聖女は世界を愛する

編端みどり

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51.闇の中

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…………ニック視点

「なんだコレ」

結界の中は、暗闇だ。なんも見えねぇ。

「愛梨沙! 愛梨沙!」

何の反応もねぇ。静か過ぎんだろ。愛梨沙がどっかに居るはずなんだけど見えねぇ。灯りの魔法も効かない。

「神様、コレどうなってんだ!」

神様への通信魔道具を起動する。

「愛梨沙は、闇に囚われた。もうどうしようもない。ニック、すぐ外に出て皆を避難させろ。近日中に魔物が出るぞ」

「あ?! 魔物ってどう言う事だよ!!! 愛梨沙を見捨てるなんて出来るわけねーだろ!」

「……もう、間に合わんのだ」

間に合わない?! そんなの知るかよ! 愛梨沙、何処だ?!

「ここから早く出ろニック! お前も取り込まれるぞ!」

「知るかよ! 愛梨沙は何処だ?!」

「……逃げ……」

神様の声が聞こえなくなった。それと同時に、身体中が痛い。最近は愛梨沙の加護で怪我してねぇから、久しぶりに感じる痛みだ。裂けるような痛さ。なんだ、コレ……。

「うちには帰れません。あなたは生涯ここで過ごします」

この声、シスターコリンナか。同時にものすごい恐怖と空腹が襲ってくる。これ、愛梨沙の痛みか! 裂けるような痛みは、鞭だな!

「嫌だ、怖い、おうちに帰りたい……」

愛梨沙の声がする。だけどどこにも居ねぇ。どうなってやがる。くっそ、身体が動かねぇ! めちゃくちゃ痛え!

「助けて……」

……この声は、忘れもしない、オレが初めて愛梨沙に会った日の声だ。

そうか、愛梨沙はあの時こんなに怖くて苦しかったんだな。ごめんな、オレちゃんと分かってなかった。身体は動かないが、必死で声を張り上げる。

「愛梨沙! オレだ! ニックだ! 頼む、オレの話を聞いてくれ! つらかったよな! 苦しかったよな! すぐ助けてやれなくてごめん! これからはずっとオレがそばに居る! もう離れたりしねぇ! もうちょっとで魔物は居なくなる! もう離さねえから、一緒に倒しに行こう! 絶対守るし、オレは愛梨沙がいねぇとダメだ! 頼む! オレと結婚してくれ!」


…………愛梨沙視点

「……うちに帰して……」

あの時の絶滅が、全身を覆い尽くす。空腹と恐怖が襲ってくる。何もできない。誰も居ない。怖い、怖い、怖い……。

「……梨沙……!」

誰かの声がする。そんなわけない。ここは誰も居ないし、こない。

「愛梨沙! 愛梨沙!」

愛梨沙ってわたしの名前? ……あれ? 怖く……ない。なんだろこの声。あったかい。

「愛梨沙! オレだ! ニックだ! 頼む、オレの話を聞いてくれ! つらかったよな! 苦しかったよな! すぐ助けてやれなくてごめん! これからはずっとオレがそばに居る! もう離れたりしねぇ! もうちょっとで魔物は居なくなる! もう離さねえから、一緒に倒しに行こう! 絶対守るし、オレは愛梨沙がいねぇとダメだ! 頼む! オレと結婚してくれ!」

わたしは、いっつも守って貰うだけなのに。わたし、ニックと、一緒に居ていいの?

……あれ? ニックって誰か分からない。でも、この声はあったかい。この声のところへ行きたい……でも、もう、動けないよ……。


…………ニック視点

闇が少しだけ晴れた。こんくらいなら、オレでも夜目が効く。愛梨沙、何処だ?!

見つけた! 祭壇の前であん時みてぇにボロボロになってやがる!

「愛梨沙! 愛梨沙!」

愛梨沙の周りには、闇が蠢いている。コレ、どうにか払えねえか?! くっそ、起きてりゃキスでもすりゃあいけんのに!

……寝てても、効くか?

「愛梨沙、起きてくれ、キスするぞ?」

ぐったりしている愛梨沙に、何度もキスをする。反応がねぇ。ダメか……。いや、少しだが闇が落ち着いてきてる。愛梨沙の中の魔力が、闇に抗ってんだよな? なら、魔力足してやりゃあいけんじゃねぇか?

「愛梨沙、魔力受け渡しってこうだったよな?」

愛梨沙が前にオレにしてくれたみてえに、手を握り魔力を流す。すると、愛梨沙の身体が光り始めた。
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