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十九話

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寮に戻る気になれない。サイモンやウィルは寮の近くで待ってくれている。会えば間違いなく泣いてしまう。そうなれば、きっと2人はアイザックを潰そうとする。どれだけわたくしが止めても、もう止まらない。

だから、会いたい人に会ってはいけない。

目に付いた教室へ駆け込んだ。休日なら誰も居ない。ここで泣こう。そう思っていたらすぐに理事長先生が教室に入って来た。

「……オリヴィア……すまない!」

いきなり先生が土下座するものだから、涙が引っ込んでしまったわ。

「……あ、あの……なんの謝罪でしょうか? わたくし、理事長先生に謝られる覚えが無いのですが……」

アイザックはともかく、先生が謝る理由が分からない。

「俺は、オリヴィアなら王妃に相応しいと思っていた。アイザックにオリヴィアを大事にしろと叱ったのは俺だ。オリヴィアの気持ちを無視して、大人の都合を押し付けた。申し訳なかった。すぐに婚約解消は難しいが、もう一度アイザック、オリヴィア、それからロザリーの意志を確認して俺が出来る事をする。確認だが、オリヴィアは王妃になりたくないんだよな? アイザックへの愛は冷めてしまったか?」

「はい。あんな浮気者と結婚なんて御免です。アイザック様の婚約者でなくなればきっとわたくしは父から捨てられ、貴族ではなくなるでしょう。それでも構いません。わたくしは、王妃も貴族も嫌です。あの、学費は納めておりますし返金はされませんから……平民になっても学園に通い、卒業する事は可能でしょうか?」

アイザックの事なんてどうでもいい。学園は卒業しておきたい。だって、授業はとても楽しいし、卒業生の就職先は無限にあるのだもの。

「寮は平民寮に移る事になるが、卒業は可能だ。もちろん授業も受ける権利がある。ただ、平民用の授業になるから少し難しくなる。でも、オリヴィアならついていけるから大丈夫だ」

やった! 平民クラスの授業を受けられるのね! 嬉しくてガッツポーズをする。いけない、はしたないわね。ああ、先生が土下座なさったままだわ。

慌てて顔を上げて頂くようお願いし、もう一度確認する。寮と授業が平民用になるなんて最高じゃない! いつもサイモンから経済学が素晴らしいと聞いていた。貴族用の授業だとさわりしか教えて貰えないから、知りたいと思っていたと伝えると先生は目を丸くした。

「オリヴィアは……本気で学ぶつもりなのか?」

「学園は学ぶところでしょう?」

「そう……なのだが……。貴族は学園を社交の場だと思っている者が多いんだ。オリヴィアはもう学園を卒業出来る知識がある。だから、学園はテストだけ受けるものかと思っていた」

「通えるならもっと授業を受けたいと思っておりました。先生は、わたくしやエドワードが学べるように働きかけて下さったのではないのですか?」

「ああ、そうだ。自由を満喫して欲しかったんだ。学園では、それが許される。けど、貴族の授業はオリヴィアにはつまらないだろうなと思っていた。よし! 婚約解消には時間がかかるだろうから、貴族が平民の授業を受けられるように、早急に体制を整える。希望した貴族で、一定の学力がある者は平民クラスの参加を認める事にする。ただし、一度でも平民の生徒を馬鹿にしたり使用人扱いしたら即貴族クラスに戻す。そういうルールで運用する。平民クラスの講師は全て俺だから、目を光らせる。文句は言わせない」

「まぁ! では先生の授業を毎回受けられますの?! 嬉しいですわ! わたくし、入学して最初のオリエンテーションで先生が仰った事を励みに頑張っておりましたの! おかげで、悪役令嬢にならなくて済みましたわ」

「悪役令嬢とは何だ?」

しまった……!
思わず言ってしまったわ……。どう説明しようかしら。
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