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23.あり得ない報告

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「クリストフ様は、カトリーヌが自分の求める条件を満たした相手だから求婚しただけで、カトリーヌ自身を求めた訳ではなかったのかもしれないわね」

「お似合いだと、国中で祝福されておりましたよ」

リュカが、面白くなさそうに呟きました。

「そりゃあ王女の婚約はそう言われるでしょうよ。わたくしだって、婚約期間が3年あったけどあの人を愛してるって思ったのは2年くらい経ってからよ」

「そうか、私は一目惚れしたから必死でアプローチしたんだけどな」

「お兄様達みたいに愛しあってると、婚約期間が短くなるのよね。王族同士の結婚だと会うのも距離があるから、早く一緒に居たくて結婚を急ぐのよ。カトリーヌの婚約期間は、2年の予定だったのよね? 結婚を急いでいる印象はないわね」

お兄様は、婚約して1年でご結婚なさいました。王族同士の結婚としては最短のスピードです。普通は、1年半から3年は婚約期間を設けます。

「王族は、場合によっては未成年でも結婚するからなぁ」

「そうね。18歳になるのを待つ事も多いけどね。カトリーヌもそうだったのかもね。2年あればゆっくり仲良くなれば良いから、まだお互いの事を知ろうとしている段階って感じよね。そのタイミングでルイーズと浮気でしょう? 王妃教育もまだだったし、普通は婚約解消するわよね」

あ、またお父様が落ち込んでしまわれましたわ。

「気になっている事がありまして、国王陛下と王妃様以外は、みんなカティに冷たかったんです。全員ではなくて、侍女長や騎士達など普通の人も多かったのですが、なんだか変な気はしていました。俺は普段は城に居る訳ではありませんから確証はないですし、カティが国を出る時に王太子殿下がなんだか冷たいなと感じた程度なのですが……」

「私がまともならカトリーヌの旅立ちに侍女が1人など認めん。いくらリュカが居ても、他に侍女を10人は付けろと進言する」

「そうですよね。僕も姉さんがそんな寂しい旅立ちをするなんて認めませんよ。絶対父上に進言したと思います。もしかして、父上はわざと姉さんに付ける侍女を減らして、僕達が反対するかどうか見ていたんじゃないですか? あとは、魅了されている人ばかりで信用出来る人が居なかったとか。リュカは魔法が効かないんでしょう? しかも、姉さんを連れて行っちゃうクリストフ様を好きになるとも思えないし。だから安心して姉さんに付けられた。侍女を付けなかったのではなく、リュカ以外は危なくて付けられなかったのでは?」

「ありえるね。じゃあ、過去の僕達はねーさまに冷たかったって事ですか?」

弟達が、不安そうに聞いてきました。わたくしは、こんなに慕われていたんですね。嬉しくて泣きそうです。

「……カティを見送ったのは、王太子殿下と国王陛下と王妃様だけでした。抱きしめたりなさる国王陛下と王妃様と違い、王太子殿下は一言挨拶をなさっただけでした」

「僕らは、姉さんの旅立ちを見送る事すらしなかったの?!」

「ねーさま、ごめんなさい……。僕の事嫌い??」

「そんな事ないわ。2人とも大事な弟だもの。大好きよ!」

「カトリーヌ……私はどうだ……?」

「もちろん、お兄様もお姉様も、お義姉様もみんな大好きですわ! お父様も、お母様も、リュカも此処に居る方はみんな大好きです!」

「全ての原因は魅了魔法です。王太子殿下や他の方の変貌ぶりから、国王陛下はルイーズ様が魅了を使ったと勘づいていたのではないでしょうか? ですが、鑑定を頼もうにもみんなルイーズ様の味方では正確な情報は得られないどころか、ルイーズ様に情報が伝わる可能性が高い。そうなるとカティが危険です。だから、カティを国外に出している間に対処しようとお考えになったのではないでしょうか。実際、俺達が国を出てすぐにルイーズ様は城への生涯出入り禁止を通達されています。国王陛下がルイーズ様の魅了を封じようと対策なさっている間に、ルイーズ様はカドゥール国に現れた。あとは、ご報告した通りです」

「なるほどな……それならリュカを付けたのも、逃げて構わないと言った事も納得するし、慌てて迎えを寄越すのも当然か。城中が敵なららどこで誰が聞いているか分からないから手紙にしたんだろう。リュカに国家機密まで教えているという事は、万が一の時にカトリーヌを守れる人材が居なかったという事だろうな。私達はルイーズに魅了されて敵となっていたのだろう。父上、申し訳ありません。私が原因かもしれません」

「誰が原因かなんて議論する意味はもうないわ。わたくしはもう時を戻してしまったし、今はみんな優しいもの。ルイーズの魅了もないなら、もう大丈夫よね?」

「……いや、まだ分からない。シャヴァネル公爵夫人の転移も厄介だ。ルイーズ様は今はどうなさっているのですか?」

「いつまでも城に置いておく訳にいかん。やった事は単にパーティーに乱入しただけだからな。監視を付けて記憶を消し、公爵と共に家に帰した。記憶を消せるのは1日が限界だから、これ以上留めておけん。記憶を消すならとルイーズと公爵に魅了魔法の事を聞いたが、惚けるばかりで、情報は得られなかった」

「いっそ拷問すれば良いではありませんか。怪我を治して、記憶を消せば良い」

冷たく言ったのはお兄様。とってもお怒りのご様子だわ。リュカも、隣で静かに頷いている。拷問は、さすがにまずいのではないかしら。

「落ち着いて、あなた。ルイーズの記憶を消してしまったから、しばらくは記憶を消せないわ。確か……1週間くらいは使えないのではなかった?」

お義姉様?! 止めて下さったと思ったら、そういう理由ですの?!
お姉様も悔しそうに呟いた。

「そうね。1週間も待てないし、記憶を消さないなら拷問するにはもっとやらかした証拠がないと無理よ」

何故、拷問が前提になっておりますの?!

「そうだな。捕らえるには証拠が足りぬ。ルイーズは魅了を使った事も、リュカがカトリーヌの婚約者になった事も忘れさせた。公爵もパーティーの最中の記憶を消した。だから、ルイーズはパーティー会場に現れてすぐに追い出された事になっておる。だが、パーティーに参加した全員の記憶を消す訳にいかん。他の貴族達から情報が漏れるのは時間の問題だ。とにかくルイーズが余計な事をしないように監視するしかない」

「そういえばシャヴァネル公爵夫人はパーティーにおられませんでしたね」

「今回は、国内の貴族は各家から1人だけと限定しておったのだ。メインはカトリーヌのお相手探しだったからな。国外の王族が多いパーティーでの出来事だから、子どもだから許せと言う者も現れなかった。ルイーズは一生王家主催のパーティーに参加させないと宣言したから、撤回は出来ない。そのうち怒り狂った妹が抗議に来るだろう。出来るだけ城に留めておき、最短で魔法を封じる」

お父様が宣言したところで、乱暴に扉がノックされました。許可を得て部屋に入って来たのは、王家お抱えの密偵です。

「失礼します! 緊急事態です!!! ルイーズ様が、クリストフ様を魅了なさいました!」
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