聖女は世界を愛する

編端みどり

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59.帰還

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「おばあちゃん、おじいちゃんに会えたかな?」

「大丈夫だろ、なぁ神様」

「我はもう神ではない。問題なく送り届けたぞ。これで愛梨沙の存在は消えた」

「そっか、お父さん、お母さん、加奈子、みんな元気でね……」

「愛梨沙、オレがいるから」

「……うん、これからもよろしくね」

「おう」

…………

「ねー、神様ってずっと消えないよね」

「もう神じゃなくなったからのぉ」

「え、神様ですらなくなるの?!」

「うむ、それも覚悟の上じゃし、問題はない」

「そっか、ありがとう。神様」

「桔梗は被害者じゃ、助けて当然じゃし、申し訳ない事をした。我の力が強ければ、こんな事にならんかったのにのぉ」

「神様は出来る事を全力でして下さいました。この世界に生きている我々が、神様や聖女様に頼りすぎていたんですよ」

「もう、神様も聖女様もいないんだから、これから地に足つけて生きていけば良いよ。わたしも、この世界で生きていくんだから、色々教えてね」

「おう……改めて言うけどよ、愛梨沙、戻ったらすぐオレと結婚してくれ」

「もちろん! 嬉しい! よろしくね! こっちの結婚ってどんなシステム? 一夫多妻とか言われたら嫉妬しそうなんだけど?」

「貴族は複数の妻を持つけど、オレらみたいな平民は一夫一妻だな。ってか、オレも愛梨沙以外と結婚する気ねぇぞ?」

「それは嬉しい。ありがと。結婚式とかあんの?」

「あー……あるな。ドレスとか用意する時間要るか……」

「やだ! すぐ結婚したい! だから、ドレスは作る!」

「自重しろって言いたいけど、ドレスは見たいしすぐ結婚しねぇと横やり入ったら困るから作れば良いんじゃね。式は普通神殿でやるけど、オレらは孤児院でやろうぜ。そしたら結婚式も孤児院が担うようになんだろ」

「ニックさぁ、孤児院作ったのアリサちゃんと団長さんって言ったよね? でも神殿潰した原因が自分って事は、孤児院にニックも関わってるの?」

「……神殿から、マトモな神官を全員孤児院に引き抜いた」

「結構えげつない事してた! だからシスターコリンナとかが最近イライラしてたんだ。やる事多いってキレてた」

「ついでに、神殿の寄付を孤児院にスライドさせるよう仕組んだ」

「さらにやってた! あれ? じゃあわたしが結婚させられそうになったのはそのせい?」

「……すまん、そうだと思う」

「まぁ、結果オーライだよね!」

「そのポジティブさは、見習いたいのぉ」

「そう? 神様も上向いて歩く方が楽しく生きられるよ!」

「そうじゃのぉ、神でなくなってしもうたし、どうしたものかと悩んどるのじゃ」

「とりあえず好きな事したら? 元神様なら、優遇してくれそうじゃん?」

「今後は元神様と呼ばれるのかのぉ……」

「名前で呼ぼうよ、神様の名前ってなに?」

「我に名前はないぞ」

「え?! ないの?」

「神様は、神様だろ」

「そっかー、わたしの世界は神様いっぱい居るから名前あったのよね。七福神とか、神話の神様とかさ」

「オレらの世界は、神様はひとりだな」

「じゃあ、なんか好きな名前決めたら?」

「そうじゃのお、イツキはどうじゃ?」

「おじいちゃんの名前!」

「桔梗が、ニックよりいい男と言うからのぉ。ニックは間違いなくこの国でいちばんの英雄になるじゃろうが、愛梨沙よ、我の方がいい男と思わんかの?」

「……おい、愛梨沙に手ェ出すなら元神様だろうが容赦しねぇぞ」

「ホッホッホ、怖いのぉ。愛梨沙はこれから大変じゃな」

「……わたしは、ニックを愛してるし、大丈夫」

「イツキ。愛梨沙に手ェ出さないなら、生活のサポートはする」

「その条件は、外れんのじゃな」

「当然だろ?」

「ま、我も愛梨沙に手を出す気はないわ。これから人として生きて行こうとしておるのに、いきなり人生を終わらせたくはないしの」

「人生終わるの?!」

「愛梨沙、ニックは既に其方を狙った貴族を何人も破滅させとると言うておったではないか」

「あ、そうだった……」

「これからは暗躍しなくていい分楽だな」

「さらっと言うけど、何やったのニック!」

「色々だな。悪い奴等を破滅させたんだから、職務を全うしただけだぜ」

「騎士団の仕事って、悪い人捕まえるのであって破滅させるのではないんじゃない?」

「……似たようなモンだろ」

「な、愛梨沙はこれから大変と言ったじゃろ? ちょっとでも男と仲良くしておったらその男が危ないのぉ」

「待て! そんな束縛する気はねぇぞ!」

「どうじゃろうのぉ……」

「大丈夫、嫌なら言うから!」

「愛梨沙が嫌がる事は、しないから! な!」

「じゃ、わたしもニックが嫌な事はしないし、好きな事はいっぱいする! だから嫌なことも、好な事も教えて?」

「……かなわねぇな、愛梨沙には」

「早く街につかんかのぉ、ここにおると甘すぎるわぃ」
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