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星降る世界とお嬢様編

48.お嬢様と暗黒竜の能力

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 まるで流れ星になったように宙を舞いながら。
 シュトレ王子と私は、暗黒竜に攻撃を繰り返している。

 周囲の星々は、私たちの過去と……そして未来を映し続ける。


「お母様、それでそれで。あんこくりゅうはどうなったのー?」

 目の前で輝く大きな星の風景は。
 リビングで絵本を読み聞かせている映像で。
 桃色の女の子は、膝の上で嬉しそうに足をバタバタさせている。
 なんて可愛らしいんだろう。

 この子が……私とシュトレ様との子供なの?

「あのね、あんこくりゅうはね……」

 次の瞬間。
 星に大きなヒビが入って。
 周囲の星々と一緒に、一斉に吹き飛ばされた。


**********


「……え?」

 気が付くと。
 穴だらけで原形を保てていなかったはずの暗黒竜は、再び三つ首の元の姿に戻っている。

「なんなのよ、今の映像……ありえない……ありえない……ありえない!」

 ストップの魔法で止まっていたはずの由衣が、ゆっくり動き出した。
 胸元のネックレスから黒い煙が立ち上ってきて。
 だんだん彼女を覆いつくしていく。

「由衣、お願い! 今すぐそのネックレスを外して!!」
「お姉ちゃんこそ、そのゲームキャラと離れてよ!!」

 由衣の体が、近くにいた暗黒竜に取り込まれていく。

「お姉ちゃんが、あんなゲームキャラと……絶対に……絶対にイヤ!!」
「由衣! 待って!」

 慌てて由衣の元に駆け寄ろうとする私を、キナコが両手を広げて止める。

「キナコどいて!」
「ダメだよ! ご主人様も影に取り込まれる!」
「そんなこといいから!」

 キナコは首を大きく左右に振る。

「ダメだよ……ずっと……今度こそずっと一緒に……」

 目に大きな涙をためて。
 それでも、必死に両手を広げている。

「キナコ、お願い! 由衣が……私の妹が!」
「お姉ちゃん……私もお姉ちゃんの妹なんだよ?」

 首を傾けて悲しそうに微笑んだ。
 赤い髪が寂し気に揺れる。

 キナコ……初めて私の事をお姉ちゃんって。

「そのドラゴンもどきが妹なんて認めない……認めないんだから……!」

 由衣が擦り切れそうな大声で叫ぶ。
 合わせるように。
 暗黒竜が大地を……ううん。
 世界中を揺らすような咆哮を上げた。

「本物の妹は私だけだから。見せてあげる……この子のとっておきの力」

 由衣が両手を広げると。
 まるで周囲の影がドレスのような形状になっていく。
 彼女は、そのまま暗黒竜の背に飛び移った。

「させませんわ!」

 上空に飛び上がろうとした暗黒竜に魔法の樹木が絡みつく。    
 
「リリアナ……悪役令嬢のくせに、邪魔なのよ!」

 由衣が手を振るうと。
 暗黒竜の鋭い爪が樹木を切り裂いていく。

「由衣ー!」

 飛び上がって伸ばした私の手は、由衣には届かなくて。
 暗黒竜は大きな翼を羽ばたかせて、上空まで一気にのぼっていった。
 
「あはは。さぁ、魔物を吸収しなさい! 暗黒竜!」
 
  
**********
 
 突然。

 空が大小さまざまな黒い影に覆われる。

 よく見るとそれは。
 ただの影じゃなくて……。

 これってもしかして。
 ……砦を取り囲んでいた帝国の魔物……だよね。

 魔物たちは。
 まるで自分の意思で動いているように。
 どんどん暗黒竜に飛び込んでいく。

「ねぇ、おねえちゃん。知らなかったでしょ? 暗黒竜は魔物を吸収するとね、どんどん強くなるの!」

 砦に由衣の嬉しそうな声が響き渡る。

「この力でお姉ちゃんを守ってあげる! 誰にも……誰にも邪魔させないから!」

 三つの大きな首が魔物を吸収していくたびに、暗黒竜の体は巨大化していく。

 なにこれ。
 こんなシーン。
 ゲームでは出てこなかった……。

 空に浮かび上がる暗黒竜は黒いオーラを放っている。
 まるで。
 この世の醜い感情をすべて集めたような……姿で……。

 体中が恐怖を訴えている。


「由衣、バカなことはやめて。いますぐその暗黒竜から離れて!」
「何言ってるの? どれだけやられても、魔物を吸収すればすぐ強くなれるの! この子さえいれば世界だって……」
「そんなものの支配なんて誰も望んでないよ!」

 その悪魔のような姿に……。
 血が凍り付いていくような気分になった。
 よくみると自分の足が震えてる。
 
 でも。
 でも。
 由衣を止めないと!

「お姉ちゃんはだまされてるんだよ? 初代の星乙女は民衆にだまされて死んでるんだから!」

 その言葉に、胸がさされるような感覚がした。
 遠い遠い昔の悲しい思い出。
 
 浮かんでくるのは、金髪の男の子と……優しい大きなドラゴン。

 でも。
 なんで由衣がそのことを……。

「由衣! その話どこから!」
「女神様から聞いたのよ! お姉ちゃんが王国にいても同じように利用されるだけだから!」
「そんなことない!!」

「ねぇ、お姉ちゃん。主人公側なんてやめて……私と一緒にいようよ……」

 由衣の言葉に固まる私の後ろから。
 急にやさしい温もりを感じた。

 おどろく私の首元を、王子の腕がぎゅっと抱きしめてくる。

「それは出来ないかな。オレは大切な婚約者を手放す気はないからね!」
 
「黙って聞いてれば! クレナはね、私の大親友で王家の……私たちの一員なのよ!」
「僕たち王家や王国の民がクレナちゃんをだますなんて……ありえないな」
「お姉ちゃん、いくら元の世界の妹でも……あんなの悪役じゃないですか!」

 この世界にきてから出来た、私の大切な仲間が。
 武器を構えて暗黒竜の前に立ちはだかる。

「大丈夫ですわ……」
 
 リリーちゃんがそっと近づいてくると。
 私の頬にあたたかい感触がした。

「クレナちゃん……倒しましょう……暗黒竜を。妹さんは必ず助けてみせますわ」
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