聖女は世界を愛する

編端みどり

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短編版

〈短編版〉オマケ【ニック視点】

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「ニック! いいですか! 聖女様のお祈りを、決して邪魔してはなりませんよ! 聖女様も最初は歴代の聖女様のように抵抗なさいましたが、わたくしの教育のおかけで、立派にご成長されたのです! 本日は、少しお疲れのようですから、お祈りも大変かと思いますが、聖女様ならやり遂げるでしょう! 3時間も結界で祈る事ができるなんて、本当に素晴らしいわ!」

「そうですね。聖女様はいつも、一言も話さず静かにお祈りされておられます。わたしはいつも通り、お邪魔にならないよう隣の部屋でお待ちいたします」

「もう! あなたは気が利かないわね! さすが聖女様の教育の邪魔をしただけあるわ! 神様のお許しが無ければクビにしてやるのに!!! そんなことしたらお許しになった神のお言葉に逆らうことになるから、仕事を与えてあげているの! わたくしの意図くらい察しなさい!!!」

「申し訳ございません。気が利きませんで。シスター様の意図とはどのようなことでしょうか?」

「聖女様はお疲れのご様子だったわ! 聖女様に限ってありえないけど、もしもお祈りをサボられていたらわたくしに報告なさい!!! きちんとご教育さしあげますから!」

「かしこまりました。聖女様に限ってそのようなことはないと思いますが、きちんとお祈りをなさっているか、確認させて戴きます」

「ホントはわたくしが見ておきたいのに、神様のお言葉には逆らえないし……」

「そうですね、神の言葉は絶対ですから。神の言葉どおり、シスター様も結界でひとりで祈られるとの事。素晴らしいお心がけです。さすがシスターの鏡ですね。では、そろそろ聖女様のところへ行く時間ですので失礼いたします。シスター様には、後ほどご報告に伺います」

結界でひとりでお祈りするのは、めちゃくちゃキツい。だからあのシスターは、なんだかんだと言い訳してあまり自分で結界内で祈る事はしない。だけど、こんだけ人がいる中でオレに言われたら、プライドの高いあのシスターは、絶対祈る。トドメに神の言葉って言っておいたから、オレが報告に行くときにはぐったりしてるだろう。おそらく夜の聖女サマのお世話も別のシスターが来るはずだから、会話はできなくてもアイツにとっては楽なはずだ。

「あー!!! ゆっくりしたい、なんにもしたくない、休日が欲しいー!!!」

そりゃそうだよな。正直、聖女様なんて雲の上の存在だったから、祈るのが当たり前だと思ってたけど、こんなちっこい女の子なんだもんな。

「ハイハイ、聖女サマに休みはないもんなあ。これでも食べて元気だしな」

「なにこれ?! 甘い匂い! クッキー?!」

「おう、なんか人気らしーぜ」

聖女サマは、質素であるべきだとか言うシスターのせいで、こいつの食事は毎回スープと硬いパンだけだ。

「嬉しい! ありがとうニック!」

ちょっ! 抱きつくな! なんかいい匂いするし! やべえ!

「ちょ、聖女サマがそれはダメだろ」

オレは慌てて聖女サマを引き剥がした。

「いーじゃん、もー、そうだ! 神様、神様、ニックに抱きついてもいいですか?ダメなら1秒以内にお答え下さい! いち!」

「ちょ!」

「よしオッケー!」

また抱きついて来やがった!!!
だけど、幸せそうな聖女サマを見ると引き剥がす気にもならない。抱きしめてやりたいが、それをやったらもう離したくなくなりそうだ。

「雑だろ! さっきから祈りが雑だろ!!」

「いいの! ちゃんと仕事はしてる! あんな誘拐犯どもの願い聞いてるだけありがたいと思え!!!」

誘拐、か。確かにそうだな。
この国は、どこか歪んでる。こんなちっこい聖女サマに全部おっ被せるなんて、おかしいよな。

彼女には、ちゃんと幸せな生活があったのに。

聖女サマに話しかけられた時は、やべぇ! クビになる! としか思えなかった。誰とも話してはいけないと知ってるのに、気遣ってくれたのが嬉しかったから、結界の中ならわからないし、話し相手になって欲しいと言われた時は、速攻で断った。あの時泣いてた聖女サマに声をかけたのも、誰も居ないなら構わないと思ったからだ、他に誰かいたらオレも話しかけたりはしなかった。別にオレは優しいわけじゃないとか言っちまった。
あん時のアイツの顔は忘れられない。それなのに、それでも嬉しかったんだ。お願いだから、この場だけでいいから話をしたいと泣かれた。

もう訳が分からなかった。
聖女様って、こんなにきついのか?
馬鹿なオレはその時はそう思っていた。

だけどさすがに、あんなに泣かれたら話し相手を了承せざるを得なかった。

そして、聖女サマと話すうちに、どれだけ俺たちが恥ずかしいことをして来たのか分かった。

今まで気が付きもしなかった事が、どんだけ異常か次々とわかっていく。

現状、オレができる事はほとんどない。聖女サマと話すたびに、自分が情けなく、悔し涙を流した事もある。だけどその時、聖女サマは笑いやがった。

貴重な浄化をかけて、オレに笑いかけて、オレと話せるからもう大丈夫と笑う。

彼女はしたたかでもある。神様の言葉と言い、教会の鞭打ち懲罰を撤廃させたり、結界でひとりで祈るのがいちばんだと言い、自由を得たと笑う。

しかもそれを、神様に祈って聞くんだから、誰も文句言えやしねえ。

「はぁぁ……聖女様ってもっと儚い感じと思ったんだがな」

「なによ! こんなんが聖女で悪かったわね! わたしだってやりたくてやってんじゃないわよっ!」

「いや、オレは今の聖女サマが好きだぜ?」

「なっ?!」

ああ、すっげーかわいい。
このままずっとオレだけ見てればいいのに。

今まで自分にはなかった、独占欲が湧いてくる。

「ちょっと待ってなさいよ!!! 浄化!」

顔が赤いのが消える。ああ、勿体ない。

「あいかわらずすげぇな。聖女サマの浄化。コレを身体の浄化だけに使うなんて無駄遣いだせ」

「でないと顔赤いのバレるでしょ!!! ホントはお風呂に入りたいけど、コレで我慢してるんだから!」

「その、お風呂ってなんだ?」

「あったかいお湯に、裸で浸かるの。めっちゃ気持ちいいんだよ!」

「へー、この国にはねぇな」

「お風呂あれば、いいのになぁ」

「なんか作れねーか調べてみるか?」

お湯溜めるモンがありゃあ、いけんじゃねえか?
でも、裸で入るとか言ってんぞ?!

「ホント?! 嬉しすぎる!」

「入る時は、オレが護衛の時だけにしろよ?」

「そりゃそうでしよ? ニック以外じゃバレちゃうじゃない」

「じゃなくてだな! 裸になんだろ!? ほかの護衛が見たらシャレになんねーだろーがよ!!!」

「あ!!!」

お風呂とやらが嬉しくて、自分がどんだけアブねーこと言ったか気がついてなかったな。コイツ。

「オレも入ってみたいなぁ、なぁ聖女サマ」

そう言うと、聖女サマは真っ赤になった。
ああ、かわいいなあ。

聖女の任期は、確か3年。そのあとは大抵貴族や王族の奥様になっちまうけど、欲しいなぁ。
幸い、あのシスターのおかげで他の男は近寄れねーし、聖女サマを娶れるくらいの手柄立てて、聖女サマが望んでくれりゃあ、いけんじゃねーかな。

そろそろオレ以外を見ないように、徹底的に口説いとくとしよう。

お風呂とやらも、楽しみだなぁ。
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