悪役令嬢とヒロインは手を組みました

編端みどり

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二十九話

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先生とロザリーに学園を任せて、アイザックとエドワード、侍女に扮したウィルと共に城に戻る為に馬車に乗る。

戻る頃には、マーティンと城で合流出来るだろう。

馬車の中から街を確認したら、既に全ての商店が閉まっており買い物客が困惑している様子が見える。

「やっぱり閉めたわね」

「そりゃそうだろ。親父さん、すっげえ怒ってたぜ。早くサイモンを返さねぇと、明日には商人が街から消えるぞ。マリーも、荷物を纏めろって言われたらしい」

「そうよね。怒るわよね。ただでさえ赤字経営なのに、無理に国に残ってくれてたんだから」

「オリヴィアには恩があるって言ってたからな」

「じゃあ、オリヴィアが居なかったらウォーターハウス商会はとっくに撤退してたって事?」

「そうでしょうね。商人は利益を求めます。売れば売るほど損するなんて、普通受け入れられませんよ。商品の値段を上げるにも限界があります。例えば、明日からパンの値段が倍になったらどうします? 仕方ないと受け入れる人は余裕がある人です。余裕が無ければ、店主に噛み付くし盗みも増えます。サイモン達は、この国の治安が悪化しないように損を受け入れてくれたんですよ。なのに恩を仇で返すような真似しやがって……」

「……すまない……」

「別に王太子殿下が悪いなんて思ってませんよ」

「だよね。アイザックは、全てにおいて無関心だっただけ」

エドワードの氷点下の視線がアイザックに突き刺さる。

「トドメを刺すのはどうかと思います」

「揉めてる暇はないわ。とにかく、早くサイモンを助けないと」

ヤンデレのサイモンなんて絶対嫌よ。エドワードはまだ間に合うって言ったけど、万が一拷問なんてされたら……気持ちばかりが焦ってしまう。

「……だな」

「何よ、妙に落ち着いてるじゃない」

「オレさ、さっきは冷静さを失ってたんだけど、オリヴィアのおかげで落ち着いたんだ。んで、考えた。なんであのサイモンがあっさり捕まったんだろうって。リリもミミもまだ国に居る。街に行く時、サイモンが護衛を連れてなかった事あったか?」

「なかったわね」

「だろ? 多分、サイモンは無事だよ」

まさか、まさか、まさか……。

「ねぇウィル、わたくし物凄く嫌な予感がするんだけど」

「オレもだ。オリヴィアの指示は的確だったな。しばらくは混乱が続くだろうし、街の警備は要る。サイモンは、今頃笑ってるんじゃね?」

「もぉー! どーすんのよ! サイモンの馬鹿ぁ! ウィル、居場所に心当たりは?!」

「あったらオレがあんなに取り乱してたと思うか?」

「思わないわ……。え、これどうなるの? どーすんのよ?!」

「城にサイモンが囚われてりゃぁオレ達の勝ちだ。サイモンが見つからなかったら……サイモンの勝ちだな」

「2人の会話が不穏過ぎて怖いんだけど。ウォーターハウス商会の撤退が王都だけなのか、国中なのか、どっちだと思う?」

「サイモンの親父さんは緩い事はしません。サイモンに手を出した時点で国中の店が閉まります。王都以外に情報が流れるまで少し時間はかかるでしょうけど、最速で情報は広がりますよ。1週間もすれば、全店閉まってるんじゃねぇっすか?」

「最悪だね。餓死者とか出ちゃうかも。まずいな、急いで情報を回さないと」

「それはないと思います。オリヴィアは民が死ぬ事を好みません。ましてや餓死なんて……彼らはオリヴィアが泣く事はしませんよ。多分、ギリギリで飢えは凌げます。ただ、不満が溜まって王家への不信感が広がるくらいの事にはなるでしょうね」

「何故……オリヴィアの名が出るのだ……」

「オリヴィア、この王子様にはなんにも伝えてねぇのか?」

「そうよ。婚約者になったばかりの頃少しお話はしたけど、つまらなそうだったから二度と話さなかったわ。アイザックの好む話は、貴族の動向だけよ」

「それ、完全にオリヴィアを情報収集に使ってるだけじゃん。だから婚約してからは会議で完璧な返答が出来たんだね」

「……その通りだ。オリヴィア、すまない」

「わたくしに謝罪は不要だと申し上げましたわ」

「謝って貰っても今更だもんな。オリヴィアはもう王子様を好きじゃねぇんだろ?」

「ええ。アイザックもロザリーがお好きでしょう?」

「……ああ」

「そこでオリヴィアが好きだとか言い出したらぶん殴るとこだったよ。仕方ない。この騒ぎが収まったら、アイザックとオリヴィアの為に少し動くよ」

「お、ようやくオリヴィアを解放して下さる気になりました?」

「そうだね。まさかあんなに嫌がってるとは思わなかった。オリヴィアは優しいから、アイザックとロザリーが抱き合ってるのを見て全てを諦めたんだと思ってたんだ。良かったね。儀式をしてなくて」

「ですね。オリヴィアが処刑されるなんて認めません。そんな事絶対にさせねぇっす。大体、オリヴィアが大人しくしてる訳ねぇっすよ」

「どーゆー意味よ?」

「そのまんまの意味だ。オリヴィアは諦めたりしねぇ。オレらはみんな諦めてたのに、オリヴィアだけは諦めなかった。だから、オレらは今も生きてる。死にかけてたマリーなんて、今じゃトップパティシエだぜ。時々試作の菓子を子ども達に配ってくれるんだ」

「そうか……このままだとマリーも居なくなっちゃうわね」

「大丈夫だ。サイモンを見つけりゃ良いんだから」

「その、オリヴィアとウィルはずいぶん仲が良いな。平民クラスで仲良くなったのか?」

「アイザック、話聞いてた? 仲良くなったのが最近な訳ないじゃん。本当にオリヴィアの事知らないんだね。女性ならともかく、オリヴィアが異性と親しくなるまでには数年かかる。僕もマーティンも、仲良くなったのはアイザックとの婚約が決まる寸前くらいだもの」

「ウィルとは、子どもの頃から親しかったの。でも、最初に会ったのはエドワードよ。確か3歳くらいの時パーティで会ったわよね?」

「覚えててくれたんだ。次はサイモン? それともウィル?」

「5歳くらいでサイモンとウィルに会ったわ。最初はサイモン、次はウィルね。その頃からエドワードやマーティンとパーティで話すようになったわね」

「そうだね。最初はあんまり話せなかったよね。オリヴィアの婚約が決まったのは10歳くらいだから、知り合ったのはアイザックが最後だね」

「そうね」

「最後なら、オリヴィアの好きなものや嫌いなものを知らなくても仕方ないよね」

「エドワード様、さっきから言葉でサクサク刺してるのはなんなんすか。普通婚約者なら、子どもの頃から知らなくても相手の事を理解しようとするでしょう。オリヴィアなんて、王太子殿下の好みを隅々まで把握してますぜ」

「ウィルの方がトドメを刺してるじゃん」

「あの、それくらいにしておかない?」

アイザックの顔色がどんどん悪くなっていくから、見てられないんだけど。

「アイザックは僕らの発言を認めるって言ったんだからちゃーんと聞いてくれないと。今だけなんだから、こんなに好き勝手言えるの」

アイザックは先程のわたくし達の不敬罪発言を全て受け入れてくれた。不敬にしないと約束してくれた。その約束は、城に着くまで有効だ。

「……ああ、ちゃんと聞く」

顔色は悪いけど、真っ直ぐエドワードの顔を見てる。ウィルは、少しだけ表情が和らいだ。

「ふぅん。最低野郎だと思ってましたけど、そうでもなかったかもしれませんね」

「今までは間違いなく最低野郎だったよ。でも、アイザックの良いところはちゃんと反省してくれるところさ。お父上みたいに、耳を塞いだりしない。一時期は耳を塞いでたけど、これからはそんなことしないよね?」

「ああ、ちゃんと話を聞いて、自分で考える。気になる事があるなら、これからも教えてくれ。ただ、他の者が居ない時に頼む」

「任せて。言いたい事はまだまだあるからね」

ギョッとするアイザックを見つめるエドワードは、優しい笑みを浮かべて微笑んだ。
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