完璧令嬢が仮面を外す時

編端みどり

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5.貴族だから

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「良いよ。言って。僕が許す」

「ありがと。なら言うわ。早くフィリップを即位させたいとか言ってたけど、本音は持参金が欲しいだけよね。前払いを要求されて、予定の持参金の半分は既に払ってるのに満額持参金を要求するもんだから、お父様が怒っていたわ」

他にも、援助をしろと言って毎年お金を要求される。わたくしが王妃になるのだからと言われるとお父様も無碍に出来ず、毎年かなりの金額を支払っている。

フィリップは毎年援助してると知らないけどね。だから知っている持参金の話だけをする。

「ごめん……! 分かってる! なんとかして持参金は返すから! それに! 慰謝料も払う!」

フィリップは、必死でわたくしに訴える。優しい、いい人だわ。

だけど、現実が見えていない。

「宝物庫は空っぽよね? そんな王家に、持参金を払って更に慰謝料を払う余裕はあるの? わたくしの知らない隠し財産でもあるのかしら?」

断言するが、そんなものはない。

「……僕が国王になったらハリソン公爵の独立を認める」

フィリップの言葉に、内心ガッツポーズをとる。そんな気持ちを悟られないように、神妙な顔で頷く。

「それならお父様の説得は出来そうね」

「これくらいしか方法がなくてごめん……!」

「良いのよ。わたくしと結婚しないなら、今まで払ったお金を返す方法はこれしかないもの。フィリップが自分で考えたのよね?」

「うん。誰にも言ってない」

「次期国王らしくなったじゃない。シルビア様のおかげね」

「そうかな……ありがとう」

照れたように笑うフィリップは可愛い。
愛は生まれなかったけど、十年婚約者として接してきたフィリップには、それなりに情がある。

「まだ誰にも言わないで。シルビア様にも言っちゃ駄目よ。お父様には伝えるわ。多分怒ると思うけど、なんとか穏便に婚約を解消しましょう。フィリップも頑張ってもらうわよ。最初は仕方ないけど、しばらくしたら彼女が城に出入り出来るよう取り計らいましょう。シルビア様のおかげでフィリップは成長した。それをみんなに分かってもらうわ。わたくしなんかより、シルビア様の方が王妃に相応しい。そう周りが思う為にフィリップも積極的に仕事をして貰う。いいわね?」

「もちろんだよ! 僕、頑張るから」

……今までは、頑張ってなかったのかしら。やっぱりこの男との結婚は無しね。あーあ、お兄様がもっと良い殿方を探して下さるかしら。独立しちゃうと、ますます政略結婚に利用されそうね。

政略結婚は仕方ないけど、わたくしを愛してくれる殿方が良いわ。わたくしは我儘なの。一番じゃなきゃ嫌。だから、シルビア様を愛しているフィリップとは結婚したくない。

わたくしを側妃にするなんて言い出さなくて良かったわ。そうなればお父様が黙ってない。他の貴族も王家の敵になるわ。

どうにか、最悪のシナリオは回避できそうね。

民に血が流れることだけはあってはならない。わたくしは、貴族なのだから。
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