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32.計画【リュカ視点】

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「他国の王太子に魅了魔法をかけるのは反逆罪だ。だから魅了魔法持ちは必ず国王である私が把握する事になっておる。調査結果によるが、最低でも幽閉、国を害する証拠が出れば処刑する。ルイーズの鑑定をした者と記憶を消した者の取り調べを進めておるが、今後は鑑定のみを行い記憶を消す魔法を持つ者は派遣しない。信用出来る者を洗い出している最中だが、赤ん坊の時に鑑定する事はもうないだろうな。ローランにも鑑定をして貰う事が増えるから覚悟しておいてくれ」

「分かりました。リュカと姉さんが外交をしてくれるなら、僕は国内に目を光らせます」

「拘束しようとすれば逃げられるから、ルイーズの処罰を取り消す手続きをすると言って呼び出せ。そのまま貴族用の牢に1人ずつ入れる。屋敷も調査する。リュカも調査に参加しろ。転移を使われたら困る」

国王陛下は、物凄く怒っておられる。俺にカティの護衛を頼んだ時と同じお顔だ。やはり未来でも国王陛下はカティを大事にしておられたんだ。全員魅了にかかってしまい、おおっぴらに対策が取れなかっただけなのだ。ルイーズ様を調査して、捕らえると国王陛下の手紙には書いてあった。王太子殿下は騎士に人気がある。きっと、強く魅了されてしまった者が情報を漏らしたんだ。

俺はカティとクリストフ様が一緒に居る姿を見たくないからと、遠方の任務ばかり希望していたから騎士団がおかしいと気が付かなかった。気が付いていたら、絶対進言していたし、そもそも俺が触れれば魅了が解けるなら……そうだ! 俺と手合わせをする父上も、仕事を教わった侍女長も、俺と仲の良い騎士達も、みんなカティの事を心配していた! 共通点は、俺が触れた人物だ。だから、俺の周りはみんな普通だったんだ。

やはり、俺が触れた者は魅了が解除されるのだろう。そういえば……カティが17歳の誕生日を迎えた後、一度だけたまたま庭で会ったな。

どこか寂しそうで、思わずカティと愛称で呼びかけてしまった。婚約者のいる身で男に愛称を呼ばれるなどカティの醜聞になるから、すぐに離れたけど……誰も居ないのを良い事に、俺はカティの耳に付いた葉っぱを取った。もしかして、その時にカティにかかった魅了が解けたのではないか?!

やっぱりカティはクリストフ様が好きだったんだろう。

想像するだけで、嫉妬する。平静を保てなくなりそうだ。

いかん、考えるな。ローラン様も仰っていた。カティの婚約者は俺だ。これくらいで感情を表に出してはカティに相応しくないと言われてしまう。

「……かしこまりました」

一瞬で色々な事を考えてしまい、返事が遅れてしまった。俺は騎士だ。主人への返事が遅れるなどあってはならん。しっかりしろ。

「父上、クリストフ様の魅了魔法はどうしますか?」

「……教えなければ、それで終わりだが……」

本当に、それで良いのか?

今後どこかでクリストフ様が自分の魔法を知る機会があるかもしれない。もし、俺の知らないうちにカティに魅了魔法を使われたらどうなる? 妻になったカティが、クリストフ様に惚れる……そんな事になったら俺はきっと……。

いつも大事にしている剣を握りしめた。俺が死ぬ前の数時間が鮮やかに思い出される。あんな残忍な姿がクリストフ様の本性だとしたら、クリストフ様と結婚したらカティはどうなる? 

落ち着け、俺はもうカティの婚約者だ。決めた筈だ、どんなに大変でも、どんなに辛くても、カティの夫という地位が手に入るならなんだってやってやると。

考えろ。もし、カティに魅了魔法をかけられたらどうなるか。今のところ俺の魔法無効化があるから対処は可能だ。だけど、いつまで魔法が使えるか分からない。記録によると、突然特殊魔法が使えなくなった者も存在するらしいからな。事故や怪我がきっかけで魔法が使えなくなった者が居るらしい。

俺は騎士だ。これからもきっと怪我をするし、いつまでもこの魔法が使えるとは思えない。

騎士を辞めて大人しくするか?
いや、それは駄目だ。魅了魔法からは守れても、他の脅威からカティを守れない。腕を磨くには騎士でいる方が好都合だ。

それなら俺の魔法が確実に使える今、対処する方が良いのではないか? 魅了魔法は、好きな相手が居ると効きにくいと過去で習った。クリストフ様にそれを伝えて、挑発したらカティに魔法を使うのではないか?

魅了魔法の使い手は管理されていると聞いていたから、ルイーズ様が魅了魔法を使うとは思わなかったのが俺の失敗だったんだよな……。人を操る魔法かと思っていた。けど、そんなの魅了魔法と同じで監視対象になってないとおかしい。

はぁ……まだまだ学ぶ事が多いな。

とにかく、俺が触れれば魅了は解ける。それをクリストフ様に2回行って貰い、魅了魔法を失って頂けば良い。

まずは、クリストフ様に魅了魔法の事を教える許可を取らないと。あと、疑問もあるから確認しておきたい事もある。

「他国の、しかも大国の王太子が魅了魔法を持っているなんて、怖すぎます。可能なら魔法を使って貰い、俺が解除する方が良いのでは? もしくは、俺をターゲットにして貰う手もありますね」

「リュカをターゲットか……ルイーズの時のように上手くいくか分からないが、その方がいいかもしれんな。同じ人物に2回魔法を使うとは思えないし、カトリーヌも狙われるかもしれんが……」

「リュカが解除出来るでしょ? 他国の王太子の魔法を封じる訳にいかないからね。使って貰うのは悪い手じゃないと思うよ」

「そうだな。だがローランが鑑定したと知られる訳にはいかぬ」

「リュカが鑑定した事にするしかないね」

「承知しました。ところで、我が国は鑑定を必ず行う事で特殊魔法の使い手を埋もれさせない策を取っています。確かに王族の血筋の方が魔法を使えますが、そもそもの始まりはどこなのでしょうか? 他国でも、違う基準で特殊魔法の使い手を管理しているのでは?」

「それ……は」

全員、思いもよらなかったという顔をしているが、俺は前から疑問だった。

カドゥール国では、きっと特殊魔法の存在は知られていない。王妃教育ではそんな話は出なかったし、城をウロウロしていても情報は得られなかった。だけど、他の国はどうだろう。

小さな国なら、国民全員に鑑定をかけるなんて簡単ではないか?

確か隣国では、10歳になると全員教会で祝福を授けて貰うそうだ。その時、鑑定をしている可能性はないか?

隣国は領土は小さいが資源が多く、常に狙われている。侵略もされず、他国から戦争も仕掛けられずに平和に過ごせているのは、魔法の力ではないか?

我々は王族の血筋の者を調査しているが、他にも魔法の使い手は存在するのではないか?

俺は、思いつく限りの可能性を伝えた。過去で俺が触れた人物は普通だった事。その中にカティも含まれる事。俺の魔法はいつか使えなくなるかも知れない事。クリストフ様の魅了魔法を教えないまま放置すると、危険である事。

「確かにそうだな。今後検討する。リュカ、カトリーヌと話して、カトリーヌが了承するならクリストフ様の魅了魔法は、リュカが鑑定した事にして話せ。やり方は任せるが、王族が魔法を使えると悟られてはならぬ。それから、少し教える事がある。今すぐ来い。ローランはクリストフ様の鑑定結果を完璧に覚えておるな?」

「もちろんです」

「すぐにこの紙に書け。他にも、分かった事は全て書くのだ。リュカ、これを一言一句違わずに覚えて貰う。他にも、教える事がある」

「承知……致しました」

「ローランを頼む。リュカ、すぐに来い」

国王陛下は、王妃様にローラン王子の看病を任せ、険しい顔で俺を連れて行った。

俺は、今の身体で国王陛下の魔法に耐えられるか一抹の不安を抱えながら……後に続いた。
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