上 下
35 / 95

35.追放テイマーとハートのオムレツ

しおりを挟む
「いらっしゃいませー。あれ? さっきのカッコイイお兄さんだ!」

 お店に入ると、ウェイトレスのコーディーが話しかけてきた。
 茶色いショートカットの髪がトレードマークの、いつでも元気いっぱいな私の幼馴染だ。

「忘れ物しちゃったの? あっ、それとも私に会いたくなっちゃった? なんてね!」

 コーディーは唇に人差し指を当てて、いたずらっぽく笑う。
 彼女は、このお店の一人娘なんだけど。
 その可愛らしい仕草で、村の同世代の男の子を虜にしてきた。

 ホントに小悪魔……って感じなんだよね。

「ちょっと、そこのウェイトレスさん! しーっ、しーっ!」
「やっぱり私が目的なの? そっか、しかたないなぁ。私ってば可愛いから~」

 コーディーは両手を頬に当てて、上目づかいでマオウデさんを見つめる。

「ちがうから! 偶然またお腹がすいてきだけだから!」
「えー? あんなにたくさん食べたのに、おなか壊してもしらないよー?」
「お腹は壊れないけど、今壊れてるものがあるとすれば、それはオレの心!!」 

 私をちらちらと振り返っては、慌てた表情で手を振っている。
 なんだかわからないけど、マオウデさん困ってるみたい?
  
「ねぇ、コーディー。三人なんだけど、席って空いてる?」
「あら、ショコラの知り合いだったんだね、へー、へー?」

 コーディーはにやにやしながら私に近づいてくる。
 もう。顔! 顔が近いから。

「なんで男って、みんなショコラみたいなタイプが好きなんだろうねぇ?」
「……はぁ?」
「まぁ、でもあれね、さすが私のライバルってかんじ!」

 彼女はくるりと回転すると、私を指さした。

「でも、私負けないから! フォルト村のアイドルは私だからね!!」 
「ハイハイ。そういう冗談はいいから、早く席に案内してよね!」
「あはは、三名様ご案内~。こっちらへどうぞー」

 コーディーは可愛らしく微笑むと、私たちを奥の席へ案内してくれた。


*********

「ごめんなさい、友達が騒がしくしちゃって」
「ははは、キミの友達なら、オレ友達みたいなものだから」
「……え?」
「……え?」

 私たちは目を見合わせた。

 次の瞬間、マオウデさんの顔がみるみる真っ赤になっていく。

「ごめん今の無しで! な、な、なにを食べられますでしょうか!?」

 マオウデさんは、真っ赤な顔をメニュー表で隠しながら話しかけてきた。
 声がなんだか裏返ってる。 

 あれ?
 これって、もしかして。
 
 ……。

 …………。

 私怖がられてる?!
 どうしよう、全然心当たりがないんだけど。

 とりあえず、笑顔!
 笑顔で話しかけてみよう。

「このお店って、オムレツプレートがおススメなんですよ?」
「あ、あ、あの……カワイイ……」

 ちょっとちょっと。
 なんでいきなりメニュー表を両手から落として固まるってるのよ! 

「はぁ、ダリアちゃんは、何たべたい?」
「……どうしよう、お姉さま。胸がいっぱいで何も食べれそうにないの」

 あーあー。
 ダリアちゃん目がハートになって彼を見つめてるよ。
 すごいイケメンだもんね、マオウデさん。

 ちょっと変わった人だけど。

「えーと……マオウデさんは何か食べられます?」
「オ、オレも同じものを!」
「飲み物は何か頼みます?」
「お、同じものを!」

 同じもの……ね?
 ホントに大丈夫なのかなぁ。

「ダリアちゃんは?」
「お兄さまと同じものを……」

「すいませんー!」
「ハイハイ、喜んで―!」

 私はコーディーに注文を伝えると、再びマオウデさんと向き合った。
 
 マオウデさんも。
 ダリアちゃんも。
 頬を真っ赤にしてうつむいている。

 ……。

 …………。

 どうしようテーブルの空気が重い。
 重いよぉ。

 なにこの長い沈黙。
 なにか話題を……。

「え、えーと。マオウデさんは、冒険者なんですか?」
「いえいえ、普段は魔王で……」

 彼は何か言いかけて、慌てて口をふさいだ。 

「マオウデ……?」
「そうそう! 実は冒険者なんですよ、オレ!!」
「そうなんですか! 私もお姉さまも、元冒険者なのよ!」

 ダリアちゃんが嬉しそうに声を上げる。
 うわぁ、目がキラキラ輝いてるよ。

「こう見えてもね、魔法使いなの! お姉さまは調教師テイマー なのよ!」
「……調教師テイマー かぁ。ふわふわな動物とたわむれるヒロイン、うん。ショコラさんに似合いそうだ」
「あの、お兄さまは、どんなスキルを使われるんですか?」
「んー?」

 マオウデさんは、一瞬天井に視線をうつして考える仕草をした。

「……剣を使ったり? 魔法を使ったり?」
「スゴイ! お兄さま、魔法戦士なんですね!」

 ダリアちゃんは興奮して大きな声を上げた。
 へー。これだけカッコよくて、しかも魔法戦士なんだ。

 『魔法戦士』は、魔法を剣にまとわせて戦ったり、自分やメンバーの防御力を上げたり、とにかく強い。
 冒険者の憧れの職業堂々の一位だったりするけど、両方の適正が必要だから、なれる人は本当にわずかなんだって。

 ん? でも、なんで疑問形だったんだろう?

「なになに、盛り上がってるじゃん、私もまぜてよ!」

 コーディーが料理をテーブルに運んできた。
 オムレツの美味しそうな匂いが流れてくる。

「はーい、お兄さんの分!」

 彼の前に置かれたオムレツには、大きなハートマーク。

「うふ。私の愛がいっぱいつまってるから、味わって食べてね?」

 両手を胸の前で組んで、可愛らしく片目を閉じる。
 さすが、コーディー。
 村一番のあざといアイドル様。

「ショコラさん!」
「ハイ!?」

 マオウデさんは、突然大きな声をだして、立ち上がった。

 黒い髪と切れ長な目、整った優し気な顔立ち。
 ふーん、やっぱり。
 見れば見るほど本当にイケメンだよね、この人。

「これ、今のオレの気持ちです! どうかオレの国に来てくれませんか!」

 彼は、運ばれてきたオムレツを私に差し出すと、お店中に響き渡るような声で叫んだ。
 
 
 ……。
 
 ……はい?
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

せかぐるっ

天ぷら盛り
ファンタジー
 人は廻り、逢瀬は廻る。  町行く人と出会い、別れ…魔窟へと向かい、人外魔境を行く二人。  学舎を出た二人の男女が向かう先には、いつかの夢が語る出会いと別れが、幾度も交差する。  若白髪の男は、剣を片手に…。  魔女姿の女は、杖を胸元に…。  両者の行く末は、いつかの見た景色か、それとも…為し得ない事蹟を為すものなのか…。  人は行き交い、すれ違う地にて、いつかの景色を夢に見る。  世界は幾度かの廻りを後にして…。  気ままな男女二人が、世界を巡るのもまた、出会いと別れの物語。 ※後から、しばしば書き直す可能性高め。 設定が変わる事も十分ありえます。 どうかご注意を。

隣国は魔法世界

各務みづほ
ファンタジー
【魔法なんてあり得ないーー理系女子ライサ、魔法世界へ行く】 隣接する二つの国、科学技術の発達した国と、魔法使いの住む国。 この相反する二つの世界は、古来より敵対し、戦争を繰り返し、そして領土を分断した後に現在休戦していた。 科学世界メルレーン王国の少女ライサは、人々の間で禁断とされているこの境界の壁を越え、隣国の魔法世界オスフォード王国に足を踏み入れる。 それは再び始まる戦乱の幕開けであった。 ⚫︎恋愛要素ありの王国ファンタジーです。科学vs魔法。三部構成で、第一部は冒険編から始まります。 ⚫︎異世界ですが転生、転移ではありません。 ⚫︎挿絵のあるお話に◆をつけています。 ⚫︎外伝「隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー」もよろしくお願いいたします。

剣聖の使徒

一条二豆
ファンタジー
両親を悪魔によって殺された高校生、九十九屋日向は、親の仇を取るため、悪魔を探す日々を過ごしていた。 ある日、日向は不可解な殺害事件を悪魔の仕業だと考え、現場へと調査に向かうが、化け物に襲われそうになり…そして、謎の少女との出会いで、日向は不思議な力を手に入れる! 異能バトコメ、ここに参上! この作品、二年前に作ってみたのはいいものの、自信が持てず、大賞に応募できずにお蔵入りになってしまっていたものです。良かったら読んでみてください。 あと、『僕と彼女のリア充ライフ』という青春ラブコメも書いていますので、そちらもよろしくお願いします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...