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星降る世界とお嬢様編

51.中学校の日常風景

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<<ある中学男子の目線>>

「なぁ、お前は誰が好みなんだよ?」
「そうだなぁ、このクラスだったら宮野木だな! あの色気……たまらないよな」
「いやいや、やっぱり京香ちゃんだな! あんなに可愛いのに優しいとか反則でしょ」

 夕日が差し込んでくる放課後のクラス。
 僕たちは気づくと、誰が好きかの話になっていた。

「なぁ、鈴木。おまえはどうなんだよ?」

 おもわず手にもっていたスマホをカバンに隠す。

「……僕も京香ちゃんかな?」

 京香ちゃんは、同じクラスの女の子で。
 少し明るめのフワッとした髪型と、くりっとした大きな目が特徴のクラスのアイドルだ。
 クラスの誰にやさしくて……。
 
 でも。
 ……なんで僕にあんなメッセージを。
 
「ウソつけ。あれだろ、鈴木が好きなのって、吉永朱里だろ?」

 親友の何気ない言葉に、胸から心臓が飛び出そうになる。
 彼は僕の首に手をまわすと、思い切り締め上げてきた。

「うわぁ、彼女かぁ……」
「無理だって。あの子はオレらじゃ手が届かないきれいな花みたいなものだって!」 
「バカ、違うよ! 何言ってるんだよ!」

 その名前を聞くだけで。

 胸が締め付けられるくらいドキドキして。
 顔から火がでてくるんじゃないかと思うくらい恥ずかしくなった。
 耳まで熱くなるのが……自分でもわかる。

「お前、わかりやすいなぁ~」
「でも……いいよなぁ、朱里ちゃん……笑顔が最高に可愛くて……」
「もうあれは天使だろ……オレらが近寄ったら罰が当たるぞ」
「学校で一番の美少女だしなぁ」
「同じクラスの奴ら……うらやましすぎだろ!」

「うーん。でも鈴木ならワンチャンあるんじゃないかな? 何気にモテるしさ」

 友達の一人が、さわやかな笑顔を見せる。
 モテる?
 僕が?

 そんなこと一度も……ないんだけど!

「こいつ、女子の好意にことごとく気づかない鈍男だからなぁ」
「だなぁ~」
「そこがコイツのいいとこでしょ」

 なんだか好き放題言われてるけど。

 京香ちゃんからきたラインの相談をしようと思ったけど。
 この会話の流れだと……やめた方がよさそうだよなぁ。

 ――それこそ何を言われるかわからない。

 僕は適当に会話を流すと、用事があると言って彼らと別れた。

 カバンからスマホを取り出すと、あらためてメッセージに目を通した。
 ラインに書かれた時間まで、まだ余裕があるな。
 
 少し早いけど。
 僕は指定された場所に向かった。


**********
 
「うわぁ、まだ時間じゃないのに! ご、ゴメンね。呼び出しちゃって」

 ラインで書かれていた場所は校舎の裏側。
 使われていない倉庫のすぐ前。

 この時間はあまり人が近づかないので。
 とても静かだった。

 目の前で慌てているのは、ラインをくれた相手。
 ……京香ちゃんだ。

「ううん。平気だよ。それで、直接相談したいことって?」
「う、うん……」

 夕日のせいかな。
 彼女の頬がリンゴのように真っ赤に見える。

「……あのね!」

 うつむいていた顔を上げると、大きな瞳が潤んでいる。

「鈴木くん……私……私ね……。アナタのことが大好きです!」
「……え?」

 ――好き?
 ――僕を?

 固まる僕に、彼女が言葉を続ける。

「……鈴木くんが別の人の事好きでも、諦めたくなくて! ……私じゃダメですか?」

 今にも泣きだしそうな京香ちゃん。

 動揺した頭で。
 彼女が言った言葉を思い返してみる。
 
「ごめん……僕が好きな人って誰の事かな?」
「だって! 鈴木くんの目はいつも朱里さんを見つめてたから!」

 その時。
 校舎の方から悲鳴のような声がした。

 今のはもしかして……。

「ゴメン! すぐ戻るからまってて!」

 僕は、その場を離れると。
 悲鳴が上がった校舎の方へ向かった。


**********

 校舎の角を曲がると。
 
 目の前に信じられない光景が広がっていた。

 地面に不思議な図形と文字が書かれていて、眩しい光を放っている。
 その中心にいるのは……。

 ――吉永朱里さんだ!

「吉永さん、大丈夫? これなに!?」
「わからないの……急に地面が光出して」

 僕は慌てて吉永さんを助けようと手を伸ばす。
 その腕は。
 なにか目に見えない壁のようなものに阻まれた。
 
「吉永さん! いますぐそこから脱出して! こっちから入れないんだ!」
「うん……わかった!」

 不安そうな顔をして手を伸ばしてくる。

 次の瞬間。

 地面の光が急に強くなった。
 
 彼女のキレイな黒髪も。
 大きな瞳も。
 キレイな白い肌も。
 
 そのすべてが金色に光って。
  
 まるで泡のように……地面の図形と一緒に消えてしまった。

 
「吉永さん!!」

 僕は慌てて彼女のいた場所に駆け寄る。
 
 うそだ……。
 なんだ今の……。

 吉永さんが……。

「ねぇ、なにかあったの?」

 校舎の影から、京香ちゃんが顔をだす。

「大変なんだ! 今不思議な図形があって、吉永さんが消えちゃって!」

 動揺する僕に、彼女が不思議そうな顔を向けた。


「ねぇ、鈴木くん。吉永さんって誰?」


**********

「やっぱりオレは宮野木だな! あの色気……くぅ、抱きしめたいぜ!」
「そうか? オレは京香ちゃん一筋だな」
「学校で一番の美少女だしなぁ」

 放課後の教室。
 夕日が差し込む教室で。
 僕たちは好きな女子について話していた。

「どうしたんだよ、鈴木。まだ『吉永さん』のこと考えてるのか?」
「お前、空想力高すぎだろ!」

 あの後。
 だれも吉永さんのことを知らなかった。

 先生も。
 クラスのみんなも。
 吉永さんのクラスメイトも。

 吉永朱里という人物そのものが……この世界から消えていた。

「いもしない女ことは置いといてさ、おまえと京香ちゃんのウワサ……ホントなのかよ?」

 親友のひとりが、僕の首に腕をまわしてくる。 

「おいおい、なんだよそのウワサって?」
「京香ちゃんがこいつに告白したらしいんだ……」
「うぉ、マジかよ!」

 友達が一斉にざわめきだす。

「そうかなぁとは思ってたんだけどよぉ」
「くそう! お前みたいなやつ……まぁ、しかたねぇ、祝福してやるよ!」
「おめでと、鈴木!」

 僕は周囲から手荒い祝福を受けた。


 本当に、僕の空想だったんだろうか。
 あの太陽みたいな笑顔の女の子。

 だって今でも。
 僕は彼女を想うだけで。

 ……呼吸を忘れてしまうほど苦しいのに。 


**********

 友達と別れた後。
 僕は、消えてしまった彼女がいた校舎裏に来ていた。

 あれから一週間。
 あの不思議な光は……なんだったんだろう。
 まるで……ラノベやアニメの異世界転生のように見えたけど。
 
 ひょっとしたら彼女もどこか別の世界に召喚されてたりして。

 そんなことを考えながら。
 ぼーっとその場で彼女の事を想っていると。


 突然。
 地面が眩しく光り始めた。

 ――なんだこれ。

 浮かび上がる文字と図形は、あの時のものとそっくりだ。

 やがて。
 中央に大きな光の塊が浮かび上がると、人の形になっていく。

 もしかして。
 まさか!?


 やがて光と地面の図形は消え去って。

 地面にペタンと座る……黒髪の美少女がそこにいた。

「あれ? 鈴木君? こんなところでどうしたの?」

 ぼーっとした表情の彼女は。
 不思議そうに首を傾げた後。
 
「って。あれ? 私なんでこんなところで座ってるのさ!」

 慌てて立ち上がると、恥ずかしそうにスカートの砂をはたく。
 
 僕は笑顔で彼女に手を差し出した。
 いつのまにか……涙で視界が滲んでいる。
 
「……おかえり、吉永さん!」
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