悪役令嬢とヒロインは手を組みました

編端みどり

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四話

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「良かった……やっと起きた……。オリヴィア、オレが分かるか?」

聞き覚えのある声、見覚えのある顔。

「ウィル……?」

「そうだ。今は誰も居ねえから安心してくれ。どっか痛いところはないか?」

「ないわ。ねぇ、ここってわたくしの部屋よね?」

「ああ、そうだ。オリヴィアは2日も起きなかったんだ。すげぇ心配した……良かった……本当に良かった……」

「もしかして、ずっとウィルが付いててくれたの?」

「昼間は授業に出てた。けど、夜は心配で寮を抜け出して見に行ってたんだ。あの女、オリヴィアを看病するどころかほったらかして不倫してやがる。部屋は空っぽだった。おかげで、侵入は楽だったけどよ」

ウィルは平民、わたくしは侯爵家以上の令嬢が入る特別寮。現在は侯爵家以上の令嬢はわたくしだけだ。他の令嬢は居ないので、侍女にさえ見つからなければ侵入は簡単だ。護衛は居るけど、ウィルなら見つかるようなヘマはしない。

「ああ、わたくしの世話の必要がないからお父様といちゃついてるのね」

学園に連れて行ける使用人は1人だけ。わたくしはお父様の指示で侍女を連れて行っている。彼女はお父様の愛人だ。わたくしの事を報告するという名目でしょっちゅうお父様と関係を持っている。

世話も適当だから、わたくしは自分の事は自分で出来るようになった。本当は侍女は不要だ。だけど、世間体もあるので侍女が付いている。不真面目で、しょっちゅう居なくなるし、わたくしの予算で勝手に自分の物を買うような侍女だから、クビにしたいけどお父様が許さない。

「元々仕事なんてしてねぇだろ。なぁ、あの侍女いい加減クビに出来ねぇのか? オリヴィアが倒れてんのに放置ってマジでクズだろ」

「無理ね。お父様のお気に入りだもの」

「チッ……!」

「ウィル、綺麗なお顔が台無しよ」

「顔なんてどうでもいい。あの女、深夜は絶対帰ってこねぇから大丈夫だよな。なんか食うか? 腹、減ってるだろ? ああそうだ、オリヴィアの好きな果実水を用意してあるぞ。ゆっくり飲んでくれ」

「ありがと」

甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。ウィルは絶対わたくしを裏切らない。ゲームでもそうだったわ。だけど、優秀な彼を巻き込む訳にはいかない。攻略対象者達は問題ないけど、ウィルはわたくしと一緒に処刑されたり追放されたりしてしまう。

辛いけど、彼とはもう関わらない方が良い。

「ウィル……。ありがとう。でも、これからはわたくしに近寄らない方が良いわ」

「……は? 今、なんて言った?」

低く、恐ろしい声。他の人なら怯えてしまうだろう。だけど、わたくしは怖くない。

「わたくしと関われば貴方まで酷い目に遭う。ウィルは特待生で平民トップの成績なんだから、卒業すればたくさん稼げる。貴方には守りたい人が大勢いるでしょう? 今まで本当に感謝してる。だけど、わたくしと……ロザリーにはもう近寄らない方が良いわ」

「クビって事か?」

「なんでそうなるの!」

「オレはオリヴィアが薦めるからここに入ったんだ。オリヴィアは、オレに働いて欲しいって言っただろ?! 要らねえのなら、クビって事じゃねぇか!」

「違うわ! わたくしに関わると最悪ウィルが死んじゃうの! ロザリーにも関わらないで。貴方を慕う人達の為にも、勉強に励んで卒業して。わたくしは、大丈夫だから」

「大丈夫なら倒れたりしねえだろ! ロザリーって最近王太子に近づいてる女だよな?! 倒れたのも、アイツのせいだって……! 安心しろ。あんな女、すぐ排除してやる」

「やめて!」

「……は?」

「駄目なの! ヒロインに手を出したら、ウィルは死んじゃう。そんなの嫌!」

この世界は、前世でやった乙女ゲームの世界に酷似している。わたくしは、悪役令嬢。ヒロインを虐め、襲い、殺そうとする。

その時、実動部隊として働くのはウィルが元締めをしている貧民街の方々だ。

全員、捕まって処刑されたり、殺されたりしてしまう。

そんなの、絶対に駄目。あんなに優しい人達が、わたくしのせいで死ぬなんて嫌。

「落ち着いて説明しろ。ヒロインってなんだ? オレが死ぬってどういう事だ。どんなに荒唐無稽な話でもオレはオリヴィアを信じる。だから、抱えてるモンを全部教えてくれ」

深い緑の瞳に見つめられると、とても安心する。気がつけばわたくしは、全てを話してしまっていた。
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