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21.追放テイマーと女神様

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 朝日が東の空にゆっくりと昇りはじめて、あたたかな光が窓から差し込んでくる。

 なんだか……気持ちいい。

 まだほのかに木の匂いがする、新品の馬車。
 やわらかいソファーが前後に二列。
 天井と屋根があって、左右それぞれに大きな窓と扉が付いている。

 宅配する荷物は、屋根の上の荷台と、後ろ側の荷物スペースに積んである。

「どう、ショコラ。僕たちの新しい馬車の乗り心地は?」
「うん。すごく素敵!」
「あはは、そんな顔してるね」

 御者台に座っていたベリル王子が、嬉しそうに話しかけてきた。

 この馬車は、特別豪華っていうわけじゃなくて、運送ギルドのパーティーが使用する標準的な馬車なんだけど。
 
 荷物を運んだり、中で休憩したり、長旅だったら中で寝泊まりしたり。
 これから、私たちのパーティーが色んな所に荷物を届ける時に、中心になる場所。 

 つまり。

 ――私たちの家だ。

「ショコラちゃん、見てみて。この旗カワイイの~」

 馬車の外では、ミルフィナちゃんが嬉しそうに黄色いギルドの旗を振って歩いている。

「もう少ししたら替わるね」
「まだまだ、平気ですわ!」
「だーめっ! 順番って決めたでしょ?」

 運送ギルドの輸送の時にはルールがあって、必ず一人は外で旗を振らないといけないんだけど。
 受付嬢のリサにきいたら、ちゃんと理由があった。

 一つ目は、遠くからみても運送ギルドの依頼ってわかるようにするため。

 二つ目は、外を歩く人の速度に、馬車を合わせて走らせるため。

 えーと、これはなんでかっていうと。
 なにかあったときに発動する自動の魔法結界が、早い速度に対応できないからなんだって。

 だから、運送ギルドのお仕事は、安全第一でゆっくり進むのが基本。
 私たちの馬車は、ゆっくりノンビリ街道を進んでいく。

「次は、私が歩きますよ。ショコラさんは休んでいてください」
「え、大丈夫ですよ?」
「すごく眠そうですので。昨日眠れなかったんじゃないですか?」

 賢者アレスは、優しい瞳で私を見つめてくる。

 うわぁ。
 おもいっきりバレてる。

 ……もう、すっごく恥ずかしい!

 昨日は初めてのパーティー依頼のことで嬉しくて、全然眠れなかった。
 はぁ、遠足前の子供みたいだよね。
     
「ショコラ、そうさせてもらいなよ。まだまだ街までは遠いからさ」

 御者台から、ベリル王子の声が響く。

「それじゃあ、交代です。うふふ、ショコラちゃんと一緒ですね」

 ミルフィナちゃんが、アレス様と入れ替わりで隣の席に飛び乗ってきた。
 なんだか。
 彼女のあたたかい温もりと、花のようないい匂いに包まれて。

 私はだんだん意識が遠くなっていった。


**********
  
「はい、皆さん集まってください。ほら、そこのアナタも、もっと近づいてくださいね」

 気が付くと、目の前にキラキラ輝く女性が立っていた。
 ふわふわした金色の髪の上には、まぶしく光る輪。
 背中には、真っ白な大きな羽根。
 美しいというより、少し幼い可愛らしい笑顔。

 アニメや漫画にてくる、天使みたいな女の子。    

「うふふ、見ての通り私は女神! 偉大なる女神『エリエル』です!」

 彼女は両手を広げて、かっこよさげなポーズをとった。

 (――ああ、これ覚えてる)
 (――この世界に転生する時の記憶だ)

 (えーと、この後確か……)


「皆様は、幸運にも選ばれた人たちなのです。これから剣と魔法の世界に皆様を転生させていただきます」

「うぉぉ、転生なんてほんとにあったんだな!」
「ハイハイ! オレ転生先で無敵のチート無双がしたいです!」
「乙女ゲームみたいに逆ハーレムに出来ますか?!」

 女神様の周りにいた人たちが、一斉に歓声をあげる。

「ご安心ください。私は、転生者のみなさまの味方です。さぁ、こちらをご覧ください!」

 女神さまは、何もない空間からルーレットのようなものを取り出した。
 円状の回転盤には、線が引かれていて、ゲームの職業のようなものが書かれている。

 『戦士』
 『剣士』
 『魔法使い』
 『賢者』
 『錬金術師』
 『調教師』
 『ハズレ』
 『?』
 
「このルーレットは、みなさまに最適なスキルを自動で判別してくれます」

「おお! チート能力きた!」
「異世界で無双してやるぜ!」
「転生最高!」

 女神さまの言葉に、周囲から大歓声があがる。
 なにこの、不思議なノリ。

「ではまず、アナタから」

 女神さまは、正面に座っていた私を指さした。

「私ですか?」
「ええ。それではいきますよー!」

 そんないきなり!
 ルーレットがくるくると回転し始める。
 どうしよう、これって何が起きてるの?

 ……でも。
 ……直観的に『ハズレ』と『?』だけはダメな気がする。

「あの、女神様」
「なんでしょう?」
「出来れば自分で選びたいんですけど?」
「自分で……ですか?」
「はい、ダメですか?」

 女神さまはビックリした表情で、私を見つめ返してきた。
 
 (――今考えたら、これが失敗だったんだよね)
 
 (そういえば、あの時のルーレット、何が選ばれてたんだっけ?)
 (たしか……)


**********

「うーん……」
「おはよう、だいぶ疲れてたみたいだね」

 見上げると、目の前にベリル王子の覗きこむ顔が見えた。

 ――え?
 ――あれ?


「まだ少し寝てても平気だよ。今休憩中で、馬車は止めているから」

 顔をそっと下に向けると、頭の下に王子のふとももがある

 ……。

 …………。

 これって。
 もしかして。

 ひざまくらしてもらってる?

 私は慌てて飛び起きると、周囲を確認した。

「ごめんなさい、すっかり寝ちゃってました。……重かったですよね?」
「ううん。カワイイ寝顔がみれて良かったよ」

 王子はすごく幸せそうな笑顔を見せた。

 うわうわうわぁぁー!?
 何しちゃってるのよ、私!!

 私は頬を押さえて、馬車の窓際でうずくまった。
 心臓が、まるで自分のものじゃないくらい大き音を立てている。
 
 ノー!
 ノー! だよ私。
 
 ドキドキが、馬車にのっている人みんなにバレちゃいそう……。

 正面をみると、ミルフィナちゃんも反対のソファーでスヤスヤ眠っている。

 あらためて、ちらっと王子に視線をむけると。
 彼はくすくすと笑いながら、そっと私の頭をなでてくれた。
 もう……。
 やっぱり王子は………天然の女たらしだと思う……。
 
 ――あれ? そういえば。

 なんだか大切なことを夢で見た気がするんだけど。
 
 なんだったのかなぁ?
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