悪役令嬢とヒロインは手を組みました

編端みどり

文字の大きさ
上 下
13 / 47

十三話

しおりを挟む
「さ、着きましたよ。オリヴィア様」

サイモンが案内してくれた宿は、わたくしの部屋よりも大きく、豪華だった。

「使用人を2人連れて来てます。どちらも隣国の下位貴族ですから、証言する権利があります。だから安心して下さいね。ボクと浮気したなんて言われたら困るでしょ?」

「ありがとう。この子達はサイモンの味方?」

「そうです。嘘を吐かないと有名な姉妹です。信仰心が高いから、ボクが命令しても嘘は吐きません」

「「よろしくお願いします」」

名前は、リリとミミだそうだ。本名は違うのだが、サイモンに仕える時はそう名乗っているらしい。普段は隣国に居るが、定期的にサイモンの元で仕事を覚えているそうだ。遊学として出国と入国の許可が下りている。遊ばせてるし、学ばせてるから嘘じゃないとサイモンは言い切っていたわ。今回は遊学した時に友人のわたくしと過ごしたという事にするらしい。

だから、友人になって下さいと頼まれた。

もちろん了承したわ。

サイモンはいつも抜かりがない。わたくしがここに居る事は秘密だけど、万が一露見しても問題ないように整えてくれた。

「彼女達は借金のカタに変態貴族に売られる予定だったんですけど、計算が早く賢い上に嘘を吐かないなんて素晴らしい人材でしょう? 借金を全て肩代わりして、うちで雇い入れたんです。ちなみに、変態貴族様は破産しました」

サイモンがニヤリと笑う。破産したんじゃない。破産させたのね。

「やったわね?」

「ああ、見るに耐えなかったからね。価値のないモノを大量に売りつけたら勝手に破産したよ。お貴族様なら審美眼くらい持ってろよな。オリヴィアなら、すぐ気が付くのにさ」

「わたくしは王妃教育で叩き込まれたもの。それに、サイモンが教えてくれたじゃない。嫌でも分かるようになるわ」

サイモンがようやく仮面を外し、わたくしに向き合ってくれる。わたくしとサイモンとウィルは幼馴染だ。3人だけの時は、敬語なんて使わない。

サイモンとの出会いは5歳くらいだった。その後ウィルとも出会い、わたくし達3人は親しくなった。

「あれ、楽しかったよね。オリヴィアは審美眼が凄かったけど、ウィルはからきし駄目でさ。ボクが審美眼だけはウィルに勝てるって調子に乗ったら、大げんかになっちゃって……」

「そうそう、わたくしが泣いて止めたのよね」

「懐かしいね。この子達は護衛も兼ねてるし口も硬いから安心して過ごして。そのうちウィルも来ると思うし、久しぶりに一緒にご飯でも食べようよ。オリヴィアの好物を用意するから」

「ありがとう! 嬉しい! ねぇ、お花のクッキーを作ったのってマリー?」

「そうだよ。ウィルが連れて来たんだけど、やっぱりオリヴィアも知ってたんだ」

「ええ、懐かしいわ! マリーは元気?」

「元気だよ。うちのトップパティシエの1人さ。相変わらずウィルの連れて来る人はおかしいよね。来た時はお菓子なんて作れなかったのに、1ヵ月で店を任せられるようになった」

「マリーは、貧民街で一番器用だったの。それにね、味覚が優れてたわ。あのクッキー、味の調整が難しいものね。ウィルの紹介だって言うから、絶対マリーだと思ってたの! 会いたいわ!」

「明日はゆっくりできるらしいし、連れて来るよ。貧民街って食べるのがやっとなのに、なんでマリーはあんなに味覚が鋭いんだろうね」

「それは偏見よ。食品も新鮮な物がなかなか手に入らないし、野草も使うから鮮度や毒の有無を舌で見分けるの。味覚が優れている人も多いのよ」

「そうか、ボクが浅慮だったよ。散々ウィルから貴重な人材を紹介して貰ったのに、また勝手に人を区別してた。ごめん。ウィルには黙ってて。今後は絶対こんな事言わないから」

「言わないわよ。それに、聞いたとしてもウィルは怒らないわ。ウィルはサイモンを信頼してる。感謝してるっていつも言ってるもの」

貧民街の人は、税金を払えていない人がほとんどだ。身分は平民だが納税していないからと騎士の見廻り対象からも外されており、治安も悪い。市民も貧民街の人達を蔑んでいるから、なかなか仕事を斡旋して貰えない。だからますますお金がない。けど、ウィルとサイモンが仲良くなってからは少しずつ貧民街の人達の暮らしも良くなっている。

サイモンは、貧民街の方をたくさん雇ってくれた。

「感謝するのはこちらさ。ウィルのおかげで、うちの商会は大きくなった。元はと言えばウィルと出会わせてくれたオリヴィアのおかげだね。だから、ボクは2人の為に出来る事はなんでもするよ。オリヴィアに助けて貰わなければ、うちは一家離散してたし、父さんは死んでたんだから」

「そんな事ないわ。ウォーターハウス商会の品はどれも品質が良かったし、いずれ持ち直したと思うわよ」

「いや、保たなかったよ。本当にオリヴィアには感謝してる」

「もう充分恩返ししてもらったわ。だからこんなに豪華な部屋を用意しなくても良いのよ?」

「せっかく久しぶりに3人で話せるんだから、邪魔者には来て欲しくないでしょう? 3つの宿を貸し切ってて、ここは真ん中のランクだから万が一王太子が探しに来ても最初にここに来る事はない。情報が入る前に、移動出来るよ」

え……豪華な宿をあと2つも貸し切ってるの?!

「な……何やってるのよ! 大体、アイザックがわたくしを探すなんてあり得ないわ!」

「あはは、久しぶりだね。そんな顔するの。最近は澄ました顔か、悲しそうな顔しか見てなかった。ねぇ、ホントにあんなクズと結婚するの?」

「する訳ないでしょ! あんな浮気者と結婚するなんて絶対嫌! ロザリーに熨斗付けて差し上げるわ! そしたらわたくしは捨てられる。面倒な貴族ともおさらばよ!」

そう言った瞬間、サイモンが石像のように固まって動かなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...