

「愛梨沙、結婚祝いくれた人覚えてるか?」

「大丈夫だよ。アリサちゃんから情報も貰ってるし、貰ったものも全部覚えてる」

結婚祝いは、知らない貴族からも大量に貰った。一応全部魔法を駆使して記録してたから、平民の人には簡単なお菓子を返して、貴族の人はアリサちゃんに確認したら、モノを返すと失礼らしいから礼状だけ送った。ニックのうちにいっぱい返信とかきたら困るから、返信はしないでって貴族的な言い回しで書いておいた。それでも返信来たとこが少しだけあったけど、全部ニックがお礼するって持って行って中身も見てない。あとで聞いたら、全員きちんとお礼したって。さすがニック。

「顔も記憶してるから、念話するね」

「悪りぃ、頼むわ」

夜会では、夫婦でいたら旦那様がメインで話すらしくって、ニックにばかり負担がいくのは申し訳ないから、念話でサポートするつもり。

「いいか、愛梨沙。絶対オレから離れるなよ。どうしようもない時は、アリサ様を頼れ。オレかアリサ様、どちらかは必ずそばに居るようにしろ」

「わかってる。絶対離れない。だって怖いもん」

「怖いのに、悪いな」

「ううん、ニックの役に立ちたいし、頑張る。だから帰ったらずっとくっついてたい」

「……やっぱり夜会辞めるか?」

「頑張ろ、ね?」

「わかった、帰ったらゆっくりしような」

「夜会は嫌だけど、ニックはカッコいい」

「ありがとな、愛梨沙も綺麗だぜ」

2人で腕を組んでる入場する。周りが、わたし達に注目してるのが分かる。頑張ろう。今日は、内緒のミッションもあるんだから。

「まず、国王陛下に挨拶だ」

「了解」

国王夫妻への挨拶は、すんなり終わる。最近は王妃様ともよくお茶会する。前の世界の話出来る人は少ないし、わたしと王妃様は同じくらいの年代を生きていたようで、流行りの歌とか一緒に歌う程の仲良しだ。流行りが通じるの、嬉しい。

「さて、ひとまず打ち合わせ通り、祝い貰った貴族にお礼に行くぞ」

お祝い貰った貴族の方は、ほぼ全員いるから順番に回る。ニックに念話で情報を伝えながら挨拶する。

「我々の結婚式では、美しい絨毯を贈って頂き誠にありがとうごさいました」

「とんでもない、あのような丁寧な礼状まで頂き、ありがとうございます。しかも、贈った品を覚えて頂けているなんて、光栄です!」

「我々は、今回のみの参加ですが、今後のご活躍をお祈りしております。どうぞお元気で」

「お声がけ頂き、ありがとうございます」

大抵は、このくらいで済む。わざと話を弾ませないようにするって難しいね。

あんまり長話すると、英雄はこの家と懇意なのかってなるから、ダメらしい。ゆっくり話せるのは、アリサちゃんくらいだ。

「おお! 英雄殿! 我々の結婚祝いはお気に召しましたか?!」

なんかグイグイくる方が来た。

『愛梨沙、こいつは?』

『知らない。お祝いは貰ってない。アリサちゃんに頼んで、お祝い貰った家は親族含めて全部顔も覚えたけど、この人は知らない』

『やべえな』

『なんか漏れがあったかな?』

『アリサ様に限ってありえない。多分、こいつからはなんも貰ってねぇ。オレらがお礼言ってるのみて、乗っかってきただけだ』

ハッタリって事?! どうしよう……。

「失礼、どちらさまでしょうか?」

オロオロしてるわたしの肩を抱きながら、ニックがにこやかに謎のおじさんに話しかける。

「おや? 英雄殿ともあろうお方が、結婚祝いを貰った貴族を覚えておらんのですかな?」

挑発的な顔をして、おじさんが笑う。

「ええ、貴方様と結婚式でお会いした覚えがありません」

ニックが、断言する。良いの? わたしの勘違いかもしれないのに!

「あの日は人が多かったですからな。覚えてなくても、ワシは寛大だ。許してやろう」

「そうですか、光栄です。ですが失礼ですし、式でどのようなお話をしたか、未熟な私に教えて下さい」

「ふん! 若者に指導するのも年配者の勤め。教えてやろう。ワシは、結婚生活で大事にする事を教えてやったのだ。特に貴様は平民だろう! 妻が食事を作るだろうし、どんなにまずくても、美味いと言えば、うまくいくと言ったんじゃ」

おじさん、目が泳いでる。ニック、殺気は無いけど、圧がすごい。

「なるほど、妻の料理で不味かったものなどないので、私には不要なアドバイスでしたね。そうそう、妻はあの日、皆に料理を振る舞ったのですが、お味はいかがでしたか?」

「……ふ、ふん! 平民にしてはまあまあだったわ!」

「そうですか、色々用意したのですが、何を召し上がって頂けたのですか?」

「なっ……メニューなど、覚えておらん! この夜会にも、出ている一般的な料理だ! 物珍しいものなどなかったから覚えておらんわ」

「そうですか、では、先程ご挨拶させて頂いたカフォー伯爵様、あの日のメニューで覚えているものはありますか?」

「もちろん、覚えています。あんな料理は、初めてでした。フライドポテトと、唐揚げですよね。油で揚げるなど斬新で、感動しました」

「ありがとうございます。さて、一般的で、物珍しいものなどなかったのですよね?」

「ふ、ふん! ワシはその料理を見とらん。他の料理は一般的だったわ!」

「残念ながら、あの日提供したメニューはフライドポテトと唐揚げだけです。どうやら、別の結婚式とお間違えのようだ。大丈夫ですよ。覚えてなくてもオレは寛大です。……愛梨沙にさえ手を出さなければ」

「平民の分際で無礼だぞ!」

「無礼はどっちでしょうね。ダルス伯爵。名も名乗らず横柄な態度を取るなど、英雄への扱いとは思えませんな」

「団長!」

「あの日の結婚式は、うちが手配しました。お祝いを頂いた貴族の方には、全員礼状が届いている筈です。ダルス伯爵は、礼状が届いておられないとみえる。礼状の手配は、マーシャル家が行いましたと記載されておりましたよね? 万が一届いて居ない方は、マーシャル家までお知らせ下さい。入念に調査して、お礼をさせて頂きますよ」

「そ、そんな……」

「ダルス伯爵、我がマーシャル家に伝えたい事がおありではありませんか?」

「ととと、とんでもございません! 私の勘違いでした! 英雄殿、今後のご活躍をお祈り申し上げます!」

「やっぱりお父様は、素敵ですわ」

「アリサちゃん! ありがとう!」

「堂々とした振る舞い、素晴らしいですわ。これでニック様を舐めるものも減るでしょう」
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