上 下
193 / 201
星降る世界とお嬢様編

59.吉永家の幸せなひととき

しおりを挟む
<<由衣目線>>


「お姉ちゃん、見て見て! ついに買ってきたよ!」

 私は玄関を開けるとすぐに、大きな声でお姉ちゃんに報告する。

「……買ってきたって、なにをさ?」

 うわぁ。
 なにそのお姉ちゃんのジト目。
 
 今度のは絶対当たりなのに!

「もう、あんまり無駄遣いしないでよね。先月だって大きなぬいぐるみを買ったばっかりでしょ」
「あれは、どうしても欲しかったのよ……」

 お店で見かけた大きなペンギンのぬいぐるみ。
 大きな瞳とか、可愛らしいクチバシがすごく可愛らしくて。
 ……お姉ちゃんに似てるって思ったんだもん。

「はぁ、それで。今度は何を買ったの?」
「ふふふ、驚かないでよね! じゃじゃーん!」

 私は、買ったばかりのアイテムをカバンから取り出した。

「なにそれ?」
「えー!? お姉ちゃん知らないの? 今すごく流行ってるのに!」

 可愛らしい女の子が真ん中でドレスを着ていて。
 周囲にイケメンな男の人が描かれている。
 キラキラ光る豪華なパッケージに入っているのは。

 今、大人気の乙女ゲーム。

 『ファルシアの星乙女』 

「テレビCMもたくさんやってるし、友達もみんな遊んでるんだよ!」
「んー……そういえば、見たことあるような……」
「でしょ!」

 そう。
 
 今大人気のこのゲームは。

 洋服・髪型・メイク・アクセサリーが豊富で、自分コーデで楽しめるし。 
 王子、騎士団長や宰相の息子なんて定番キャラから、執事や悪役キャラとか、さまざまなタイプのイケメンたちが揃っていて。
 すごく自由に恋愛を楽しめる。
 もちろん世界を救うっていうストーリーも楽しめるんだけど。
 最終的に誰と結ばれるかはプレイヤー次第なんだって。

「スマホ版とかパソコン版まであるんだよ。ほんとに大人気なんだから!」
「それじゃあさ、スマホでよかったんじゃない?」
「それは……」

 それだと、お姉ちゃんと一緒にあそべないじゃん。

「ねぇ、すぐにやってみようよ」
「由衣、それ一人でやるゲームだよね?」
「いいじゃん。一緒に遊ぼうよ!」

 ふふふ。
 それにね、このゲームを遊ぶのにはちゃんと計算があるんだから!

 お姉ちゃんは……中学を卒業する前あたりから……ため息をつく回数が増えた気がする。

 もともと美人で自慢の姉だったんだけど。
 たまに見せる愁いをおびた表情が、まるで恋する乙女のようで。
 呼吸が止まってしまうくらい……綺麗。

 もしかして誰かに恋してるのかと、色々しらべてみたんだけど。
 そんな相手見つからなくて。
 でも……いつか……お姉ちゃんが誰かと……。

 ダメ!
 絶対ダメ!

 お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなんだから!

 でよ!
 リアルに誰かとくっつくくらいなら、二次元に萌えてもらった方が良いんじゃないなって。
 
 ――うん、私、天才!!

「それじゃあ、はじめるね!」

 私は、ワクワクしながら、ゲームの電源を入れた。


**********

<<朱里目線>>  


 最近、由衣がゲームにはまってる。
 
 いわゆる乙女ゲーて言われている、プレイヤーがイケメンキャラと恋愛を楽しむゲームなんだけど。
 
「由衣、そろそろ寝ないとダメでしょ!」
「えー、もうちょっと! 今いいとこだから!」

 テレビの画面には、黒髪の可愛らしい女の子が映っている。
 たくさんのイケメンに好かれてるっていうのも……まぁ少しだけ納得だけどね。
 このヒロイン、すごくカワイイよね。

「ほら、見てみて。シュトレ王子の告白シーン始まるよ!!」

 由衣が、ゲーム画面を見ながら、嬉しそうに腕に抱きついてくる。

「いかにも王子様って感じのキャラだねー」
「でしょ! すっごいオレ様キャラなんだよね」

 ゲームの中の王子様が、若干上から目線でヒロインに告白してくる。

「……由衣、これ断っていいんじゃない? すごく偉そう」
「えー! ここまで攻略するの大変だったんだから!」
「でもさ。私の知ってる王子は、もっと紳士で優しかったわよ」

「私の知ってる?」
 
 由衣は不思議そうな顔をして、きょとんと首をかしげる。

 (……アカリちゃん、大好きだよ)

 ――あれ?
 
 急に頭の中に、金色の髪、青い瞳をした優しい男の子が浮かんでくる。

 ……これは、誰?。
 ……会ったこともないのに。

 胸が苦しくなって。
 いつのまにか景色が滲んでくる。

 えええ、なんで泣いてるのさ私。
 ちょっと謎すぎるんですけど!

「わかったから! そんなにシュトレ王子のこと嫌いなのね。それじゃあ、断ると……」

 由衣は慌ててゲームを操作する。
 テレビには、絶望的な顔をしたシュトレ王子の顔が映っていた。

「はぁ、お姉ちゃんって、ホントにオレ様キャラきらいだよね」
「そういうわけじゃないんだけさぁ」

 私が涙をぬぐっていると、由衣が抱きついて頬を寄せてきた。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
「んー、なに?」
「このゲームでお姉ちゃんの推しキャラって誰?」

 由衣は、興奮した表情で私を見上げている。
 横から見てただけだから……誰が推しって言われてもなぁ。
 
「主人公か……リリアナかなぁ?」
「なにそれ! どっちも女キャラじゃん!」
 
 そうなんだけどさぁ。
 主人公のヒロインちゃん、すごく性格良くてカワイイんだよね。
 まぁ……プレイヤーによっては逆ハーレムになるんだろうけど。

 リリアナは典型的な悪役令嬢なんだけど……。
 自分の気持ちに素直でまっすぐなところが、うらやましいなぁって。
 
「もう! 真面目に答えてよ!」
「答えてるってば。それじゃあ、由衣は誰が好きなの?」

 私の言葉を待っていたかのように。
 由衣の瞳が輝きだす。

「シュトレ王子や攻略対象も捨てがたいんだけど、やっぱりこのキャラでしょ!」

 由衣はゲーム画面を操作して、一人のキャラを映し出した。
 黒髪に紫の瞳。
 どことなく影のある執事姿のイケメンキャラだ。

「なんだけっけ、このキャラ。えーと……」
「クレナ! もう、お姉ちゃんの好きなリリアナの執事だよ!」
「ああ、そうだよね、うん」
「もうね。すごく強いしカッコいいの! 最後まで主人のリリアナと一緒に行動して……」

 由衣は嬉しそうに、クレナの魅力を語っている。

「噂では攻略ルートがあるみたいなんだよね……絶対落として見せるんだから!」

 由衣が画面のウィンドウを閉じると。
 再び、悲しそうな顔の金髪王子が映し出された。

 ――なんだろう。
 ――やっぱり……胸が苦しいよ……。

「そっか……お姉ちゃんはイケメンに興味ないのかぁ……まぁ、私がいるし、良いよね」
「……何の話よ?」
「ううん、なんでもない!」

 
 その日の夜。
 私はベッドの中で、今日の胸の痛みを思い出していた。

 なんだったんだろう。
 もしかして、ゲームキャラを好きになったとか!

 うーん。

 ……。

 …………。


 ないな。
 
 だって私、あのキャラ偉そうで嫌いだし。

 
 でも、それでも。
 今も溢れ出てくるこの気持ちは……なんなのかな?
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...