悪役令嬢とヒロインは手を組みました

編端みどり

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十二話

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ウィルがくれたパン粥を食べると、少し元気が出てきた。みんなにお礼を言って、寮に戻ろうとするとサイモンから止められたわ。

「オリヴィア様、本日は寮にお戻りにならない事をお勧めします。宿を用意しましたから、そちらでお休み下さい」

「どうして?」

「お疲れなのにあんなのと会ったら益々疲れてしまいます」

サイモンが言ってるのは、わたくしの侍女の事だろう。確かに今は顔を見たくないわね。

「ずっと帰ってこなかった癖になんで今頃……」

ウィルがイライラと声を荒げている。

「城に泊まってる事にしよう。元々そのつもりだったし。アリバイ工作は僕に任せて。オリヴィアはサイモンの用意した宿でゆっくりすると良いよ。仕事は僕が全部やっちゃったから、来週までオリヴィアの仕事はないよ。あと、ウィルも明日は来なくて良い。次の休みから働いて。父上と相談して、受け入れ体制を整えてから来て貰うから。ちゃんと寝るんだよ」

「承知しました。お気遣い、感謝します」

「体調を整えるのも仕事だから。無理だと思ったら休む。これは絶対守って」

「はい」

「オリヴィアも倒れるまで無理しないでよね」

エドワードの気遣いが嬉しい。けど、倒れたのは疲労じゃないのよね。

「オリヴィアが倒れたのは疲労ではない」

マーティンが、気まずそうに呟く。エドワードはわたくしが倒れた原因を知らない。なんとなくは察してるみたいだけど、アイザックとロザリーが抱き合ってたなんて知ったらきっと怒る。

「は?!」

マーティンがわたくしが倒れた時の状況を話すとエドワードはニコニコ笑って手に持っていた書類を握り潰した。

まずい、エドワードが怒るとひっじょーにまずい。

「へぇ……。せいぜい親しく話してる程度かと思ったら……抱き合って愛を囁くなんて……そんな馬鹿な事したんだ……。婚約者のオリヴィアには的外れなプレゼントしかしない癖に……。先生には悪いけど、あんなヤツ猶予期間無しで引き摺り下ろそうか」

「賛成です」

「なんでもご協力しますよ。資金援助はお任せ下さい」

「ま、待ってくれ! 理事長先生ならきっとアイザック様の目を覚まさせてくれる!」

マーティン、頑張って!
貴方だけが良心よ!

「けど、マーティンだって許せないでしょ?」

「……それは、その通りだが……」

マーティン! あっさり丸め込まれないで!

「まぁ、オリヴィア様がお困りのようですからこれくらいにしておきましょう。あとは理事長先生の教えを受けても駄目なら遠慮なく……」

「はいストップ。とりあえず今日はこれくらいにしておこうぜ。それよりどうやってオリヴィア様を運ぶんだ? 目立つと困るぜ。サイモンの事だから宿は貸し切ってあるんだろうけど、王太子殿下の婚約者様が街の宿に泊まるなんてバレたら何言われるかわかんねぇぞ」

「考えてある。ウィル、がんばろうか」

サイモンが笑顔でウィルの肩に手を置く。ウィルの笑顔が引き攣った。

「おい、まさかと思うけどオレをオリヴィア様の身代わりにする気じゃねぇだろうな」

「正解! 城に入った記録は要るからね。城で働こうとしたらまた倒れた事にして貰おっか。大丈夫、オリヴィア様付きの使用人は買収してあるから、倒れてたって証言してくれるよ。どうせあの女はオリヴィア様が城に行ったって報告すればすぐにどこかへ行く。寮が空っぽだと確認が取れたら、ウィルがオリヴィア様のフリをして寮に戻った事にすればいい。万が一鉢合わせても、ウィルならなんとか誤魔化せるよね? ホラ、簡単でしょう?」

「買収って……いつの間に……?!」

マーティンと、エドワードがギョッとした顔でサイモンを見る。サイモンは大商人だが、平民だ。城の使用人を買収したと簡単に言い切ったが、それがどれだけ異常な事かは2人なら分かってる。

わたくしは知っていた。けど、今までは決して誰にも明かさなかったのに、どうして急に……。わたくしが動揺している事にサイモン達は気が付いたけど、ウィルの目が黙ってろと言ってる。

サイモンは、商売人の顔をしてエドワードに向き合っている。

「こんな国で商売するんですから、いくらでも保険は必要でしょう? ボクらを邪魔だと思う貴族様も多いのですから」

「なんでウォーターハウス商会が生き残っているのか、事業を拡大し続けられるのか、今ようやく分かったよ」

「おや、今更ですか? エドワード様ならとっくにご存知かと思っておりましたよ」

「知るわけないでしょ?! 頼むから明日すぐ出て行くなんて言わないでよ!」

「言いませんよ。ま、今後次第ですけどね。ボクがオリヴィア様の使用人を買収した事は内密でお願いしますね」

「……分かった。どうせ僕らが大人達に報告した瞬間にサイモンの耳に入るだろうしね。そしたら終わりだ。マーティン、絶対誰にも言わないでよ」

「あ、ああ……分かった。だが教えてくれ。サイモンはどうしてオリヴィアの使用人を買収したんだ?  何故そんなにオリヴィアに肩入れする。オリヴィアとサイモンは、どんな関係なんだ」

「ボクが我が家を救ってくれたオリヴィア様を慕っているだけです。オリヴィア様の為ならなんでもしますよ。男女の仲ではありませんからご安心下さい。皆様もご存知の通り、オリヴィア様はアイザック様一筋ですから」

わたくしの初恋は、今朝終わりを迎えたけどね。

「多くを語る気はないか」

「ええ、今のところはありません」

「仕方ないね。今のところってだけでも良しとするか。馬車を呼んであるし城に行くよ。ウィルが変装するんだよね? 体格はいけると思うけど、顔とか誤魔化せる?」

「大丈夫ですよ。なぁウィル」

「はい。サイモン、後で覚えてろよ」

2人のやり取りに思わずクスッと笑ってしまった。昔と変わらなくて安心する。

みんなに助けられて、わたくしはサイモンの用意した宿に泊まる事になった。
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