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星降る世界とお嬢様編

42.お嬢様と想う力

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「あの人への想い?」
 
 かみたちゃんの言葉と表情は。
 まるで、いつか見た記憶の続きのようで。
 心臓が締め付けられるような切なさを感じた。

「それってどういう……」
「きっとね。今のクレナちゃんが、この二人を想うのと一緒だと思うよ」

 空中に映し出されたままの、シュトレ王子とリリーちゃんに視線をうつすと。
 大きな黒い瞳で可愛らしく微笑む。
 柔らかそうな黒髪が、動きに合わせてさらりと揺れた。

 その姿がまるで物語の挿絵のようで。
 思わず息をのむ。
 
 ああ。

 なんて。
 なんて。

 彼女は……美しいんだろう。


「さてー、明日もありますし、そろそろ寝ますかー?」
 
 かみたちゃんの口調が、いつもの金色の少女に戻る。
 
「う、うん。そうだね」

 もっとかみたちゃんの話を聞きたかったんだけど。
 どうしても。
 胸に膨らんだもやもやを言葉に出来なくて。

 ――それ以上、続けることが出来なかった。

 
**********  

 私は、かみたちゃんの用意した雲のような建物に入ると。
 用意された部屋のベッドに飛び乗った。

 この白い空間がどこまであるのかわからないんだけど。
 雲の建物はすごく広くて。

 それぞれの個室に。
 ベッドやソファー。
 バスルームやドライヤーまである。

 なんだか、ちょっとオシャレなホテルみたい。


「かみたちゃん……」

 彼女の切ない笑顔を思い出す。
 
 あの子は昔この世界にきた私だと思う。
 思うんだけど。

 やっぱり……よくわからない。

 私はあの時。
 どうやって異世界から帰ったんだろう?

 ベッドの上を悩みながら転がっていたら。
 いつのまにまぶた重くなってきて。
 

 いつの間にか。

 ――夢とうつつの間をさまよっていた。

 
**********

 遠くで。
 私を糾弾する声が聞こえてくる。

「そなたは、星から祝福された『星乙女』でありながら、邪悪な存在に落ちてしまった」
「違う! 私は!」
「何が違うものか! あの化け物で王国を手中に収めるつもりだったのだろう?」

 牢のような部屋にいるのは。
 ファルシア王国の大臣。
 貴族たち。
 そして……王子の婚約者候補だった大臣の娘。
  
 私の周囲には、警戒するように騎士たちが槍を構えている。

「王子に……あの人に合わせてください!」
「あの方が貴女に会うわけないでしょ。身の程をしってくださいな!」

 女の子はまるで蜂蜜のような髪を大きく揺らすと。
 私に炎の魔法をぶつけてきた。

 何重にも結界が張られている私には防ぐ手段がなくて。

 全身に痛みが走る。

「貴女があの人に大切にされていたのは星乙女だからよ? 愛されてたわけじゃないわ」
「違う! 私たちは!」
「……違わないわよ」
 
 女子は真っ赤な顔をして。
 動けない私を上から踏みつけてくる。
  
「貴女が召喚なんかされるから! 消えなさいよ! 今すぐこの世界から!」

 私は痛みに耐えながら。
 ずっと一人の男の子のことを考えていた。

 金髪の髪。
 青い瞳。
 私に幸せをくれた男の子。 
   
 竜王と二人で魔物を倒す旅に出てから……ずっと会ってないな。
 会いたいな。
 あの太陽みたいな笑顔をもう一度……見たいな。 

「はぁはぁ。可愛そうに……貴女すてられたのよ?」
「そんなはず……ないよ」
「貴女は王国軍に捕まったのよ? それなのに助けに来ないじゃない?」
 
 肩で息をしながら。
 得意げな顔をしてわたしを見下ろしている。
 
 私はまっすぐ彼女を見つめ返した。

「な、なによ! 貴女が悪いのよ! 異世界人のくせに人の王子を奪うから!」
「それくらいにしなさい。異世界の汚れがうつってしまうぞ」

 女の子の後ろから、かっぷくのいい男性が現れて。
 取り囲んでいた騎士たちに何か指示を与えた。

「大臣。さすがにそれは……。国王の判断を仰いでからのほうが……」
「わしの言うことが聞けぬのか! この娘を生かしておけば、また恐ろしい影を生み出すのだぞ!」

 騎士たちは、槍を構えた状態で。
 ゆっくりと私に近づいてくる。

 私は覚悟をきめて。
 あの人想って優しく微笑んだ。

 ごめんね。

 約束……守れなかったよ。

  
「いやだ、星乙女を殺すなんて……やっぱり私には出来ない……!」
「オレもだ! 彼女には国を助けてもらった!」
「私の故郷も!」

 突然。
 騎士たちは武器を投げ出して。
 まるで許しを請うように、私に向けて頭をさげてくる。

「そこまでだ! アカリ大丈夫か!」

 奥の通路から。
 たくさんの人の足音と。
 あの人の懐かしい声が聞こえた気がした。

「ええい! 愚か者どもめ!」

 大臣は、騎士の落とした槍を拾うと。
 私に向かって投げつけてくる。

 視界が……真っ赤に染まった。
 遠くで。
 誰かの必死に呼びかけてくる声が聞こえてくる。 

 ……どうかどうか。
 ……立派な王様になって幸せになってね。

 ――私の記憶は。そこで途絶えた。


**********

「……愛してます」

 私は、ぎゅっと目の前の影を抱きしめる。
 柔らかくてあたたかい感触と、優しい匂いがした。

「……おはようございます、お姉ちゃん」 

 私の腕の中で。
 真っ赤な顔をしたナナミちゃんがうずくまっている。
 涙で少しうるんだ瞳と目が合った。

「え? あれ?」
「……嬉しい!」
 
 ナナミちゃんは横になったまま。
 背中に腕を回して、抱きしめ返してきた。

 えーと。
 ここは……ベッドの上……だよね。

 なんだか。
 とても切なくて悲しい夢を見た気がするんだけど。
 なんだったんだろう。
 
 ……思い出せない。
 
「お姉ちゃん、私も愛してます!」
「え? ゴメン。ちょっとこれ、どうなってるの?」

「はぁ、朝から何やってるんですか? ご主人様は……」
「チューか? チューするのか?」

 足元で。
 赤い髪と白い髪が、楽しそうにぴょこぴょこ揺れている。


 だからなんで。
 みんな私のベッドにいるのさ!
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