聖女は世界を愛する

編端みどり

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36.どれだけ買う気だ【ダリス視点】

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「ダリス、すまん教えてくれ!」

親友のニックが俺に頭を下げたことは、ほぼなかったんだが、ここ1ヶ月で2回も見る事になるとは思わなかった。ニックが神殿から戻り、団長室にこもった次の日に極秘任務として騎士団全員に通達されたのは、神様の計画の手伝い。団長が騎士団全体に聖女様の扱いを公開したもんだから、俺たち騎士の神殿への怒りはものすごかった。
俺もニックと団長から聞いた時にはものすごく腹が立ったからみんなの怒りは当然だし、もう聖女様が虐げられないなら、全力で協力することにしようと騎士団の心はひとつになった。神殿の懲罰を受けたことがあるものは騎士にもいたが、確かにあれは理不尽な暴力だと皆口をそろえて言っていた。

そこからは早かった。ニックは遠征準備のためと偽り、神殿に騎士の交代を申請したらすんなり通った。その間にニックはしばらく不在でも問題ないように根回しをする。ニックの母の容体は安定しているから、うちがしばらく面倒をみることになった。その間も、聖女様の護衛に騎士が交代で赴く。俺も一度行ったが、ずいぶんとおとなしい少女のように見えた。というか、元気がないのではないか? ニックや団長の話を聞いて、ずいぶんたくましい女性を想像していたのだがな。あぁ、それからシスターは確かにダメだ。俺たちは接する時間はわずかだったが、聖女様への言動は呆れるしかないし、あんなにも人を馬鹿にした言動を嬉しそうに言う女など初めて見た。幸い、懲罰などはなかったが、皆怒りを抑えられず、護衛任務は複数人で交代で行うことにした。ニックはすごいな。俺なら、最初の懲罰を見た瞬間にシスターを殴っていた自信がある。しかしそんなことをしては、クビになるだけで聖女様の助けにはならなかっただろう。

すべての準備が終わり、俺とニックが明日は神殿に行くことになった。ニックは遠征前にお世話になった神殿に挨拶に来たという触れ込みだ。そしてトラブルが起きる寸前に神殿を出たと思わせるために俺がついていく。もう後は、明日に備えて休むだけなのだが、何故俺はニックのつむじを見つめているのだ。

「どうした、ニック。頼みとはなんだ?」

「その、ダリスというか、ダリスの奥様に聞きたいことがあってだな……」

なんでだ、俺の妻に何の用だ。そんな赤い顔で言われたら警戒するんだが。

「じょ、女性の好きな食べ物を売っている店を出来るだけたくさん教えてくれないだろうか……」

「お前、聖女様に差し入れでも持っていくのか?」

涙目で頷いているニックは、俺の知らない表情をしていた。そうか、ニックは聖女様が好きなんだな。なんとなくそんな気はしていたが、確信した。ニックと恋の話ができる日が来るとは思わなかった。いつも女性は寄ってくるが、適当に躱していて、口説き文句なんて言ってるのは聞いたことがない。それが本気で口説こうとするとこんなにも照れる姿を見せるのか。

「よし分かった! マリアに色々聞きに行こうぜ!」

マリアと結婚できたのも、ニックの根回しのおかげだからな。ニックは色んな奴の縁結びをしている割に、自分のことには無頓着だったし、寄ってくる女性も適当にあしらっていた。まさか買い物ひとつでここまで迷うとは面白い。

マリアに手伝ってもらい、人気の店を聞く。面白そうだから俺も買い物に付き合うことにしたのだが

「おぃニック、こんなに買っても食べきれんぞ!」

「どれが気に入るか分からないではないか! あ、あちらの店も女性が好きそうだ。つきあってくれ」

まさか、男二人で持ちきれんほど買うとは……。聖女様が喜んでくれるといいな、ニック。
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