上 下
47 / 63

父の手紙

しおりを挟む
愛するカトリーヌへ

この手紙を読んでいるということは、余程辛いことがあったんだろうと思う。

カトリーヌ、この手紙は読んだらすぐに燃やしなさい。内容も、リュカ以外に言ってはならない。

カトリーヌは、時を戻す魔法が使える。この手紙を破棄したら好きな時に使ってみるといい。使い方は、自然に分かると思う。ただし、使えるのは1回だけだ。魔法を使うなら婚約が成立する前……16歳の誕生日より前に戻りなさい。

クリストフ様は恐らくルイーズに魔法をかけられている。この手紙を渡した時点で私が見る限りの判断ではあるが、彼は正常な状態ではない。

クレマンも、ローランもシリルもおかしい。カトリーヌの話をしても、ほとんど反応を示さなくなってしまった。あんなにカトリーヌを溺愛していたクレマンが、カトリーヌに付ける侍女は1人にしようと思うと伝えたら、多すぎる、誰も付けずに1人で行かせれば良いと冷たく言ったんだ。

その時、私は異常に気が付いた。普段は普通だったから気が付くのが遅れてしまった。カトリーヌの話をする時だけ、精神を蝕む魔法にかかった者特有の反応を示す。ローランもシリルもそうだった。

他の者も明らかにおかしい。何名か普通の者も居るが、とても少ない。

だが、リュカは信用出来るから大丈夫だ。いいか、リュカには特殊魔法を無効化する力もある。クレマン達の異常は、魅了なのか、操られているのか分からないが確実に魔法によるものだ。だが、リュカにはそういった特殊な魔法が効かない。だから安心してリュカを頼れ。

カトリーヌを見送ったら、すぐにルイーズを捕らえて魔法を封じるつもりだ。ルイーズが目の敵にしていたカトリーヌが国を出れば、油断させる事が出来る。魔法を封じれば、おそらくクリストフ様は元に戻る。

だが、この手紙を読んだという事はうまくいかなかったのだろうな。

信用出来る者がほとんどいないせいで、調査が進んでいない。何らかの魔法を使っているのは確実だから、ルイーズの魔法を封じる準備を進めている。だが、魔法を封じる事が出来るのは辺境に住む魔女だけだ。彼女は気まぐれで、なかなか捕まらぬ。クレマンならば可愛がられているのですぐに捕まえて来れるのだが、クレマンには頼めぬ。

カトリーヌがこの手紙を読んだ時期は分からないが、婚姻してもクリストフ様がルイーズに夢中になっている場合、私が出来る事はもうない。

なにせ、我が子達は皆優秀だからな。敵になってしまうと厳しい。

カトリーヌは国外に出ている方が安全だ。もしも王族なんて御免だと思うなら、城から逃げろ。時を戻さずリュカと幸せに生きてくれ。

リュカなら、間違いなくカトリーヌを守ってくれる。リュカはカトリーヌと結婚させろと直談判してくるくらいカトリーヌが好きみたいだぞ。カトリーヌも昔からリュカが好きだっただろう?

王族だから誰と結婚するか分からないからと恋心を封印していたようだが、リュカと居る時のカトリーヌはとても幸せそうだった。

私は、お互いが望むならリュカとカトリーヌを婚約させようと思っていた。リュカが実績を上げるのを待とうと思っていたら、クリストフ様との婚約が決まってしまったんだ。断れず、本当にすまないと思っている。

それでも、決まってしまったし、カトリーヌも前向きだったから良いかと思っていた。

クリストフ様は優しい方だったからな。

だが、あの事件で彼は少し変わってしまった。

事件の事はリュカに伝えてあるから、時を戻るならその前にリュカに聞いておいてくれ。

いいか、絶対に16歳の誕生日前に戻れ。婚約が決まると覆すのは難しい。もし、クリストフ様の事が好きなら婚約が成立した直後という手もあるが……そこはカトリーヌの好きにしなさい。

過去に戻ったら、知っている事を全て私に教えてくれ。

そして、時を戻ったら好きな人と結婚すると良い。

リュカなのか、クリストフ様なのか、それとも私も知らない誰かなのか……。私はカトリーヌの決めた事を全力で叶えると約束する。合言葉を伝えてくれれば、私の本気が伝わるだろう。過去の私に、合言葉はカラベッタと伝えてくれ。

こんな形でしかカトリーヌを守れなくてすまない。

カトリーヌ、愛している。どうか、幸せな未来を掴み取ってくれ。

父より
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

処理中です...