聖女は世界を愛する

編端みどり

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56.その頃の街中【ダリス視点】

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眩しい光が、街中を包む。

「聖女様、またなんかやりやがったな」

保護していた麻薬中毒者たちが、みるみる元気になる。こんなスッキリ依存が抜けるなんてありえねえ。事情聴取したら、麻薬は神殿から斡旋されていた事がわかり、証拠がどんどん揃っていく。最近は神殿に相談に行く市民など居なかったが、急に神殿への相談者が増えて、怪しんでいたところだったが、案の定か。

「おかげで神殿を追い詰める証拠がさらに揃うな」

神殿が追い詰められたのは半分以上ニックのせいだろうけどな。

「気絶した神殿長達は、保護って名目でバラバラに王城で軟禁だっけ?」

「おう、王妃様がだいぶお怒りだから、もう終わりじゃねぇか?」

「まぁ、あんなの聞いたらそうなるよな」

「死んだ方がマシだと思ってたとか、食事は召喚されて3年以上経つのに与えられたのは数回とか、そんな酷かったんだな」

「そりゃあニックもメシばっか持っていく筈だな」

「まぁでもこれでニックの邪魔する奴は居ないだろ」

「聖女様、ニックにべったりだったしなぁ」

あれを邪魔しようなんて思う奴は余程の馬鹿だろうし、あっさりニックが排除できるだろう。俺たちが見ていた聖女様は、儚げな印象だったが、あんなに生き生きとした表情をなさる方だったんだな。

「今はしあわせなのも、ニックが居るからだって仰ってたしな」

「良かったなぁ」

「……それはそれとして神殿は許せねぇな」

「だな、無理矢理結婚とか意味わかんねぇし、そもそもそれで聖女様を手に入れられると思う貴族もだいぶおかしいぜ」

「全員、気絶なうえに証拠もだいぶあるから取り潰しじゃねーか? ニックの殺気、やばかったもんな」

「そうだなぁ、マトモな家の奴は誰もいねえもんな」

「面倒な貴族を排除できてスッキリするって国王陛下大喜びしてたぞ。悪名高いけど歴史があって権力がある侯爵家も居たから、貴族の勢力図はかなり変わるな」

さすが国王陛下だな。為政者として何を取り込んで何を切り捨てるか分かってる。あそこまで失態を犯した神殿は、いくら王妃様の事があっても切り捨てるだろうし、関わった貴族は全部取り潰しだろう。大事にしないといけない聖女様への狼藉は大罪だ。以前聖女様に無理矢理迫った王子は国外追放だったし、処刑や取り潰しになった人もいる。

ニックと聖女様は、国王陛下にとって今もっとも尊重すべき2人だ。神様の言葉をすぐ受け入れず、2人の意思を確認したのも初対面の聖女様への印象アップと、ニックに敵対しないと示すためだろう。ニックと聖女様は魔物を消滅させたら英雄だ。下手をすれば、国王陛下より支持される。国王陛下がニック達の意思を尊重する姿勢をみせておかないと、国が割れる可能性があるもんなぁ。

失敗する可能性もあるが、それでも聖女様とニックの市民の支持は高い。

ニックは、聖女様との仲さえ邪魔されなきゃ野心を抱くタイプじゃないが、邪魔されると分かれば、国王陛下でも容赦しない筈だ。騎士100人居てもニックが暴れたら負けるし、王城を制圧すんのなんてニックと聖女様2人居れば充分だもんな。オレなら、ニックが敵対してきたら無条件で降伏する。勝てるわけねぇし、ニックなら降伏すりゃあ殺されはしないと思えるが、逆に言えば敵対したらあっさり死が待ってる。

ニックに叙爵の話も出たけどやる事があるって断ってたから、国に縛る事も出来てねぇ。ニックが大事にしてんの、聖女様と母親くらいだし、聖女様との事は国王陛下も知ってるから、王子が聖女様に近づこうとしたの、かなりキツく止めてたもんな。王城に仕事に行った時、王子でなくなる覚悟がある程聖女様に本気なのかって、国王陛下が怒鳴ったの聞いちまった時は逃げ出したかったぜ……。王子は今ではアリサ様に夢中だけど、アリサ様もかなり強かで、王子の好意を利用して、孤児院の寄付を貴族から取り付けたり、商人との取引に王子の紹介を使ったりしている。それをアリサ様から強請るんじゃなくて、全部王子が自主的にしてるんだから恐ろしい。なのに未だに婚約はうまくかわしてるらしいし、王子に春はいつ来るのかねぇ。

「さて、孤児院の神官様達にも協力してもらって確保した神殿の奴らの尋問進めようぜ。神殿は、もうやっていけねーだろ」

「だな。聖女召喚も神殿が仕組んでるとは思わなかったぜ」

「そうだな。王妃様もだけど、元聖女様達がショック受けてねぇか心配だな」

「……確かにな、事故に巻き込まれたって思ってたのが故意だって分かった上に、慕ってた神殿が悪かったってのはキツいな。おそらく王妃様からもフォローがあるだろうけど、王妃様も被害者だもんな」

それでもニックはあそこで聖女召喚を神殿が仕組んでると公表したんだから、本気で神殿を潰すつもりなのだろう。なんとか穏便に済まそうとしてたのに虎の尾を踏んだのはあっちだ、俺らも全力でやってやろう。
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