12 / 47
十二話
しおりを挟む
ウィルがくれたパン粥を食べると、少し元気が出てきた。みんなにお礼を言って、寮に戻ろうとするとサイモンから止められたわ。
「オリヴィア様、本日は寮にお戻りにならない事をお勧めします。宿を用意しましたから、そちらでお休み下さい」
「どうして?」
「お疲れなのにあんなのと会ったら益々疲れてしまいます」
サイモンが言ってるのは、わたくしの侍女の事だろう。確かに今は顔を見たくないわね。
「ずっと帰ってこなかった癖になんで今頃……」
ウィルがイライラと声を荒げている。
「城に泊まってる事にしよう。元々そのつもりだったし。アリバイ工作は僕に任せて。オリヴィアはサイモンの用意した宿でゆっくりすると良いよ。仕事は僕が全部やっちゃったから、来週までオリヴィアの仕事はないよ。あと、ウィルも明日は来なくて良い。次の休みから働いて。父上と相談して、受け入れ体制を整えてから来て貰うから。ちゃんと寝るんだよ」
「承知しました。お気遣い、感謝します」
「体調を整えるのも仕事だから。無理だと思ったら休む。これは絶対守って」
「はい」
「オリヴィアも倒れるまで無理しないでよね」
エドワードの気遣いが嬉しい。けど、倒れたのは疲労じゃないのよね。
「オリヴィアが倒れたのは疲労ではない」
マーティンが、気まずそうに呟く。エドワードはわたくしが倒れた原因を知らない。なんとなくは察してるみたいだけど、アイザックとロザリーが抱き合ってたなんて知ったらきっと怒る。
「は?!」
マーティンがわたくしが倒れた時の状況を話すとエドワードはニコニコ笑って手に持っていた書類を握り潰した。
まずい、エドワードが怒るとひっじょーにまずい。
「へぇ……。せいぜい親しく話してる程度かと思ったら……抱き合って愛を囁くなんて……そんな馬鹿な事したんだ……。婚約者のオリヴィアには的外れなプレゼントしかしない癖に……。先生には悪いけど、あんなヤツ猶予期間無しで引き摺り下ろそうか」
「賛成です」
「なんでもご協力しますよ。資金援助はお任せ下さい」
「ま、待ってくれ! 理事長先生ならきっとアイザック様の目を覚まさせてくれる!」
マーティン、頑張って!
貴方だけが良心よ!
「けど、マーティンだって許せないでしょ?」
「……それは、その通りだが……」
マーティン! あっさり丸め込まれないで!
「まぁ、オリヴィア様がお困りのようですからこれくらいにしておきましょう。あとは理事長先生の教えを受けても駄目なら遠慮なく……」
「はいストップ。とりあえず今日はこれくらいにしておこうぜ。それよりどうやってオリヴィア様を運ぶんだ? 目立つと困るぜ。サイモンの事だから宿は貸し切ってあるんだろうけど、王太子殿下の婚約者様が街の宿に泊まるなんてバレたら何言われるかわかんねぇぞ」
「考えてある。ウィル、がんばろうか」
サイモンが笑顔でウィルの肩に手を置く。ウィルの笑顔が引き攣った。
「おい、まさかと思うけどオレをオリヴィア様の身代わりにする気じゃねぇだろうな」
「正解! 城に入った記録は要るからね。城で働こうとしたらまた倒れた事にして貰おっか。大丈夫、オリヴィア様付きの使用人は買収してあるから、倒れてたって証言してくれるよ。どうせあの女はオリヴィア様が城に行ったって報告すればすぐにどこかへ行く。寮が空っぽだと確認が取れたら、ウィルがオリヴィア様のフリをして寮に戻った事にすればいい。万が一鉢合わせても、ウィルならなんとか誤魔化せるよね? ホラ、簡単でしょう?」
「買収って……いつの間に……?!」
マーティンと、エドワードがギョッとした顔でサイモンを見る。サイモンは大商人だが、平民だ。城の使用人を買収したと簡単に言い切ったが、それがどれだけ異常な事かは2人なら分かってる。
わたくしは知っていた。けど、今までは決して誰にも明かさなかったのに、どうして急に……。わたくしが動揺している事にサイモン達は気が付いたけど、ウィルの目が黙ってろと言ってる。
サイモンは、商売人の顔をしてエドワードに向き合っている。
「こんな国で商売するんですから、いくらでも保険は必要でしょう? ボクらを邪魔だと思う貴族様も多いのですから」
「なんでウォーターハウス商会が生き残っているのか、事業を拡大し続けられるのか、今ようやく分かったよ」
「おや、今更ですか? エドワード様ならとっくにご存知かと思っておりましたよ」
「知るわけないでしょ?! 頼むから明日すぐ出て行くなんて言わないでよ!」
「言いませんよ。ま、今後次第ですけどね。ボクがオリヴィア様の使用人を買収した事は内密でお願いしますね」
「……分かった。どうせ僕らが大人達に報告した瞬間にサイモンの耳に入るだろうしね。そしたら終わりだ。マーティン、絶対誰にも言わないでよ」
「あ、ああ……分かった。だが教えてくれ。サイモンはどうしてオリヴィアの使用人を買収したんだ? 何故そんなにオリヴィアに肩入れする。オリヴィアとサイモンは、どんな関係なんだ」
「ボクが我が家を救ってくれたオリヴィア様を慕っているだけです。オリヴィア様の為ならなんでもしますよ。男女の仲ではありませんからご安心下さい。皆様もご存知の通り、オリヴィア様はアイザック様一筋ですから」
わたくしの初恋は、今朝終わりを迎えたけどね。
「多くを語る気はないか」
「ええ、今のところはありません」
「仕方ないね。今のところってだけでも良しとするか。馬車を呼んであるし城に行くよ。ウィルが変装するんだよね? 体格はいけると思うけど、顔とか誤魔化せる?」
「大丈夫ですよ。なぁウィル」
「はい。サイモン、後で覚えてろよ」
2人のやり取りに思わずクスッと笑ってしまった。昔と変わらなくて安心する。
みんなに助けられて、わたくしはサイモンの用意した宿に泊まる事になった。
「オリヴィア様、本日は寮にお戻りにならない事をお勧めします。宿を用意しましたから、そちらでお休み下さい」
「どうして?」
「お疲れなのにあんなのと会ったら益々疲れてしまいます」
サイモンが言ってるのは、わたくしの侍女の事だろう。確かに今は顔を見たくないわね。
「ずっと帰ってこなかった癖になんで今頃……」
ウィルがイライラと声を荒げている。
「城に泊まってる事にしよう。元々そのつもりだったし。アリバイ工作は僕に任せて。オリヴィアはサイモンの用意した宿でゆっくりすると良いよ。仕事は僕が全部やっちゃったから、来週までオリヴィアの仕事はないよ。あと、ウィルも明日は来なくて良い。次の休みから働いて。父上と相談して、受け入れ体制を整えてから来て貰うから。ちゃんと寝るんだよ」
「承知しました。お気遣い、感謝します」
「体調を整えるのも仕事だから。無理だと思ったら休む。これは絶対守って」
「はい」
「オリヴィアも倒れるまで無理しないでよね」
エドワードの気遣いが嬉しい。けど、倒れたのは疲労じゃないのよね。
「オリヴィアが倒れたのは疲労ではない」
マーティンが、気まずそうに呟く。エドワードはわたくしが倒れた原因を知らない。なんとなくは察してるみたいだけど、アイザックとロザリーが抱き合ってたなんて知ったらきっと怒る。
「は?!」
マーティンがわたくしが倒れた時の状況を話すとエドワードはニコニコ笑って手に持っていた書類を握り潰した。
まずい、エドワードが怒るとひっじょーにまずい。
「へぇ……。せいぜい親しく話してる程度かと思ったら……抱き合って愛を囁くなんて……そんな馬鹿な事したんだ……。婚約者のオリヴィアには的外れなプレゼントしかしない癖に……。先生には悪いけど、あんなヤツ猶予期間無しで引き摺り下ろそうか」
「賛成です」
「なんでもご協力しますよ。資金援助はお任せ下さい」
「ま、待ってくれ! 理事長先生ならきっとアイザック様の目を覚まさせてくれる!」
マーティン、頑張って!
貴方だけが良心よ!
「けど、マーティンだって許せないでしょ?」
「……それは、その通りだが……」
マーティン! あっさり丸め込まれないで!
「まぁ、オリヴィア様がお困りのようですからこれくらいにしておきましょう。あとは理事長先生の教えを受けても駄目なら遠慮なく……」
「はいストップ。とりあえず今日はこれくらいにしておこうぜ。それよりどうやってオリヴィア様を運ぶんだ? 目立つと困るぜ。サイモンの事だから宿は貸し切ってあるんだろうけど、王太子殿下の婚約者様が街の宿に泊まるなんてバレたら何言われるかわかんねぇぞ」
「考えてある。ウィル、がんばろうか」
サイモンが笑顔でウィルの肩に手を置く。ウィルの笑顔が引き攣った。
「おい、まさかと思うけどオレをオリヴィア様の身代わりにする気じゃねぇだろうな」
「正解! 城に入った記録は要るからね。城で働こうとしたらまた倒れた事にして貰おっか。大丈夫、オリヴィア様付きの使用人は買収してあるから、倒れてたって証言してくれるよ。どうせあの女はオリヴィア様が城に行ったって報告すればすぐにどこかへ行く。寮が空っぽだと確認が取れたら、ウィルがオリヴィア様のフリをして寮に戻った事にすればいい。万が一鉢合わせても、ウィルならなんとか誤魔化せるよね? ホラ、簡単でしょう?」
「買収って……いつの間に……?!」
マーティンと、エドワードがギョッとした顔でサイモンを見る。サイモンは大商人だが、平民だ。城の使用人を買収したと簡単に言い切ったが、それがどれだけ異常な事かは2人なら分かってる。
わたくしは知っていた。けど、今までは決して誰にも明かさなかったのに、どうして急に……。わたくしが動揺している事にサイモン達は気が付いたけど、ウィルの目が黙ってろと言ってる。
サイモンは、商売人の顔をしてエドワードに向き合っている。
「こんな国で商売するんですから、いくらでも保険は必要でしょう? ボクらを邪魔だと思う貴族様も多いのですから」
「なんでウォーターハウス商会が生き残っているのか、事業を拡大し続けられるのか、今ようやく分かったよ」
「おや、今更ですか? エドワード様ならとっくにご存知かと思っておりましたよ」
「知るわけないでしょ?! 頼むから明日すぐ出て行くなんて言わないでよ!」
「言いませんよ。ま、今後次第ですけどね。ボクがオリヴィア様の使用人を買収した事は内密でお願いしますね」
「……分かった。どうせ僕らが大人達に報告した瞬間にサイモンの耳に入るだろうしね。そしたら終わりだ。マーティン、絶対誰にも言わないでよ」
「あ、ああ……分かった。だが教えてくれ。サイモンはどうしてオリヴィアの使用人を買収したんだ? 何故そんなにオリヴィアに肩入れする。オリヴィアとサイモンは、どんな関係なんだ」
「ボクが我が家を救ってくれたオリヴィア様を慕っているだけです。オリヴィア様の為ならなんでもしますよ。男女の仲ではありませんからご安心下さい。皆様もご存知の通り、オリヴィア様はアイザック様一筋ですから」
わたくしの初恋は、今朝終わりを迎えたけどね。
「多くを語る気はないか」
「ええ、今のところはありません」
「仕方ないね。今のところってだけでも良しとするか。馬車を呼んであるし城に行くよ。ウィルが変装するんだよね? 体格はいけると思うけど、顔とか誤魔化せる?」
「大丈夫ですよ。なぁウィル」
「はい。サイモン、後で覚えてろよ」
2人のやり取りに思わずクスッと笑ってしまった。昔と変わらなくて安心する。
みんなに助けられて、わたくしはサイモンの用意した宿に泊まる事になった。
1
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる