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2.時戻しの魔法

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「お母様、時を戻す魔法など聞いた事がありませんわ」

「王族の血を引く者は、生まれつき1つだけ特別な魔法の力を持っている場合があるの。例えば、鑑定や魅了、身体強化なんてのものがあるわね。鑑定持ちは産まれやすくて何人も居るわ。だから、王族の血を引く者は産まれたら必ず鑑定をして貰う事になっているの。親だけが付き添って、鑑定内容も極秘だから教師も存在を知らないわ。カトリーヌ、貴女は鑑定結果によると時戻しの魔法が使えるの」

「時を戻すということですか?」

「ええそうよ。使えるのは生涯に一度だけ、貴女が心から時を戻したいと願えば望んだ時間まで戻れるわ。それも全て鑑定されて分かった事なの。記憶が残るのはカトリーヌだけよ。だから、結婚生活でどうしても我慢できない事があったら使いなさい。一度だけやり直せるわ」

心から時を戻したいと願えば使える魔法……ですか。かなり貴重な能力ですわね。

「お母様、わたくしの魔法は、国が危機に陥った時まで極秘にするおつもりだったのではないのですか? わたくしに伝えて良かったのですか?」

「やっぱり貴女は賢いわね。そうよ、お父様は貴女に伝える気はないわ。恐らく、我が国が危機に陥ったら開けろとでも言って手紙を託すつもりじゃないかしら。手紙を読んだ貴女が確実に力を使うように。時戻しの魔法が使えると知らなければ、心から時を戻したいと願う事などないもの」

さすがお父様ですね。いつでも国の事を第一に考えておられます。時を戻せるなんて、とても貴重な力ですもの。温存するのが正しいですわ。

だけど、お母様はわたくしの為に伝えてくれた。お母様の優しさが嬉しいです。

気がつけば、わたくしはお母様に抱きついて泣いておりました。

「……お母様は……わたくしが潰れないようにと……お父様の意思を無視してまで教えて下さったのですね……」

「あんな浮気男と結婚しろと言うのなら、せめてカトリーヌに時戻しの魔法を伝えるべきだと言ったの。だけど、認められなかった。だから、これはわたくしの独断よ。決して誰にも言ってはいけないわ。時を戻ったら、すぐに国王に時を戻ったと伝えなさい。それで貴女の価値は変わる。国王が貴女をクリストフ様に嫁がせようとしているのは、政略的な意味もあるけれど、カドゥール国の方が国力が高く王妃の守りが万全だからよ。貴女さえ生きていれば一度だけやり直せるのだから貴女を安全な場所に置いておきたいの。だけど、時を戻してしまえばその必要はない。今より自由になれる筈よ。カトリーヌ、貴女は王女だから様々な責務がある。だけど、貴女の不幸を願っている人は居ないわ。お父様も、隠し球を出すと言っていた。でも、それでも足りないわ。カトリーヌが持っているカードは全て教えておきたかったの。カトリーヌ、強く生きて。それでも、どうしても我慢できなかったら時を戻しなさい」

お母様は、そう言ってわたくしを抱きしめて下さいました。お優しい言葉をかけて下さいましたけど、わたくしの事を大事に思ってくれているのは、お父様とお母様くらいですわ。暖かい温もりに包まれて、わたくしは心を引き締めました。

一度だけやり直せるのなら、もう少しクリストフ様に歩み寄ってみよう。お母様の狙い通り、自分の力を知ったわたくしは、いつものように冷静に考えられるようになりました。

そして、お父様もわたくしの事を大事に想ってくれていたのです。国を出る日に付けられた侍女のひとりは、最強の騎士だったのですから。
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