聖女は世界を愛する

編端みどり

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50.神殿の愚行

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ニックは遠征らしく1週間くらい会えていない。最近はわたしのお祈り中継もなくなり定期的に会う理由がなくなってきていた。

それでも会えば優しいし、お菓子食べさせてくれるし、魔物を討伐してるらしくて、魔物が居なくなればわたしは自由になれる筈だって頑張ってくれてる。だからいつも加護をいっぱいかけるんだけど、わたしにはそれくらいしか出来ない。本当は、ニックとずっと一緒が良いのに。

今回は討伐が長い。なかなか会えなくて寂しくなってた頃に、神殿がバタバタしだした。今日は異様に機嫌が良いシスターコリンナがものすごく怖い。

お祈りも、いつもと違っていた。明らかに神殿関係者ではない人がたくさんいたのだ。

しかも、気持ち悪い目でわたしを見てくる。怖い、さっさと結界に引きこもろうと思っていたら、わたしの部屋にさっきも居た気持ち悪い人がいっぱいいた。

「おお! 聖女様! はじめまして! なんとお美しい」

「こんにちは、聖女様。わたしは伯爵家の跡取りなのですよ」

「わたしは……」

なに、この人たち。
この視線には覚えがある。居酒屋バイトでたまに見たやつだ。下品な目でわたしを見てるのが分かる。舐め回すように見ないで! 身体触るのもやめろ!

怖い、怖い、怖い!!!

「聖女様、あなたは結婚する事が決まりました。この中のどなたでも結構です。今すぐ選びなさい」

「……い、嫌です!」

「黙りなさい。決定事項です。今すぐ選びなさい」

怖い! 助けて!

なんで、なんで、なんでっ……!
知らない男の人がわたしの手を握る。
知らない男の人が、わたしを、抱きしめようとする。

嫌だ、ニック以外わたしに触るな! 身体の中から、今まで我慢していたものが吹き出す。感情のコントロールが効かなくなる。神様の声がした気がするけど、分からない。

「ダ レ モ チ カ ヨ ル ナ!」

黒い感情が体中をめぐるのに、止められない。気がつけば神殿全てを巻き込んで、巨大な結界を張っていた。


……ニック視点

「何があった」

魔物を倒して、戻ってきたら愛梨沙に通信が繋がらない。神様からすぐ神殿に来いと通信が入る。神殿に来たら、神殿は巨大な結界に覆われていた。結界はいつもと違い、真っ黒だ。

結界の側で呆然としている神殿長やシスターコリンナがいる。ってか、これ神殿の奴らみんな居るな。って事は愛梨沙の結界に押し出されたのか?

ん?
アレは貴族だよな? なんか神殿長に詰め寄ってんぞ?

「聖女様と結婚できるかもしれないと言うからあんな多額の寄付をしたんだぞ! 何故聖女様に拒否されるのだ!」

「聖女様はシスターコリンナの言う事はなんでも聞くのではなかったのか?!」

何やりやがった。オレは頭に血が上り、シスターコリンナを問い詰めた。

「どういうことだ、聖女様が嫌がる相手と無理矢理結婚させようとしたのか?」

「……なっ、あなたのような者に答える必要はない!」

「いいから答えろ。死にたくなきゃあな」

周りが怯えているが知ったことか。

「聖女様はこちらの貴族の方々のどなたかとご結婚する事になった」

神殿長が、答えた。

「あいつが了承するわけねえよなぁ! んで嫌がった結果がコレか!!!」

「誰も中に入る事はできん」

周りを確認すると、神殿の奴らが結界に入ろうとしているが、全てはじかれている。誰も近寄るなと言って結界を使ったらしい。
けど……オレなら入れるんじゃねぇか。結界に手をかければ、いつものようにすんなりと受け入れられた。

「な……なぜ貴様は入れるのだ?!」

「それはなぁ、オレが聖女サマのお相手だからだよ。彼女が受け入れるのはオレだけだ」

そのままオレは、周りに殺気を放ち結界の中へ入っていった。


……ダリス視点

「あーあ、やらかしやがった」

ニックの殺気がやばい。殺気だけで殺されそうだ。俺でも恐怖で立っているのがやっとだから、市民は腰を抜かしているし、直接殺気を浴びせられた神殿長やシスターコリンナ、貴族どもは気絶してやがる。

「おい、いますぐニックの母親を保護するぞ」

神殿が卑怯な真似をしかねないことは、ここ数年で分かっている。今までニックはノーマークだっただろうが、すぐに母親の存在はばれるだろう。最近はとても元気に過ごしているが、神殿に捕まってしまえばニックたちの身動きが取れなくなる危険性がある。神殿長が起きて変な指示する前に、保護しておきたい。ホントは神殿長を捕らえたいくらいだが、それは無理だろうなぁ。

「問題なく保護出来てるだろ。有事に備えて、護衛をつけておいて正解だったな」

神殿が追い詰められていることは分かっていたから、最近は団長の指示でニックの母親には秘密裏に護衛が付いている。ニックは遠慮するから、ニックにも内密にだ。神殿の方角で騒ぎがあれば無条件で騎士団で保護することになっているし、ニックの母親も了承済みだから、もう保護されてるだろう。

「団長すげぇよな、こうなること予想してたのかよ」

「わっかんね。ただまぁ、ファインプレーだよな。とにかく、長いこと親友やってるが、ニックがあんなにキレてるの初めて見た。殺気がやばすぎんだろ」

「最近は魔物の狩り方もだいぶ鬼気迫ってたし、ストレスかなりあったんじゃね?」

「まぁ、そうだよなぁ」

聖女様は最近随分美しくなられたから、狙う貴族は多数いた。ニックがことごとく潰してたけどな……。あいつ絶対透明化の魔道具大量に持ってるか自分で透明化使える筈だ。言えねぇのは分かるから聞かねぇけど、団長の机に覚えのない貴族の調査資料が増えてたり、王城で知らないうちに収賄の証拠が見つかるとかおかしいだろ。それがことごとく評判の悪い聖女様に懸想してた貴族なんだもんな……あいつが透明化を使えても変なことには使わねぇ筈だから、いつか本当のことを教えてくれればいいな。
それにしても、神殿が聖女様の結婚を斡旋するなど誰も思わない。寄付金で聖女様を売り飛ばすとか何考えてんだよ。

「神殿がおかしな事をしないように街を警備するぞ。ニックの母親をはじめ、狙われそうな人は孤児院に保護しろ!」

団長の指示が伝令で飛んできた。そうか、孤児院なら悪い奴は入れない。俺たちはひとまず、街で狙われそうな人を順次孤児院で保護することにした。
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