聖女は世界を愛する

編端みどり

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65.ふたりきりの夜

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「愛梨沙、しばらくはここで過ごしてくれ」

リビングとダイニング、それからニックとお母さんの寝室があるお家に着いた。ニックが不安がるから、変な奴来ないようにって、孤児院と同じ警備の魔道具と、音が漏れない魔道具をセットした。

「うちはあんまし広くねぇからな。敷地に入らなくても話し声が聞こえることもあるし、オレらは注目されてっから、防音の魔道具も頼む」

ニックは、わたしを心配していっぱい色んなことを考えてくれる。わたしも早く色々覚えて、ニックの役に立ちたいな。

「ニック、お腹空いてない?」

「あー、確かに空いたな。なんか食うか? 寝る前だしあんま重くない方がいいよな。ミルク粥でも作るか?」

「ミルク粥! 作ったことない!」

「オレが作るから、座ってな?」

「やだ! 一緒にやる!」

「分かった、愛梨沙疲れてないか?」

「大丈夫! ニックこそ疲れてない?」

「こんくらいなら問題ねぇよ」

「やっぱりニックはすごいね」

「そうか? 愛梨沙の方がすげぇだろ」

「わたし、なんもすごくないよ」

「あんな過酷な状況で、オレに癒しかけてみたり、アリサ様を助けたり、神様と結託して神殿を出し抜いたりしてたじゃねぇか」

「言われてみたら色々やったね。でも全部、最初にニックが助けてくれたからだよ?」

「オレはすぐに愛梨沙を助けなかった。愛梨沙はすぐに行動してたじゃねえか。強えよ」

「全部、ニックが居たからだけどね」

「……愛梨沙は、ひとりで頑張ってたじゃねぇか」

「ううん、いつもニックがわたしを気にかけてくれてたから大丈夫だっただけ。いつも手から血を流すくらい我慢してくれてたでしょ?」

「愛梨沙がいつも癒してくれてたもんな」

「そう、あれもね、シスターコリンナだけ癒すな! とか無理だったんだよ! だからいっぱい実験したら、癒したい人指定したらわたしとニックだけ癒せたんだ。おかげで余計な鞭を受けた気がする」

「なぁ、愛梨沙、ほんとにあいつら処刑じゃなくて良いのかよ?」

「わたしに300メートル近づいたらわたしの苦しみ味わうんでしょ? それで充分だよ。犯罪も犯せないし、居場所も分かるんでしょ?」

「……そうだな。それで改心すりゃあいいし、さらに罪を重ねるなら……」

「罪は犯せないならもう人に迷惑かけることはないよね? 麻薬は全部回収して消滅させたし、みんな癒したし、人身売買は計画してた商会も潰したんでしょ? 騎士団の皆様ホントに仕事早いよね」

「もともとマークしてた商会だしな。商会は罪状多すぎてオレらが戻る前に処刑されてたぜ」

「法律に則るなら、仕方ないよ。分かっててやったんだろうし。でも、聖女への狼藉って、神の怒りを買うから厳しかっただけで、罪状が特に法律で決まってた訳じゃないからね。わたしと会わないし罪も犯せないならそれで良いよ。近づいたらあんだけ苦しいなら、わたしには絶対近寄らない筈だし。それに、もう罪は犯せないでしょう?」

「……ああ、昨日魔道具は用意した。法律を守るように全ての法が禁止事項として入ってる。愛梨沙がコピーってやつをしてくれて助かったぜ。本来は、罪を犯した王族とかに使うやつだからな」

「貴重なんだね」

「おう、借りるだけでもなかなか大変だった」

「なんか、わたしのワガママでごめんね」

「愛梨沙の願いは、全部叶えてやるって言ったろ?」

ニックが、優しく微笑んだ。嬉しくて、涙が出てきた。

「愛梨沙、どうした?! どっか痛えのか?」

「違うの、嬉しいの。でも、わたし、どんどんワガママになる。このままじゃ、ニックの負担になる。だから、あんまり甘やかさないで……」

「愛梨沙は、もう充分頑張ったんだから、いっぱいワガママ言って良いんだぜ? でもそうか、愛梨沙の性格なら気にするよな。気がつかなくて悪い。こんなんだからセンスねぇって怒られるんだよな」

「誰に言われるの?!」

「マリアとか?」

「マリアって誰?!」

「……愛梨沙、その顔反則。マリアは、親友のダリスの奥さんだよ。もう何人も子どもが居るぜ。仲間みんなで飲みに行ったりしてたから、名前で呼んだりもするだけだ。誤解させて悪い。ほら、ミルク粥出来たぜ」

あぁ、もう。親友の奥さんに嫉妬してどうすんのよ!

「美味しい……」

食べさせて貰ったミルク粥は、甘くて優しい味がする。お腹が満たされると、心も満たされる。

「ニック、美味しいよ。ありがとう!」

「良かった、愛梨沙はやっぱり食べてる時がいちばん可愛いな」

「ニックにも食べさせてあげる! あーん!」

照れているニックに、無理矢理ミルク粥を食べさせた。

……………………

浄化かけて、寝る事にした訳ですが……。

「ニックさん? 何故わたしはお姫様抱っこをされているの?!」

「一緒に寝るだろ? 優しくしようと思ってな」

「おおう、そ、そうね」

「なぁ、愛梨沙?」

「ななな、なんでしょうかっ!」

「結婚式の時の衣装、着てくんねぇか? オレも着るからさ」

こここ、コスプレですかっ?!

「ど、どれっ?!」

「オレがメガネかけた時のやつ、愛梨沙ずいぶん気に入ってたよな? 騎士服より気に入ったか?」

「……その、どっちも素敵です」

「どっちがいい?」

「わ、わたしが決めるのっ?!」

「最初だしなぁ、愛梨沙がいちばん気にいるカッコが良いだろ?」

……結局、その夜は衣装チェンジを繰り返し、眠ったのは朝方だった。
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