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三十九話
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無事、ロザリーとマーティンは試験に合格した。マーティンは、寮でずっと勉強していたそうだ。その上鍛錬もしているのだから凄い。アイザックも合格したが、通えるかどうかわからないそうだ。試験は必ず出ると先生と約束したらしい。
「授業のレベルが高いな。試験に合格して良かった」
「本当なら最初からこの授業が受けられる筈だったのに……! 半年以上損したわっ!」
合格祝いに、寮で立食パーティーを開いた。アイザックが学園に戻って来た時を見計らい彼も呼んだ。これで、ロザリーはアイザックに久しぶりに会えるし、周りからうるさく言われる事もない。ウィルやサイモンはマーティンに勉強を教えていたからという理由で呼んだ。マーティンがサイモンの監視役なのはみんな気が付いているし、問題なく呼べた。
そして、あと1人。
「なぁ? こんな楽しそうな場に教師は要らないんじゃないか?」
「何を言うんですか! マーティンとロザリーが合格したのは先生のおかげですよ」
「俺は頼まれたから教えただけだ。結局、合格者は3人だけだったな。次回の試験で最後だから、不合格者も真剣に勉強してる。教えてやりたいから、少しだけ参加したら抜けるよ。アイザック、マーティン、ロザリー、頑張ったな。マーティンの成績の上がりっぷりは目を見張るものがあった。平民クラスの授業にもついていける。俺が保証する。ロザリーは元々特待生になるくらい賢かったが、苦手分野もあった。マナーが出来るようになったのはオリヴィアのおかげかな? アイザックも忙しい中よく頑張った」
「そうです! ずーっとオリヴィアが教えてくれたんです! オリヴィアは凄いんですよ! とっても優しいし、可愛いし、賢いし! それに、料理も上手だし手先も器用だし強いし……」
今日もロザリーの賛辞が止まらない。その度にアイザックが居心地悪そうにしてるんだけど……。
「ロザリー様、大事な婚約者様が罪悪感で潰れそうですよ」
サイモンがクスクスと笑う。ロザリーは、上質なドレスや宝飾品を身に付けている。全てサイモンの手配だ。ウォーターハウス商会がロザリーの為だけに用意してくれた。サイモンはニコニコ笑いながらロザリーが舐められない為だって言ったけど、多分別の意図もある。
品不足の恐怖はまだみんなの心に残ってる。ロザリーを支援してるのは誰なのか、遠回しに示したいんだろうなって思う。
ロザリーは、分かっててサイモンから手配された品を身に付ける。平民クラスになったから学園で着飾らなくて良いのは嬉しいと喜んでた。
社交界では、誰よりも豪華な品を身に付けているロザリー。わたくしも同じくらいの物を身に付けてるけど、全てサイモンからの借り物だ。父はわたくしに資金も物資も送ってこない。
どうやら、だいぶ資産を減らしたらしい。たまに屋敷に戻ると、アイザックと仲良くやっているかしか聞いて来ない。あまりにしつこいとロザリーに愚痴ったら、アイザックが送迎してくれるようになった。
父は上機嫌になったけど、申し訳なさそうに縮こまるアイザックと一緒の馬車が辛い。だから、もう実家に戻るつもりはない。
実家にあるわたくしの物はいつの間にかどんどん売られていた。社交界に着て行くドレスはもうない。
サイモンが貸してくれて、本当に助かっている。そのままあげると言われたけど、高価過ぎるしもうすぐ平民になるわたくしには無用の品だからと断った。
ロザリーは、すっかりわたくしを慕ってくれている。本当なら、ロザリーの侍女にでもなれれば安泰なんだろう。エドワードにもそう勧められた。けど、もう貴族は懲り懲り。やってみたい事はいっぱいあるし、幸い職には困らなそうだから平民として暮らしたいと断った。
「アイザックは好きだけど、オリヴィアを蔑ろにした事は一生許さないわ」
「怖っ! いいのアイザック?」
「私が悪いんだ……。一生反省する」
「良いの。おかげでわたくしは解放されたから!」
「うぐっ……」
「オリヴィア、アイザックがした事は最低だ。許してやってくれなんて言えない。けど、必死で間違いを正そうとしてる事だけは知っておいてくれ」
ほとんど学園に居る先生がわざわざ城に出入りしてアイザックを指導している。今までの指導係は国外に逃げた。
「分かってます。ロザリーと、国さえ大事にしてくれればわたくしに罪悪感なんて感じなくて良いです」
「今までの事を水に流せるわけじゃねぇけど、悪いと思ってんなら良い国づくりしてくれって事だろ?」
「わたくしは本当に過去の事なんて気にしてないわよ。むしろロザリーに感謝……」
「オリヴィア、それ以上は勘弁してやって。アイザックの背が縮んでしまいそう」
「私が悪いんだ……本当にすまない……」
「大丈夫です。陛下はきちんと反省して前に進んでおられます。思う所はたくさんありますが、オリヴィアは陛下の事など気にもしておられません。無闇に彼女の生活に関わらず、ロザリー様を大事になさって下さい」
「マーティン、言うようになったね」
「マーティン様に見捨てられたら陛下は終わりですよね。だってマーティン様が一番お優しいですもん。ところで、この料理オリヴィアが作ったの?」
「ええ。そうよ」
「この菓子、見た事ないんだけど……」
「ああこれ? 前世にあったお菓子よ。エクレアって言うの」
「美味しいね。作り方教えてくれる?」
「もちろん。そう言うと思ってレシピを書いておいたわ。マリーに渡して」
「了解。ありがとう。レシピのお金は今度払うね」
「分かったわ。わたくしが卒業して平民になったら頂戴」
ほとんどの料理は、サイモンが商品化する。わたくしは利益の一部を受け取れる。
マーティンに頼まれたクッキーだけは、卒業まで内緒にしてる。約束だしね。今回は、合格祝いに作ったから後で渡す予定よ。
ロザリーには、大きなケーキを焼いた。喜んでくれると良いな。
「授業のレベルが高いな。試験に合格して良かった」
「本当なら最初からこの授業が受けられる筈だったのに……! 半年以上損したわっ!」
合格祝いに、寮で立食パーティーを開いた。アイザックが学園に戻って来た時を見計らい彼も呼んだ。これで、ロザリーはアイザックに久しぶりに会えるし、周りからうるさく言われる事もない。ウィルやサイモンはマーティンに勉強を教えていたからという理由で呼んだ。マーティンがサイモンの監視役なのはみんな気が付いているし、問題なく呼べた。
そして、あと1人。
「なぁ? こんな楽しそうな場に教師は要らないんじゃないか?」
「何を言うんですか! マーティンとロザリーが合格したのは先生のおかげですよ」
「俺は頼まれたから教えただけだ。結局、合格者は3人だけだったな。次回の試験で最後だから、不合格者も真剣に勉強してる。教えてやりたいから、少しだけ参加したら抜けるよ。アイザック、マーティン、ロザリー、頑張ったな。マーティンの成績の上がりっぷりは目を見張るものがあった。平民クラスの授業にもついていける。俺が保証する。ロザリーは元々特待生になるくらい賢かったが、苦手分野もあった。マナーが出来るようになったのはオリヴィアのおかげかな? アイザックも忙しい中よく頑張った」
「そうです! ずーっとオリヴィアが教えてくれたんです! オリヴィアは凄いんですよ! とっても優しいし、可愛いし、賢いし! それに、料理も上手だし手先も器用だし強いし……」
今日もロザリーの賛辞が止まらない。その度にアイザックが居心地悪そうにしてるんだけど……。
「ロザリー様、大事な婚約者様が罪悪感で潰れそうですよ」
サイモンがクスクスと笑う。ロザリーは、上質なドレスや宝飾品を身に付けている。全てサイモンの手配だ。ウォーターハウス商会がロザリーの為だけに用意してくれた。サイモンはニコニコ笑いながらロザリーが舐められない為だって言ったけど、多分別の意図もある。
品不足の恐怖はまだみんなの心に残ってる。ロザリーを支援してるのは誰なのか、遠回しに示したいんだろうなって思う。
ロザリーは、分かっててサイモンから手配された品を身に付ける。平民クラスになったから学園で着飾らなくて良いのは嬉しいと喜んでた。
社交界では、誰よりも豪華な品を身に付けているロザリー。わたくしも同じくらいの物を身に付けてるけど、全てサイモンからの借り物だ。父はわたくしに資金も物資も送ってこない。
どうやら、だいぶ資産を減らしたらしい。たまに屋敷に戻ると、アイザックと仲良くやっているかしか聞いて来ない。あまりにしつこいとロザリーに愚痴ったら、アイザックが送迎してくれるようになった。
父は上機嫌になったけど、申し訳なさそうに縮こまるアイザックと一緒の馬車が辛い。だから、もう実家に戻るつもりはない。
実家にあるわたくしの物はいつの間にかどんどん売られていた。社交界に着て行くドレスはもうない。
サイモンが貸してくれて、本当に助かっている。そのままあげると言われたけど、高価過ぎるしもうすぐ平民になるわたくしには無用の品だからと断った。
ロザリーは、すっかりわたくしを慕ってくれている。本当なら、ロザリーの侍女にでもなれれば安泰なんだろう。エドワードにもそう勧められた。けど、もう貴族は懲り懲り。やってみたい事はいっぱいあるし、幸い職には困らなそうだから平民として暮らしたいと断った。
「アイザックは好きだけど、オリヴィアを蔑ろにした事は一生許さないわ」
「怖っ! いいのアイザック?」
「私が悪いんだ……。一生反省する」
「良いの。おかげでわたくしは解放されたから!」
「うぐっ……」
「オリヴィア、アイザックがした事は最低だ。許してやってくれなんて言えない。けど、必死で間違いを正そうとしてる事だけは知っておいてくれ」
ほとんど学園に居る先生がわざわざ城に出入りしてアイザックを指導している。今までの指導係は国外に逃げた。
「分かってます。ロザリーと、国さえ大事にしてくれればわたくしに罪悪感なんて感じなくて良いです」
「今までの事を水に流せるわけじゃねぇけど、悪いと思ってんなら良い国づくりしてくれって事だろ?」
「わたくしは本当に過去の事なんて気にしてないわよ。むしろロザリーに感謝……」
「オリヴィア、それ以上は勘弁してやって。アイザックの背が縮んでしまいそう」
「私が悪いんだ……本当にすまない……」
「大丈夫です。陛下はきちんと反省して前に進んでおられます。思う所はたくさんありますが、オリヴィアは陛下の事など気にもしておられません。無闇に彼女の生活に関わらず、ロザリー様を大事になさって下さい」
「マーティン、言うようになったね」
「マーティン様に見捨てられたら陛下は終わりですよね。だってマーティン様が一番お優しいですもん。ところで、この料理オリヴィアが作ったの?」
「ええ。そうよ」
「この菓子、見た事ないんだけど……」
「ああこれ? 前世にあったお菓子よ。エクレアって言うの」
「美味しいね。作り方教えてくれる?」
「もちろん。そう言うと思ってレシピを書いておいたわ。マリーに渡して」
「了解。ありがとう。レシピのお金は今度払うね」
「分かったわ。わたくしが卒業して平民になったら頂戴」
ほとんどの料理は、サイモンが商品化する。わたくしは利益の一部を受け取れる。
マーティンに頼まれたクッキーだけは、卒業まで内緒にしてる。約束だしね。今回は、合格祝いに作ったから後で渡す予定よ。
ロザリーには、大きなケーキを焼いた。喜んでくれると良いな。
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