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十三話
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「さ、着きましたよ。オリヴィア様」
サイモンが案内してくれた宿は、わたくしの部屋よりも大きく、豪華だった。
「使用人を2人連れて来てます。どちらも隣国の下位貴族ですから、証言する権利があります。だから安心して下さいね。ボクと浮気したなんて言われたら困るでしょ?」
「ありがとう。この子達はサイモンの味方?」
「そうです。嘘を吐かないと有名な姉妹です。信仰心が高いから、ボクが命令しても嘘は吐きません」
「「よろしくお願いします」」
名前は、リリとミミだそうだ。本名は違うのだが、サイモンに仕える時はそう名乗っているらしい。普段は隣国に居るが、定期的にサイモンの元で仕事を覚えているそうだ。遊学として出国と入国の許可が下りている。遊ばせてるし、学ばせてるから嘘じゃないとサイモンは言い切っていたわ。今回は遊学した時に友人のわたくしと過ごしたという事にするらしい。
だから、友人になって下さいと頼まれた。
もちろん了承したわ。
サイモンはいつも抜かりがない。わたくしがここに居る事は秘密だけど、万が一露見しても問題ないように整えてくれた。
「彼女達は借金のカタに変態貴族に売られる予定だったんですけど、計算が早く賢い上に嘘を吐かないなんて素晴らしい人材でしょう? 借金を全て肩代わりして、うちで雇い入れたんです。ちなみに、変態貴族様は破産しました」
サイモンがニヤリと笑う。破産したんじゃない。破産させたのね。
「やったわね?」
「ああ、見るに耐えなかったからね。価値のないモノを大量に売りつけたら勝手に破産したよ。お貴族様なら審美眼くらい持ってろよな。オリヴィアなら、すぐ気が付くのにさ」
「わたくしは王妃教育で叩き込まれたもの。それに、サイモンが教えてくれたじゃない。嫌でも分かるようになるわ」
サイモンがようやく仮面を外し、わたくしに向き合ってくれる。わたくしとサイモンとウィルは幼馴染だ。3人だけの時は、敬語なんて使わない。
サイモンとの出会いは5歳くらいだった。その後ウィルとも出会い、わたくし達3人は親しくなった。
「あれ、楽しかったよね。オリヴィアは審美眼が凄かったけど、ウィルはからきし駄目でさ。ボクが審美眼だけはウィルに勝てるって調子に乗ったら、大げんかになっちゃって……」
「そうそう、わたくしが泣いて止めたのよね」
「懐かしいね。この子達は護衛も兼ねてるし口も硬いから安心して過ごして。そのうちウィルも来ると思うし、久しぶりに一緒にご飯でも食べようよ。オリヴィアの好物を用意するから」
「ありがとう! 嬉しい! ねぇ、お花のクッキーを作ったのってマリー?」
「そうだよ。ウィルが連れて来たんだけど、やっぱりオリヴィアも知ってたんだ」
「ええ、懐かしいわ! マリーは元気?」
「元気だよ。うちのトップパティシエの1人さ。相変わらずウィルの連れて来る人はおかしいよね。来た時はお菓子なんて作れなかったのに、1ヵ月で店を任せられるようになった」
「マリーは、貧民街で一番器用だったの。それにね、味覚が優れてたわ。あのクッキー、味の調整が難しいものね。ウィルの紹介だって言うから、絶対マリーだと思ってたの! 会いたいわ!」
「明日はゆっくりできるらしいし、連れて来るよ。貧民街って食べるのがやっとなのに、なんでマリーはあんなに味覚が鋭いんだろうね」
「それは偏見よ。食品も新鮮な物がなかなか手に入らないし、野草も使うから鮮度や毒の有無を舌で見分けるの。味覚が優れている人も多いのよ」
「そうか、ボクが浅慮だったよ。散々ウィルから貴重な人材を紹介して貰ったのに、また勝手に人を区別してた。ごめん。ウィルには黙ってて。今後は絶対こんな事言わないから」
「言わないわよ。それに、聞いたとしてもウィルは怒らないわ。ウィルはサイモンを信頼してる。感謝してるっていつも言ってるもの」
貧民街の人は、税金を払えていない人がほとんどだ。身分は平民だが納税していないからと騎士の見廻り対象からも外されており、治安も悪い。市民も貧民街の人達を蔑んでいるから、なかなか仕事を斡旋して貰えない。だからますますお金がない。けど、ウィルとサイモンが仲良くなってからは少しずつ貧民街の人達の暮らしも良くなっている。
サイモンは、貧民街の方をたくさん雇ってくれた。
「感謝するのはこちらさ。ウィルのおかげで、うちの商会は大きくなった。元はと言えばウィルと出会わせてくれたオリヴィアのおかげだね。だから、ボクは2人の為に出来る事はなんでもするよ。オリヴィアに助けて貰わなければ、うちは一家離散してたし、父さんは死んでたんだから」
「そんな事ないわ。ウォーターハウス商会の品はどれも品質が良かったし、いずれ持ち直したと思うわよ」
「いや、保たなかったよ。本当にオリヴィアには感謝してる」
「もう充分恩返ししてもらったわ。だからこんなに豪華な部屋を用意しなくても良いのよ?」
「せっかく久しぶりに3人で話せるんだから、邪魔者には来て欲しくないでしょう? 3つの宿を貸し切ってて、ここは真ん中のランクだから万が一王太子が探しに来ても最初にここに来る事はない。情報が入る前に、移動出来るよ」
え……豪華な宿をあと2つも貸し切ってるの?!
「な……何やってるのよ! 大体、アイザックがわたくしを探すなんてあり得ないわ!」
「あはは、久しぶりだね。そんな顔するの。最近は澄ました顔か、悲しそうな顔しか見てなかった。ねぇ、ホントにあんなクズと結婚するの?」
「する訳ないでしょ! あんな浮気者と結婚するなんて絶対嫌! ロザリーに熨斗付けて差し上げるわ! そしたらわたくしは捨てられる。面倒な貴族ともおさらばよ!」
そう言った瞬間、サイモンが石像のように固まって動かなくなった。
サイモンが案内してくれた宿は、わたくしの部屋よりも大きく、豪華だった。
「使用人を2人連れて来てます。どちらも隣国の下位貴族ですから、証言する権利があります。だから安心して下さいね。ボクと浮気したなんて言われたら困るでしょ?」
「ありがとう。この子達はサイモンの味方?」
「そうです。嘘を吐かないと有名な姉妹です。信仰心が高いから、ボクが命令しても嘘は吐きません」
「「よろしくお願いします」」
名前は、リリとミミだそうだ。本名は違うのだが、サイモンに仕える時はそう名乗っているらしい。普段は隣国に居るが、定期的にサイモンの元で仕事を覚えているそうだ。遊学として出国と入国の許可が下りている。遊ばせてるし、学ばせてるから嘘じゃないとサイモンは言い切っていたわ。今回は遊学した時に友人のわたくしと過ごしたという事にするらしい。
だから、友人になって下さいと頼まれた。
もちろん了承したわ。
サイモンはいつも抜かりがない。わたくしがここに居る事は秘密だけど、万が一露見しても問題ないように整えてくれた。
「彼女達は借金のカタに変態貴族に売られる予定だったんですけど、計算が早く賢い上に嘘を吐かないなんて素晴らしい人材でしょう? 借金を全て肩代わりして、うちで雇い入れたんです。ちなみに、変態貴族様は破産しました」
サイモンがニヤリと笑う。破産したんじゃない。破産させたのね。
「やったわね?」
「ああ、見るに耐えなかったからね。価値のないモノを大量に売りつけたら勝手に破産したよ。お貴族様なら審美眼くらい持ってろよな。オリヴィアなら、すぐ気が付くのにさ」
「わたくしは王妃教育で叩き込まれたもの。それに、サイモンが教えてくれたじゃない。嫌でも分かるようになるわ」
サイモンがようやく仮面を外し、わたくしに向き合ってくれる。わたくしとサイモンとウィルは幼馴染だ。3人だけの時は、敬語なんて使わない。
サイモンとの出会いは5歳くらいだった。その後ウィルとも出会い、わたくし達3人は親しくなった。
「あれ、楽しかったよね。オリヴィアは審美眼が凄かったけど、ウィルはからきし駄目でさ。ボクが審美眼だけはウィルに勝てるって調子に乗ったら、大げんかになっちゃって……」
「そうそう、わたくしが泣いて止めたのよね」
「懐かしいね。この子達は護衛も兼ねてるし口も硬いから安心して過ごして。そのうちウィルも来ると思うし、久しぶりに一緒にご飯でも食べようよ。オリヴィアの好物を用意するから」
「ありがとう! 嬉しい! ねぇ、お花のクッキーを作ったのってマリー?」
「そうだよ。ウィルが連れて来たんだけど、やっぱりオリヴィアも知ってたんだ」
「ええ、懐かしいわ! マリーは元気?」
「元気だよ。うちのトップパティシエの1人さ。相変わらずウィルの連れて来る人はおかしいよね。来た時はお菓子なんて作れなかったのに、1ヵ月で店を任せられるようになった」
「マリーは、貧民街で一番器用だったの。それにね、味覚が優れてたわ。あのクッキー、味の調整が難しいものね。ウィルの紹介だって言うから、絶対マリーだと思ってたの! 会いたいわ!」
「明日はゆっくりできるらしいし、連れて来るよ。貧民街って食べるのがやっとなのに、なんでマリーはあんなに味覚が鋭いんだろうね」
「それは偏見よ。食品も新鮮な物がなかなか手に入らないし、野草も使うから鮮度や毒の有無を舌で見分けるの。味覚が優れている人も多いのよ」
「そうか、ボクが浅慮だったよ。散々ウィルから貴重な人材を紹介して貰ったのに、また勝手に人を区別してた。ごめん。ウィルには黙ってて。今後は絶対こんな事言わないから」
「言わないわよ。それに、聞いたとしてもウィルは怒らないわ。ウィルはサイモンを信頼してる。感謝してるっていつも言ってるもの」
貧民街の人は、税金を払えていない人がほとんどだ。身分は平民だが納税していないからと騎士の見廻り対象からも外されており、治安も悪い。市民も貧民街の人達を蔑んでいるから、なかなか仕事を斡旋して貰えない。だからますますお金がない。けど、ウィルとサイモンが仲良くなってからは少しずつ貧民街の人達の暮らしも良くなっている。
サイモンは、貧民街の方をたくさん雇ってくれた。
「感謝するのはこちらさ。ウィルのおかげで、うちの商会は大きくなった。元はと言えばウィルと出会わせてくれたオリヴィアのおかげだね。だから、ボクは2人の為に出来る事はなんでもするよ。オリヴィアに助けて貰わなければ、うちは一家離散してたし、父さんは死んでたんだから」
「そんな事ないわ。ウォーターハウス商会の品はどれも品質が良かったし、いずれ持ち直したと思うわよ」
「いや、保たなかったよ。本当にオリヴィアには感謝してる」
「もう充分恩返ししてもらったわ。だからこんなに豪華な部屋を用意しなくても良いのよ?」
「せっかく久しぶりに3人で話せるんだから、邪魔者には来て欲しくないでしょう? 3つの宿を貸し切ってて、ここは真ん中のランクだから万が一王太子が探しに来ても最初にここに来る事はない。情報が入る前に、移動出来るよ」
え……豪華な宿をあと2つも貸し切ってるの?!
「な……何やってるのよ! 大体、アイザックがわたくしを探すなんてあり得ないわ!」
「あはは、久しぶりだね。そんな顔するの。最近は澄ました顔か、悲しそうな顔しか見てなかった。ねぇ、ホントにあんなクズと結婚するの?」
「する訳ないでしょ! あんな浮気者と結婚するなんて絶対嫌! ロザリーに熨斗付けて差し上げるわ! そしたらわたくしは捨てられる。面倒な貴族ともおさらばよ!」
そう言った瞬間、サイモンが石像のように固まって動かなくなった。
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