聖女は世界を愛する

編端みどり

文字の大きさ
上 下
22 / 82

22.アリサは誰が育てるの?

しおりを挟む
「緊急の要件との事で参上致しました」

あのあと大騒ぎだったけど、神様の言葉に逆らえない神殿の方々は、ニックさんをダッシュで大聖堂に呼んだ。

「ニック、この子を預けたい」

神様! いきなりすぎます。もうちょっと説明してあげてください。具体的には、あなたが誰かをまず教えてあげて。

『む、すまん』

わざわざ謝ってくれるなんて、さすが神様、寛大です。

『そうだろう、そうだろう』

なんか、神様との会話が楽しくなってきた。そっか、わたしおしゃべりするのも久しぶりだ。ありがとう神様! って、神様ご機嫌な様子で笑ってますね! んで、神殿のみんなはビビってますけど?! 笑顔が怖いの!? そんなのあのシスターだけでいいよ!

「我は神だ。そこな聖女の力により具現化しておる。我が指示をし、子どもを聖女が保護した。神殿関係者以外で其方が信頼できそうだったのでな、この子の養育は可能か?」

「申し訳ありません。うちには年老いた母がおりますが、病に伏せっております。私も騎士団の任務があり、とても幼い子を育てられる環境では……」

「其方は、妻や恋人はおらぬのか?」

「私は独り身でございます。恋人などもおりません」

神様! 何聞いてんの!!!

『良かったのぉ、恋人も居らぬようだぞ』

ああもう、余計な事聞かないでよっ!

『しかし、この流れなら聞いてもさほど違和感はあるまい』

まぁそうね、お兄さん改めニックさんは、恋人は居ない。と。いや、それわたしが聞いてどーするよ。どうせ一生ここに居なきゃなのに。

……? 神様顔顰めてどーしました?

「では、其方が最も信頼でき、養育が可能と思われる者は誰じゃ?」

「我が騎士団の団長であるフィル・ポール・マーシャル様でございます。」

「ふむ、公爵家ならば金銭は問題ないな。その家は、虐待などはあり得るか?」

うぉい! 神様、なんちゅー聞き方すんですかぁ! ほらぁ、ニックさんが固まってるじゃん!

『しかしのぉ、其方の願いであろう?』

そうね、そうですね、ありがとう神様! でももうちょいデリカシーってのが欲しかったよっ!

「団長以外の公爵家の方は私は存じません。ですが、団長は鍛錬では厳しいですが、虐待などと言う非道な事をなさる方では決してごさいません。ましてや、何も分からない子どもに理不尽な暴力を与えるなど、団長のいちばん嫌う所業です。団長は決してそのような事はなさらないでしょう」

ほらぁ! 信頼してる団長さんのこと疑うから怒ってんじゃん!

『いや、アレはそういった意味の怒りではないぞ』

焦った神様の声がするけど、ジト目で神様を見つめてやる。

「ふむ、ではその団長を呼べ。外におるであろう?」

逃げるように話題を変える神様をもっかいジト目で見てやる。わたしの表情は位置的に神様しか見えないから多少表情変わっても大丈夫。ラスボスは土下座中だし。お、すぐに団長さんと思われる人が来た。ナイスミドルだ!

『なんじゃ? 其方は団長の方が好みかの?』

いや、団長さんもカッコ良いけどわたしはどちらかと言うと……って、何言わすんじゃあ! 神様!

とにかく、いきなり神殿が呼び出すからなんかあったのかとニックさんを心配して上司の団長もついてきた感じかな? 

『まぁ、近い』

そっか、部下の事心配してついてくるなんて、素敵な上司だね。神様? なぜジト目でわたしを見るのよ?

『其方は、愛に気がつかないのぉ』

愛? 恋人いない歴が年齢のわたしにそれ言いますぅ? 神様は、わたしを無視してサッサと話を進めだした。

「フィル・ポール・マーシャルで間違いないか?」

「はっ」

「我は、そこな聖女の力で具現化しておる。だが、そろそろ時間がない。手短に聞く、ここにいる子どもを成人まで養育する事は可能か?」

「可能でごさいます」

「公爵家ならば、金銭的には問題ないだろうが、虐待などあっては困るぞ?」

「もちろんにございます。私も目を光らせますが、我が家は皆、使用人も含めて虐待のような卑怯な事が大嫌いでごさいます。使用人にも、厳しく禁じておりますし、恥ずべき事として教えております。家庭教師なども、隠れて虐待などができぬよう、きっちりチェックを行っております。以前、教育と称して虐待をする教師がおりましたが、初回で発覚し、虐待を行う前に出入り禁止としました」

「ほぅ、どうやってわかったのだ?」

「それは、とても長くなりますがよろしいですか?」

「いや、安全ならば問題ない」

「大人になる為にさまざまな事を学ぶ中で、厳しい指導をする事もあるでしょう。ですが、虐待などと言う意味のない事は我が家にいる限り起こさせません。ましてや、神様に託されたお子にそのような事、私の命にかけてないと誓いましょう」

「ふむ、では其方にこの子を任せる。名はアリサだ。肉親はもうおらぬ。また、我の守護を受けているが、それが知られると通常の暮らしは送れぬであろう。そのため、秘匿する事を命じる。其方の信頼できる者には言っても構わんが、人は選べよ」

「かしこまりました。謹んでお受けいたします」

「では、すぐにこの子を連れて神殿を出よ。我はアリサに外の世界を見て欲しいのじゃ」

「神殿の者も、もうアリサに構うでないぞ。我はいつでもアリサから世界を覗けるのだからな。それからシスターコリンナ」

「は、はいっ!」

「もうしゃべって良いぞ。今後は時間も構わず、聖女を通して我の言葉を伝える事もあろう。其方がいちばん聖女の近くにおるからな。何かあればすぐに神殿長などに連絡せよ。ただし、今回のように秘匿して頼みごとをする事もあるからの。其方に全てを伝わらなかったとしても、浅慮な事はせぬようにな」

シスターは、かしこまりました! お声かけ頂けるなんて光栄です! って泣いてます。浅慮な事するなって言ってもらえたら、ちょっとは鞭とか減るかな。いやコレ、神様に声かけてもらえたって喜んでて、気がついてないパターンもあるな。まぁ、前よりマシになるかな? 幻影で神様作るのアリかな、ナシかな。

『普通はナシじゃが、あのシスターに対してだけなら、緊急時に限りアリじゃ。多用してバレたらそれこそ殺されかねんから、慎重にの』

いぇい! ありがと神様っ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

処理中です...