聖女は世界を愛する

編端みどり

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10.聖女教育

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「素晴らしいお祈りでしたわ!」

部屋に戻ると、ご機嫌な敵、鞭女、もといシスターコリンナが小躍りしてる。しかし今はまだ逆らえない。完璧に思い通りになると、わたしを舐めきるまで、従順なフリをする必要がある。

「ありがとうございますシスターコリンナ。これもあなたのご指導のおかげですわ。わたくし、もっと皆様のお役に立ちたいので、ご指導をお願いいたしますわ」

こんな喋り方した事ないけど、シスターの口調を真似てみる。

「まあ! なんてご自覚が早いの! 素晴らしいわ! やはりわたくしの教育が素晴らしいのね!」

うわー、イタイヒトだ。わたしを褒めてるフリして自画自賛してる。

「そうですね、素晴らしいですね」

鞭打ちの腕が。

「それだけご自覚があれば、懲罰はいりませんわね」

よっしゃ! 鞭回避! と思ったら、あの女また悪魔のように笑いやがった。

「いま、ホッと致しましたわね。やはりまだ神に仕えるご自覚が足りませんわ!」

結局鞭打ちされるんかい! 痛いよう。

「聖女様は死にませんからね、御自覚されるまでいつまでも鞭打ち致しますわ。謝罪の言葉も仰らないのですから、あと100回は打ちませんと」

あああ! 謝ればよかったのか! って、わかるかーい! くっそ、痛みは感じて苦しいのに意識はハッキリしてて、頭はめちゃくちゃ働くからわけがわからん。ってか、痛いよ! もー神様! この怪我治して下さいっ!

「なっ……」

あれ? 痛くない??

「聖女様! もう癒しの力をお使いになれますの! 素晴らしいですわ!!!」

よく見ると、身体の傷はなくなり、痛くもない。え? 癒しの力ってなによ?

「癒せるならまだまだいけますわね! あと300回追加ですわ!!!」

嘘だろ! お願い、嘘と言って!!!
しかし嘘ではなく、この後何度も痛い思いをして、治療を繰り返すハメになった。痛みに耐えながら検証した結果、神様に祈れば身体の傷は癒えるどころか、服まで修復することがわかったのは収穫だったけど。

だけど、痛みはすぐ癒えても痛さがなくなるわけではない。謝れば少し優しく叩いてもらえる。そう学んだわたしは、シスターコリンナが鞭を持つだけで土下座して許しを乞うようになった。鞭コワイ。

「わたくしの教育は、やはり正しいのですわぁ!」

すげー笑ってるけど、これを教育と呼ぶかよ。先生に謝れ。…そういえば来週は担任の先生の誕生日だったなぁ。クラスでサプライズ予定だったのにもう帰れないんだよね。あの先生は、授業も面白くて優しかった。進路で悩んでるといっぱい色々調べてくれた。うん、やっぱこんな暴力だけでいうこと聞かそうとするのは教育じゃないね。これは、アレだよ。虐待? ゴーモン? 意識がハッキリしてるし、なんか段々冷静になってきたら怒りがわいてきた。とにかく今は耐えろ。何百回も癒しを使いながら、シスターが満足するのをひたすらに待った。傷が癒えればつらいけどなんとかなるな。地獄だけど。やっぱしこんなとこ居れないわ。癒し使うとなんでかお腹もすかないし、どーにかなるだろ。さっさと逃げ出そう。

そういえば、あの護衛のお兄さん、すっごくつらそうにこっち見てるなぁ。動いたらクビだとか言われてるし、動けない感じ? 私のことなんか気にしなくていいのに、我慢してるよねあの顔。ってか、めっちゃ手から血が出てる。どうした?! かわいそうになり、こっそり癒しで治せないかやってみる。直接触らなくても、癒せるんだね。すごいわ。わたしが癒しを使うと部屋全体が眩しく光るから、お兄さんもついでに癒してもバレてない。でも、癒しを部屋全体に振りまくみたいで、シスターにまで癒しがいってて、鞭打ちの腕が痛くなりませんわ! もっといけますわぁ! とか笑っていらっしゃいますよ? ありえん。しかし治さないと痛すぎて無理だし、お兄さんの手は治してあげたいし……なんとかわたしとお兄さんだけ治せないかと色々頑張ってみたところ、何度叩かれたかわかんなくなった辺りで2人だけ癒せるようになった。癒したい対象を、ひとりずつ願えばいけた。神様は優しいのか、シスターを癒しから外せ! って願ってもダメでしたよ。まぁおかげで、わたしとお兄さんだけ癒されてたら、腕が痛くなったシスターの鞭打ちはひとまず終了した。
あの人、ルンルンで部屋出てったよ? お兄さんにももう帰れって言ってるし、わたしにも、今日はごゆっくりお休みくださいとか言っていなくなったけど、今日のご飯貰えてないんだけどなぁ。癒しが空腹も癒してくれる仕様でよかった……。

お兄さん、めっちゃシスター睨んでて、今にも掴みかかりそうなんだけど、シスターはご機嫌で気がついてない。まってまって! クビはまずいでしょ? 大丈夫だよ、ありがとうって伝えたくて、こっそり腕をつかみ笑ってみると、お兄さんはなぜか泣きそうな顔をしていた。
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