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三話
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「ロザリー、愛してる」
どうして……。わたくしはこんなに頑張っているのに。
目の前の光景が信じられない。
学園に入学して、婚約者であるアイザックとは少しずつ距離が出来ていたのは分かっていた。
だけど、今わたくしが出来るのは彼を支える事だと思って必死で仕事をしていたわ。
学園にも通えなくて、久しぶりに登校したら……わたくしの愛する人は知らない女性と抱き合っていた。
「親が親なら子も子ですよ。オリヴィア様が望むなら今すぐあの女を排除します。ああでも、オリヴィア様はお優しいから、そんな事出来ませんかね。愛し合う2人の為に身を引きますか? うちの商会は、他国にもたくさん店がありますから国を出ても暮らしていけます。ご安心下さい。あんなのが次の王だなんてこの国に未来はありませんよ。我々は撤退を検討しております。それがどんな影響をもたらすのか、オリヴィア様ならお分かりになりますよね?」
サイモンが、冷たく言い放つ。だけどその目は、わたくしを気遣ってくれている。
そうだ……こんな人……要らない……。
違う……わたくしは……アイザックが好きで……。あの女……あの女が居なければ……。
グルグルと黒い感情が身体中を駆け巡る。
サイモンは、わたくしの言葉を待っている。彼にひとこと、あの子が邪魔だと言えばきっと彼ならなんとかしてくれる。
あの子は、きっと死ぬ。
……でも、それでアイザックの心はわたくしに戻ってくるの?
先生が仰っていた。人の気持ちは、思い通りにはいかないと。だから、ちゃんと相手を思いやれと。
人を傷つければ、倍になって自分に返ってくるとも仰っていた。だからわたくしは、どんなにイライラしても人を傷つけようとはしなかった。先生の授業を受けていなければ、わたくしは意地悪になっていたわ。だって、今までの教師達と先生の教えは全く違っていたのだもの。でも、不思議と先生の教えの方が正しいと思えた。
最初の1週間しか学園には通えていないけど、とても大切な事を教わったと思っている。
だから、あの子を傷つけるのは駄目。でも、この気持ちをどう処理して良いか分からない……。
「オリヴィア! 今……見てたのか……。ああ、そんなに泣いて……。すまない。何度も忠告したのだが……聞いて頂けなくて……」
アイザックの護衛をしているマーティンが、わたくしに気が付いて慰めてくれる。アイザックは、あの女の子に夢中でわたくしの事に気が付いていない。
マーティンとサイモンに支えられて、その場を後にする。これ以上見るのは辛い。
仕事の疲労で倒れた事にして、2人がわたくしを医務室へ運んでくれた。護衛は良いのかと聞いたら、いつも追い出されるから構わないと言っていたわ。1時間くらいで戻れば良いそうだ。
マーティンは、サイモンに詰め寄っている。
「わざとオリヴィアを連れて来ただろう。何故オリヴィアを傷つけるような事をするんだ」
「学園を卒業したらオリヴィア様はすぐにご結婚なさいます。もう時間がないんです。あんな浮気男がオリヴィア様に相応しいと本気で思っておられるのですか?」
「……それは……」
「大体、オリヴィア様やエドワード様は忙しくて学園に来ていないのに、あの人は何をやっておられるのですか? マーティン様は護衛ですよね? 王太子を狙う女も排除して下さいよ。職務怠慢です。ウチなら間違いなくクビですよ」
「……その通りだ。私は、護衛失格だ……」
「大丈夫、気にしないで。仕方ないわ、彼女はヒ……」
その瞬間、頭が割れるように痛くなった。どうして仕方ないと思ったの?
なんで……?
頭の中に、色んな事が流れ込んでくる。
まるで絵画のような世界。
アイザックが居て、サイモンやマーティン、エドワードに先生……。みんなが優しく笑いかけてくれる。だけど、わたくしは醜くて……。
「「「オリヴィア?!」」」
意識を失ったわたくしは、そのまま2日間目覚めなかった。
どうして……。わたくしはこんなに頑張っているのに。
目の前の光景が信じられない。
学園に入学して、婚約者であるアイザックとは少しずつ距離が出来ていたのは分かっていた。
だけど、今わたくしが出来るのは彼を支える事だと思って必死で仕事をしていたわ。
学園にも通えなくて、久しぶりに登校したら……わたくしの愛する人は知らない女性と抱き合っていた。
「親が親なら子も子ですよ。オリヴィア様が望むなら今すぐあの女を排除します。ああでも、オリヴィア様はお優しいから、そんな事出来ませんかね。愛し合う2人の為に身を引きますか? うちの商会は、他国にもたくさん店がありますから国を出ても暮らしていけます。ご安心下さい。あんなのが次の王だなんてこの国に未来はありませんよ。我々は撤退を検討しております。それがどんな影響をもたらすのか、オリヴィア様ならお分かりになりますよね?」
サイモンが、冷たく言い放つ。だけどその目は、わたくしを気遣ってくれている。
そうだ……こんな人……要らない……。
違う……わたくしは……アイザックが好きで……。あの女……あの女が居なければ……。
グルグルと黒い感情が身体中を駆け巡る。
サイモンは、わたくしの言葉を待っている。彼にひとこと、あの子が邪魔だと言えばきっと彼ならなんとかしてくれる。
あの子は、きっと死ぬ。
……でも、それでアイザックの心はわたくしに戻ってくるの?
先生が仰っていた。人の気持ちは、思い通りにはいかないと。だから、ちゃんと相手を思いやれと。
人を傷つければ、倍になって自分に返ってくるとも仰っていた。だからわたくしは、どんなにイライラしても人を傷つけようとはしなかった。先生の授業を受けていなければ、わたくしは意地悪になっていたわ。だって、今までの教師達と先生の教えは全く違っていたのだもの。でも、不思議と先生の教えの方が正しいと思えた。
最初の1週間しか学園には通えていないけど、とても大切な事を教わったと思っている。
だから、あの子を傷つけるのは駄目。でも、この気持ちをどう処理して良いか分からない……。
「オリヴィア! 今……見てたのか……。ああ、そんなに泣いて……。すまない。何度も忠告したのだが……聞いて頂けなくて……」
アイザックの護衛をしているマーティンが、わたくしに気が付いて慰めてくれる。アイザックは、あの女の子に夢中でわたくしの事に気が付いていない。
マーティンとサイモンに支えられて、その場を後にする。これ以上見るのは辛い。
仕事の疲労で倒れた事にして、2人がわたくしを医務室へ運んでくれた。護衛は良いのかと聞いたら、いつも追い出されるから構わないと言っていたわ。1時間くらいで戻れば良いそうだ。
マーティンは、サイモンに詰め寄っている。
「わざとオリヴィアを連れて来ただろう。何故オリヴィアを傷つけるような事をするんだ」
「学園を卒業したらオリヴィア様はすぐにご結婚なさいます。もう時間がないんです。あんな浮気男がオリヴィア様に相応しいと本気で思っておられるのですか?」
「……それは……」
「大体、オリヴィア様やエドワード様は忙しくて学園に来ていないのに、あの人は何をやっておられるのですか? マーティン様は護衛ですよね? 王太子を狙う女も排除して下さいよ。職務怠慢です。ウチなら間違いなくクビですよ」
「……その通りだ。私は、護衛失格だ……」
「大丈夫、気にしないで。仕方ないわ、彼女はヒ……」
その瞬間、頭が割れるように痛くなった。どうして仕方ないと思ったの?
なんで……?
頭の中に、色んな事が流れ込んでくる。
まるで絵画のような世界。
アイザックが居て、サイモンやマーティン、エドワードに先生……。みんなが優しく笑いかけてくれる。だけど、わたくしは醜くて……。
「「「オリヴィア?!」」」
意識を失ったわたくしは、そのまま2日間目覚めなかった。
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