悪役令嬢とヒロインは手を組みました

編端みどり

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三十八話【サイモン視点】

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「うーん……ボールペンってどうやって出来てるのかしら……?」

オリヴィアが、真剣な顔で考え込んでいる。
ボールペンと言われても、僕にはイメージが湧かないから分からない。

「要はペン先がボールになってりゃ良いんだろ? 小さなボールを作るとこから始めたらどうだ?」

「そうね! さすがウィル!」

「こんなモンなら、大量に作れるぜ」

「え……これをペン先にするの?」

「インクを少し粘りがあるモンにして、ここに詰めて、先にボール付けりゃいけんじゃね?」

「うー……細かい作業は苦手よ」

「だと思ったんで、マリーを呼んでおいた」

全く、いくら兄だからって休日を楽しんでる妹を呼び出すなよ。マリーなら、オリヴィアが困ってるって言えば飛んで来るだろうけど。

「マリー!! 久しぶり!」

「オリヴィア、元気? ちょっと痩せたんじゃない?」

「最近忙しかったから。けど、今はちゃんと食べてるし大丈夫よ!」

「若様と兄貴のせいでしょ?」

マリーは冷たくボクとウィルを見る。その冷たい態度、ウィルにそっくりだよ。確かに、ボクが失踪したせいで大変な事にはなったけど、父さんには計画を話しておいたし、すぐに無事を知らせたんだから大丈夫って思ってた。けど、連絡いってなかったらしいんだよね。おかげで、でっかいたんこぶを貰ってしまった。

やっぱり、ウィルを頼ればよかったよ。万が一情報が漏れた時、巻き込みたくなくて黙ってたのが失敗だった。

煮え切らない王子と、浪費ばかりする国王に嫌気が差し、王子がオリヴィアを疑ってロザリーに護衛を付けようとした時点で計画を実行する事に決めたんだよね。ウィルに言ったら王子を暗殺しかねないから黙っておいたんだけど、だいぶ心配かけたみたいで悪かったなって反省した。

「え? なんで?」

オリヴィアはすっかり元気になって、楽しそうだ。本当に良かった。

「だって……若様ったら急に居なくなるんだもの。しかも、店まで荒らされてるし。旦那様はカンカンで、怖かったですよ」

「マリーは、商会が閉まってる間どこに居たの?」

「内緒よ。機密情報だから」

「そっか、聞きにくい事聞いてごめんね。じゃあ、一緒にボールペンを作りましょう!」

「ええ。兄貴は麦の茎の空洞の中にインクを詰めて、ボールをペン先に付けるって言ってたけど、さっきから見てると、ちょっとサイズが合わないわよね」

「そうなの! わたくしが使ってたボールペンは、1ミリよりもっと細い線が書けるから……もう少し細い方が良いわね。でも、こんな部品作れないわよね?」

「作れても、ちょっと費用がかかりすぎるかも。出来そうな職人も限られてるだろうし」

「うーん……なら万年筆……それもインクをどうやって溜めたら良いか考えなきゃ……なら、つけペンみたいなものはどう?」

「なにそれ?」

「えっと、漫画家さんがよく使ってて……こんな形してるの。インクにつけて使うんだけど、結構長持ちするみたいよ。キャラクター1人分くらい描いてたのをネットで見たわ」

「へぇ。そんなペンあんのか。ペン先がどんなもんか分かるか?」

「多分……こんな感じ? あ、あとガラスペンなんかも良いかも」

オリヴィアの描いたペン先は、どれも今まで見た事がない形だ。細かい作業になるが、うちの職人なら可能だろう。

お抱えのガラス職人も居るから、ガラスペンとやらも作らせてみよう。

それにしても、ウィルはなんでも知っているな。初めて会った時も子どもらしからぬ言動が多かったが、オリヴィアの話についていけるのは凄い。

ボクは漫画とやらも知らないし、ガラスでペンを作るなんて発想はない。オリヴィアは前世を思い出してから昔のように天真爛漫になったが、楽しく話を始めるとボクは知らない前世の単語がポンポン出てくる。彼女は、我々とは違う世界に住んでいたのだと実感する。オリヴィアがどこか遠くに行ってしまいそうで不安になる。

だけど、ウィルがサラリと流してくれるから気にしないで良い。いちいち前世の言葉を確認するエドワード様みたいにはなれない。ボクは、商人だから。多少知らない事があってもハッタリで誤魔化す。で、後で必死で調べておく。楽しく話している時に話の腰は折らない。それがボクらのやり方だ。

もちろん、エドワード様みたいに疑問に思えばすぐに確認するのも良いと思う。彼は国を支える宰相になるお方。疑問点を残しておく事は許されない。

政治などの難しい事はボクには分からないし、考えてはいけない。商人は、客の喜ぶものを売り対価をもらう。それだけであるべきだ。

今回は色々やっちゃったけど、僕らがやったのは店を閉めただけ。表向きは、商人に許された範囲内の事しかしてない。

裏では色々やったけどね。デモを計画してる市民に食糧や資金を提供したり、地下水路を通れるように整備したり、病人や怪我人に薬を届けたり。

たくさん現れた闇商人の中に紛れ込んで、国王派の貴族達の財産を搾り取ってやったり。国外逃亡する為に身軽になろうと高価な宝石を買い求めて来た貴族達に、価値の低い宝石を押し付けたり。

結構儲かったよ。私利私欲しか考えてない奴らだけあって、良いもの持ってた。おかげで、商会を閉めたマイナス分くらいは賄えた。

ついでに、脱出した後の買い物先も困るようにしちゃった。うちを出禁にしたら、他でも警戒されてちょっとでも高圧的な態度を取ればすぐに出禁になってるみたい。ふふっ、買い物に困るよねぇ。

国に帰ろうとしても帰れば国家反逆罪で捕まるから帰れない。国が混乱してる時に逃げたんだから当然だ。新しい国王陛下はお優しいよね。国境でわざわざ説明してやるなんてさ。ボクだったら国に帰って来て城に招いてから捕まえて処刑するのに。

気に入らないと思ってたけど、オリヴィアを解放してくれたし、思ったよりちゃんとしてる人だったから彼が国王でいられるよう頑張ることにしたんだ。闇商人の半分はうちの商会の者だったから、彼の即位を邪魔しそうな人達は多めに金を搾り取って資産を減らした。欲張りは我慢が出来ない。高価な食材を高額で売りつけた。本当は闇商人にうちの商会の人達を紛れさせたのは、庶民が困らないように物資を届ける為だったんだけど思わぬ副産物を得た。王都は配給をしっかりやったみたいで、思ったより困ってる人が居なかったのは良かった。地方も多少飢えたみたいだけど、餓死者は出なかった。備蓄を出さなかった貴族達の領地はこっそり食糧を配った。一か月くらいだったから良かったけど、長引いたらうちの商会も保たなかった。父上は凄い。損をしても構わないって食糧をタダで配っちゃうんだから。

で、結果的に欲張りな貴族達が溜め込んでた資産を搾り取って損はしてないんだから……敵わないって思ってしまう。けど、いずれ絶対追い越してやる。

備蓄を出さなかった貴族達は全員取り潰しになった。反対意見は出たけど、非常時に民を守れない貴族は要らないと国王が命令したらしい。結構やるじゃん。

「サイモン、つけペンなら作れそう?」

「そうだね。職人に聞いてみるよ」

「わたくしも行っていい?」

「もちろん」

「ありがとう!」

オリヴィアが、嬉しそうに笑う。あー……可愛い。初めて会った時からオリヴィアは天使のようだった。彼女は潰れかけてたうちを救ってくれた。

どうして助けてくれたのか聞いたら、凄い答えが返ってきた。

「だって、わたくしの欲しいものを理解して持って来てくれたのは貴方達だけだったもの。だから、わたくしの為に国一番の商会になってちょうだい。まだまだ、欲しいものはあるんだから!」

幼いオリヴィアは親に振り向いて欲しくてワガママを言ってるだけだった。彼女に薔薇を渡すよう勧めたのはボクだ。そしたら……あんな事になるなんて……。

オリヴィアが両親に愛される事を望まなくなった時、決めたんだ。彼女が幸せになるなら、なんだってするって。

とりあえずオリヴィアを解放してくれた国王陛下は、だーいすきな女性と生涯添い遂げて貰わないとね。

ボクの私財を使えば、見た事もない美しいドレスを用意出来る。ロザリーの養子先からも多少お金は貰うけど、それじゃ足りない。誰もが羨む、最高級のドレスを用意するんだ。察しの良い貴族達は、ロザリーのバックに誰がいるか気が付く。

さすがに……しばらくはうちの商会を怒らせたいと思う人は居ないだろう。

無邪気に笑うオリヴィア。彼女はボクの宝物だ。
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