50 / 82
50.神殿の愚行
しおりを挟む
ニックは遠征らしく1週間くらい会えていない。最近はわたしのお祈り中継もなくなり定期的に会う理由がなくなってきていた。
それでも会えば優しいし、お菓子食べさせてくれるし、魔物を討伐してるらしくて、魔物が居なくなればわたしは自由になれる筈だって頑張ってくれてる。だからいつも加護をいっぱいかけるんだけど、わたしにはそれくらいしか出来ない。本当は、ニックとずっと一緒が良いのに。
今回は討伐が長い。なかなか会えなくて寂しくなってた頃に、神殿がバタバタしだした。今日は異様に機嫌が良いシスターコリンナがものすごく怖い。
お祈りも、いつもと違っていた。明らかに神殿関係者ではない人がたくさんいたのだ。
しかも、気持ち悪い目でわたしを見てくる。怖い、さっさと結界に引きこもろうと思っていたら、わたしの部屋にさっきも居た気持ち悪い人がいっぱいいた。
「おお! 聖女様! はじめまして! なんとお美しい」
「こんにちは、聖女様。わたしは伯爵家の跡取りなのですよ」
「わたしは……」
なに、この人たち。
この視線には覚えがある。居酒屋バイトでたまに見たやつだ。下品な目でわたしを見てるのが分かる。舐め回すように見ないで! 身体触るのもやめろ!
怖い、怖い、怖い!!!
「聖女様、あなたは結婚する事が決まりました。この中のどなたでも結構です。今すぐ選びなさい」
「……い、嫌です!」
「黙りなさい。決定事項です。今すぐ選びなさい」
怖い! 助けて!
なんで、なんで、なんでっ……!
知らない男の人がわたしの手を握る。
知らない男の人が、わたしを、抱きしめようとする。
嫌だ、ニック以外わたしに触るな! 身体の中から、今まで我慢していたものが吹き出す。感情のコントロールが効かなくなる。神様の声がした気がするけど、分からない。
「ダ レ モ チ カ ヨ ル ナ!」
黒い感情が体中をめぐるのに、止められない。気がつけば神殿全てを巻き込んで、巨大な結界を張っていた。
……ニック視点
「何があった」
魔物を倒して、戻ってきたら愛梨沙に通信が繋がらない。神様からすぐ神殿に来いと通信が入る。神殿に来たら、神殿は巨大な結界に覆われていた。結界はいつもと違い、真っ黒だ。
結界の側で呆然としている神殿長やシスターコリンナがいる。ってか、これ神殿の奴らみんな居るな。って事は愛梨沙の結界に押し出されたのか?
ん?
アレは貴族だよな? なんか神殿長に詰め寄ってんぞ?
「聖女様と結婚できるかもしれないと言うからあんな多額の寄付をしたんだぞ! 何故聖女様に拒否されるのだ!」
「聖女様はシスターコリンナの言う事はなんでも聞くのではなかったのか?!」
何やりやがった。オレは頭に血が上り、シスターコリンナを問い詰めた。
「どういうことだ、聖女様が嫌がる相手と無理矢理結婚させようとしたのか?」
「……なっ、あなたのような者に答える必要はない!」
「いいから答えろ。死にたくなきゃあな」
周りが怯えているが知ったことか。
「聖女様はこちらの貴族の方々のどなたかとご結婚する事になった」
神殿長が、答えた。
「あいつが了承するわけねえよなぁ! んで嫌がった結果がコレか!!!」
「誰も中に入る事はできん」
周りを確認すると、神殿の奴らが結界に入ろうとしているが、全てはじかれている。誰も近寄るなと言って結界を使ったらしい。
けど……オレなら入れるんじゃねぇか。結界に手をかければ、いつものようにすんなりと受け入れられた。
「な……なぜ貴様は入れるのだ?!」
「それはなぁ、オレが聖女サマのお相手だからだよ。彼女が受け入れるのはオレだけだ」
そのままオレは、周りに殺気を放ち結界の中へ入っていった。
……ダリス視点
「あーあ、やらかしやがった」
ニックの殺気がやばい。殺気だけで殺されそうだ。俺でも恐怖で立っているのがやっとだから、市民は腰を抜かしているし、直接殺気を浴びせられた神殿長やシスターコリンナ、貴族どもは気絶してやがる。
「おい、いますぐニックの母親を保護するぞ」
神殿が卑怯な真似をしかねないことは、ここ数年で分かっている。今までニックはノーマークだっただろうが、すぐに母親の存在はばれるだろう。最近はとても元気に過ごしているが、神殿に捕まってしまえばニックたちの身動きが取れなくなる危険性がある。神殿長が起きて変な指示する前に、保護しておきたい。ホントは神殿長を捕らえたいくらいだが、それは無理だろうなぁ。
「問題なく保護出来てるだろ。有事に備えて、護衛をつけておいて正解だったな」
神殿が追い詰められていることは分かっていたから、最近は団長の指示でニックの母親には秘密裏に護衛が付いている。ニックは遠慮するから、ニックにも内密にだ。神殿の方角で騒ぎがあれば無条件で騎士団で保護することになっているし、ニックの母親も了承済みだから、もう保護されてるだろう。
「団長すげぇよな、こうなること予想してたのかよ」
「わっかんね。ただまぁ、ファインプレーだよな。とにかく、長いこと親友やってるが、ニックがあんなにキレてるの初めて見た。殺気がやばすぎんだろ」
「最近は魔物の狩り方もだいぶ鬼気迫ってたし、ストレスかなりあったんじゃね?」
「まぁ、そうだよなぁ」
聖女様は最近随分美しくなられたから、狙う貴族は多数いた。ニックがことごとく潰してたけどな……。あいつ絶対透明化の魔道具大量に持ってるか自分で透明化使える筈だ。言えねぇのは分かるから聞かねぇけど、団長の机に覚えのない貴族の調査資料が増えてたり、王城で知らないうちに収賄の証拠が見つかるとかおかしいだろ。それがことごとく評判の悪い聖女様に懸想してた貴族なんだもんな……あいつが透明化を使えても変なことには使わねぇ筈だから、いつか本当のことを教えてくれればいいな。
それにしても、神殿が聖女様の結婚を斡旋するなど誰も思わない。寄付金で聖女様を売り飛ばすとか何考えてんだよ。
「神殿がおかしな事をしないように街を警備するぞ。ニックの母親をはじめ、狙われそうな人は孤児院に保護しろ!」
団長の指示が伝令で飛んできた。そうか、孤児院なら悪い奴は入れない。俺たちはひとまず、街で狙われそうな人を順次孤児院で保護することにした。
それでも会えば優しいし、お菓子食べさせてくれるし、魔物を討伐してるらしくて、魔物が居なくなればわたしは自由になれる筈だって頑張ってくれてる。だからいつも加護をいっぱいかけるんだけど、わたしにはそれくらいしか出来ない。本当は、ニックとずっと一緒が良いのに。
今回は討伐が長い。なかなか会えなくて寂しくなってた頃に、神殿がバタバタしだした。今日は異様に機嫌が良いシスターコリンナがものすごく怖い。
お祈りも、いつもと違っていた。明らかに神殿関係者ではない人がたくさんいたのだ。
しかも、気持ち悪い目でわたしを見てくる。怖い、さっさと結界に引きこもろうと思っていたら、わたしの部屋にさっきも居た気持ち悪い人がいっぱいいた。
「おお! 聖女様! はじめまして! なんとお美しい」
「こんにちは、聖女様。わたしは伯爵家の跡取りなのですよ」
「わたしは……」
なに、この人たち。
この視線には覚えがある。居酒屋バイトでたまに見たやつだ。下品な目でわたしを見てるのが分かる。舐め回すように見ないで! 身体触るのもやめろ!
怖い、怖い、怖い!!!
「聖女様、あなたは結婚する事が決まりました。この中のどなたでも結構です。今すぐ選びなさい」
「……い、嫌です!」
「黙りなさい。決定事項です。今すぐ選びなさい」
怖い! 助けて!
なんで、なんで、なんでっ……!
知らない男の人がわたしの手を握る。
知らない男の人が、わたしを、抱きしめようとする。
嫌だ、ニック以外わたしに触るな! 身体の中から、今まで我慢していたものが吹き出す。感情のコントロールが効かなくなる。神様の声がした気がするけど、分からない。
「ダ レ モ チ カ ヨ ル ナ!」
黒い感情が体中をめぐるのに、止められない。気がつけば神殿全てを巻き込んで、巨大な結界を張っていた。
……ニック視点
「何があった」
魔物を倒して、戻ってきたら愛梨沙に通信が繋がらない。神様からすぐ神殿に来いと通信が入る。神殿に来たら、神殿は巨大な結界に覆われていた。結界はいつもと違い、真っ黒だ。
結界の側で呆然としている神殿長やシスターコリンナがいる。ってか、これ神殿の奴らみんな居るな。って事は愛梨沙の結界に押し出されたのか?
ん?
アレは貴族だよな? なんか神殿長に詰め寄ってんぞ?
「聖女様と結婚できるかもしれないと言うからあんな多額の寄付をしたんだぞ! 何故聖女様に拒否されるのだ!」
「聖女様はシスターコリンナの言う事はなんでも聞くのではなかったのか?!」
何やりやがった。オレは頭に血が上り、シスターコリンナを問い詰めた。
「どういうことだ、聖女様が嫌がる相手と無理矢理結婚させようとしたのか?」
「……なっ、あなたのような者に答える必要はない!」
「いいから答えろ。死にたくなきゃあな」
周りが怯えているが知ったことか。
「聖女様はこちらの貴族の方々のどなたかとご結婚する事になった」
神殿長が、答えた。
「あいつが了承するわけねえよなぁ! んで嫌がった結果がコレか!!!」
「誰も中に入る事はできん」
周りを確認すると、神殿の奴らが結界に入ろうとしているが、全てはじかれている。誰も近寄るなと言って結界を使ったらしい。
けど……オレなら入れるんじゃねぇか。結界に手をかければ、いつものようにすんなりと受け入れられた。
「な……なぜ貴様は入れるのだ?!」
「それはなぁ、オレが聖女サマのお相手だからだよ。彼女が受け入れるのはオレだけだ」
そのままオレは、周りに殺気を放ち結界の中へ入っていった。
……ダリス視点
「あーあ、やらかしやがった」
ニックの殺気がやばい。殺気だけで殺されそうだ。俺でも恐怖で立っているのがやっとだから、市民は腰を抜かしているし、直接殺気を浴びせられた神殿長やシスターコリンナ、貴族どもは気絶してやがる。
「おい、いますぐニックの母親を保護するぞ」
神殿が卑怯な真似をしかねないことは、ここ数年で分かっている。今までニックはノーマークだっただろうが、すぐに母親の存在はばれるだろう。最近はとても元気に過ごしているが、神殿に捕まってしまえばニックたちの身動きが取れなくなる危険性がある。神殿長が起きて変な指示する前に、保護しておきたい。ホントは神殿長を捕らえたいくらいだが、それは無理だろうなぁ。
「問題なく保護出来てるだろ。有事に備えて、護衛をつけておいて正解だったな」
神殿が追い詰められていることは分かっていたから、最近は団長の指示でニックの母親には秘密裏に護衛が付いている。ニックは遠慮するから、ニックにも内密にだ。神殿の方角で騒ぎがあれば無条件で騎士団で保護することになっているし、ニックの母親も了承済みだから、もう保護されてるだろう。
「団長すげぇよな、こうなること予想してたのかよ」
「わっかんね。ただまぁ、ファインプレーだよな。とにかく、長いこと親友やってるが、ニックがあんなにキレてるの初めて見た。殺気がやばすぎんだろ」
「最近は魔物の狩り方もだいぶ鬼気迫ってたし、ストレスかなりあったんじゃね?」
「まぁ、そうだよなぁ」
聖女様は最近随分美しくなられたから、狙う貴族は多数いた。ニックがことごとく潰してたけどな……。あいつ絶対透明化の魔道具大量に持ってるか自分で透明化使える筈だ。言えねぇのは分かるから聞かねぇけど、団長の机に覚えのない貴族の調査資料が増えてたり、王城で知らないうちに収賄の証拠が見つかるとかおかしいだろ。それがことごとく評判の悪い聖女様に懸想してた貴族なんだもんな……あいつが透明化を使えても変なことには使わねぇ筈だから、いつか本当のことを教えてくれればいいな。
それにしても、神殿が聖女様の結婚を斡旋するなど誰も思わない。寄付金で聖女様を売り飛ばすとか何考えてんだよ。
「神殿がおかしな事をしないように街を警備するぞ。ニックの母親をはじめ、狙われそうな人は孤児院に保護しろ!」
団長の指示が伝令で飛んできた。そうか、孤児院なら悪い奴は入れない。俺たちはひとまず、街で狙われそうな人を順次孤児院で保護することにした。
1
お気に入りに追加
339
あなたにおすすめの小説


わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる