上 下
10 / 63

10.適任なのは

しおりを挟む
わたくしが、初めて自覚した気持ちに戸惑っているとドアがノックされました。

「リュカ・デ・ロドラです。お呼びにより参上致しました」

「入れ」

リュカが入って来ると、以前より少し幼い顔立ちに過去に戻れたのだと実感しました。元気に動いていて、わたくしに笑いかけてくれます。良かった……。過去に戻って本当に良かった……。

気が付くと、涙が溢れていました。

「カティ、俺は生きてるから。大丈夫。だから、泣かないで」

「ホントに、生きてる? どこも怪我してない?」

「大丈夫だよ。どこも痛くない。ちゃんと身体は動く。カティがずっと治してくれてたから。なぁ、あの後どうなったんだ? 気を失ったみたいで、カティを守れなくてごめん。次は絶対守るから。本当に無事で良かった。あの後、カティは国王陛下が助けてくれたんだよな? 伝達用の鳥が飛んでたからもうすぐ来るとは思ってたんだ。急いで手紙を出して良かった」

「リュカ……? ねぇ、貴方の腕をわたくしが治したのよね?」

16歳のリュカが怪我をした時は、わたくしは安全な所に居ました。どうしてそんなにわたくしを心配しているの?

「気が付いたら騎士の詰所で寝てたんだ。俺、また腕が取れてたのか? まぁ、今は治ってるなら良いだろ。そんな事よりカティはどうやって帰って来たんだ?」

おかしいですわ、リュカの距離感が近いです。まるで、リュカが死ぬ寸前のようです……それに、先程の発言は……まさか……。

「お父様……わたくしの魔法は、時を戻るのですわよね? あっておりますわよね? 記憶は、わたくししか残らないのではなかったのですか? わたくしは、現在15歳。もうすぐ、16歳ですわよね?」

「あ、ああ……あっている。明日はカトリーヌの16歳の誕生日だ」

リュカは、わたくしの年齢を聞いて慌ててわたくしから離れました。

「失礼致しました。カトリーヌ姫がご無事で何よりです」

「……やはりリュカが適任だな。リュカよ、カトリーヌと結婚する気はあるか?」

「はい、もちろんあります!」

「すぐにロドラ伯爵を呼べ。カトリーヌの誕生日パーティーで正式に婚約を発表する」

「お父様! 待って!」

「リュカなら大丈夫だ。クリストフ様のようにはならない。リュカよ、ルカになれるか?」

「はい。もちろんです」

リュカはすぐにルカになりました。……あれ? リュカはこの年齢では魔法の事を知らなかった筈ですわよね?

「やはりそうか。リュカ、よく聞け。カトリーヌは生涯に一度だけ時を戻す魔法が使える。カトリーヌは魔法を使い未来から戻って来た。リュカ、お前は記憶が残っているな? カトリーヌはリュカが死んですぐに時を戻したそうだ。生涯に一度しか使えない魔法を使う程リュカが好きらしい。良いか、もうやり直しは出来ぬ。次は絶対にカトリーヌを守りきり、リュカも死ぬな。自分の身も大事にせよ。でないとカトリーヌが泣く。後で聞き取りを行うから、知っている事を全て話せ」

「かしこまりました」

「我々は準備があるので出る。急がねばならぬからな。10分だけやる。2人で話せ。カトリーヌ、今度こそ幸せになってくれ。本当に、すまなかった」

「お父様! 待って! わたくしと婚約したらリュカが魅了されます。クリストフ様なら耐えられましたけど、リュカがあんな風になるなんて耐えられません!」

「すぐにルイーズの魅了を封じる手段を考える。それから、転移もな。だから安心してくれ。それに、きっとリュカに魅了は効かない」

「効かないって……そんな事ある訳……」

「リュカが記憶を保持したまま時を戻っているのが証拠だ。リュカは、父親にも母親にも王家の血が流れている。だから、性転換と特殊魔法の無効化という2つの魔法が使える。鑑定を弾き飛ばしたから、3人で一斉に鑑定してようやく判明したそうだぞ。あとは2人で話せ。リュカ、分かっているだろうが身体が若返っておるし、まだ婚約は成っていない」

「心得ております。婚約が成立するまでは、カトリーヌ姫には指一本触れません」

「え……手も繋いでくれないの?!」

「手を繋ぐことだけは許す。それではな。そんな事を言うなんて、やはりカトリーヌを幸せに出来るのはリュカのようだ。すぐ手続きを進める」

「リュカ、カトリーヌをよろしくね」

そう言って、両親は部屋を出てしまいました。

「10分したらノックをして中に入れ。それまでは誰も入れるな」

お父様の命令が聞こえます。だけど、リュカから目が離せなくて頭に入ってきません。

ドアの閉まる音がした瞬間に、リュカがわたくしの手を握り締めてくれました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。 なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。 ザル設定のご都合主義です。 最初はほぼ状況説明的文章です・・・

【完結】やり直しですか? 王子はいらないんで爆走します。忙しすぎて辛い(泣)

との
恋愛
目覚めたら7歳に戻ってる。 今度こそ幸せになるぞ! と、生活改善してて気付きました。 ヤバいです。肝心な事を忘れて、  「林檎一切れゲットー」 なんて喜んでたなんて。 本気で頑張ります。ぐっ、負けないもん ぶっ飛んだ行動力で突っ走る主人公。 「わしはメイドじゃねえですが」 「そうね、メイドには見えないわね」  ふふっと笑ったロクサーナは上機嫌で、庭師の心配などどこ吹く風。 ーーーーーー タイトル改変しました。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるイルリアは、婚約者から婚約破棄された。 彼は、イルリアの妹が婚約破棄されたことに対してひどく心を痛めており、そんな彼女を救いたいと言っているのだ。 混乱するイルリアだったが、婚約者は妹と仲良くしている。 そんな二人に押し切られて、イルリアは引き下がらざるを得なかった。 当然イルリアは、婚約者と妹に対して腹を立てていた。 そんな彼女に声をかけてきたのは、公爵令息であるマグナードだった。 彼の助力を得ながら、イルリアは婚約者と妹に対する抗議を始めるのだった。 ※誤字脱字などの報告、本当にありがとうございます。いつも助かっています。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

間違った方法で幸せになろうとする人の犠牲になるのはお断りします。

ひづき
恋愛
濡れ衣を着せられて婚約破棄されるという未来を見た公爵令嬢ユーリエ。 ───王子との婚約そのものを回避すれば婚約破棄など起こらない。 ───冤罪も継母も嫌なので家出しよう。 婚約を回避したのに、何故か家出した先で王子に懐かれました。 今度は異母妹の様子がおかしい? 助けてというなら助けましょう! ※2021年5月15日 完結 ※2021年5月16日  お気に入り100超えΣ(゚ロ゚;)  ありがとうございます! ※残酷な表現を含みます、ご注意ください

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」

まほりろ
恋愛
【完結しました】 アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。 だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。 気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。 「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」 アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。 敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。 アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。 前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。 ☆ ※ざまぁ有り(死ネタ有り) ※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。 ※ヒロインのパパは味方です。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。 ※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。 2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!

カウンターカーテシー〜ずっと陰で支え続けてきた義妹に婚約者を取られ家も職も失った、戻ってこい?鬼畜な貴様らに慈悲は無い〜

まつおいおり
恋愛
義父母が死んだ、葬式が終わって義妹と一緒に家に帰ると、義妹の態度が豹変、呆気に取られていると婚約者に婚約破棄までされ、挙句の果てに職すら失う………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、主人公コトハ・サンセットは呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまでの鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………。

処理中です...