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見下ろしてみれば小さな世界
しおりを挟む一昨日、三年間勤めていたお屋敷をクビになりました。
昨日、不審者人物を発見したので宿のお隣さんにその事をお伝えしました。
今日、テーランド王国の中心にあるお城で面接をすることになりました。
展開が早すぎて正直気持ちが追いつけていません……
ハルドさんと朝食を済ませた後、既に用意されていた馬車に乗ってお城まで向かうことになりました。
テーランドの王が住む城はこの街の中心に聳え立っているのですが、勿論中に入ったことはありません。
見上げればすぐに見える大きなお城をいつも見ていましたが、まさか中に入るなんて……
建物自体は近くに見えるけれど、坂道を登っていかなくてはならないので馬車は必須のようです。
テーランド王国の城、金糸城は小さな山の中心に建てられていて、その周辺は外壁で覆われているのは、数百年の間、東西の国間で土地争いが盛んに行われていたためだと、歴史書に書いてあった。
東のロメド、西のアゼンバイルドに挟まれたテーランドはどちらからも襲われる事が多く、とにかく防衛に強化していた歴史があります。
国境付近には常に見張りを置いて監視することは今でも行われているようですし、自国をるために東西国との交流は積極的に行って、今では友好的な関係を保持していると思っていました。
特に最近はアゼンバイルド公国の姫がこの国に降嫁してきたことで、アゼンバイルド公国との関係は強まったとされています。
私を案内してくださっているのはハルドさんではなく、お城の中にいたメイドの方だった。
ハルドさんは入城するとすぐにオルガ姫様に会うための許可を取ってくるからと別行動をしている。
「………………」
テーランドの城の窓から見える景色は街全体を見下ろすことが出来る。
先ほどまでいた城下町のもっと先には農業が営まれている。更に遠くを見れば転々と立ち並ぶ見張り台。
私は今までこの街をこんな高いところから見たことがなかった。
「思ったより小さいんですね」
「え?」
「テーランド王国です。砦までがテーランドなんだと思うと、視界に入る距離なんだなって思って…………今の発言は不敬でしたでしょうか」
城のメイドの方に対して「国が小さい」だなんて、自国民なのに失言だったかもしれない。
そういうつもりはなくて、自分が抱いていた世界や王国は、もっと目に見えない存在だと思っていたからであって。
どう言い訳しようかと思っていたけれど、メイドさんは笑って下さった。どうやら気にしていないみたいです。
「こちらでお待ちください」
案内された部屋に通されるとメイドさんは退室してしまいました。どうやらここで時間まで待つみたいですね。
私は先ほども見ていた外の景色を改めて窓から見つめた。
小さいなんて言いながら、その砦にここから向かうには半日は馬で移動が必要な広さ。
今まで私がいた世界はお屋敷のメイドぐらいだった。
ー何が起きるかなんて分からないのだから、絶対に諦めないで。
「仰る通りでしたね、母様」
私は懐かしい母の言葉を思い出しながら窓辺を眺めていた。
一刻した頃、部屋の扉を叩く音がした。
「お待たせ致しました。謁見の許可が降りましたのでご案内します」
声の主は確かサイラスさんだ。
私は急に緊張で鼓動が煩くなりつつも、どうにか落ち着いて扉を開けた。
サイラスさんに黙って後ろをついていく。
入り組んだ城の中を歩いていると、どうやって来たのか分からなくなってしまう。
侵入者が来た時のためにわざとそうした造りをしていると言うけれど。もし本当にお勤めとなった日にはまずは場所を覚えることに時間が掛かりそうです。
サイラスさんは城の内部に慣れた様子で迷いなく歩いていく。
背筋も真っ直ぐで背も高く、初対面で会った時のように軽装ではなくしっかりと武装した騎士らしい姿をしている。
特に輝く銀の鎧は城の中でも滅多に見ない立派な鎧です。
「こちらです」
随分と歩いて到着した場所は北塔にある建物だった。
一階に建てられた中庭に繋がった建物の内部に入ると直ぐに扉が見えた。
サイラスさんが扉の前に立つと名乗られた。
すると暫くして扉が開かれる。
中から緑陽の輝きと自然の匂いが溢れてきた。
先ほどまで見ていた中庭が続くような自然を感じさせる建物だった。
それもそうで、謁見の奥の間は硝子で作られており、硝子向こうは自然に包まれている。
自然に包まれる中心に一人の女性が座っていた。
金糸のような美しい長い髪。
体を包み込むような長いショール。
艶やかで清楚な白いドレスを着た人形のように美しい女性。
この方がオルガ姫……
私は入り口の前で深く頭を下げた。
そして、オルガ姫からの言葉を待つ。
従来の儀礼では、身分が下の者は上の者から許可を得ることで名乗ることが出来る、といった作法があるので、その慣例に倣ってみたけれど。
「……………?」
オルガ様から言葉を頂くことはなかった。
その代わり、後ろで立っていらしたサイラスさんが「名乗ってください」と仰って下さったので、私は改めて顔をあげる。
「マリア・テレーズ・ウェンゼルと申します」
真っ直ぐにオルガ姫様を見つめれば、少し離れた先からでも分かる。彼女が微笑んで下さった。
なんて美しい方でしょうか。
陶磁器のような美しい肌、そして王族の証である青色の瞳が、テラスから漏れる日の光でより瑞々しく輝いていらっしゃる。
果実のように赤い唇から、何かお言葉を頂けるのかを待ってみるけれど……何も無い。
「…………?」
先ほども不思議に思ったけれど、オルガ姫様は言葉を発しない。
王族の習わしだったかしら?
「マリア嬢。今から言うことは他言無用だ」
サイラスさんの低い声で私に忠告してくる。
「オルガ姫様は重い病を患い、声を発することが出来ないのだ。つまり、話をすることが出来ないと心得てくれ」
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