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星降る世界とお嬢様編

40.お嬢様と星乙女の力

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「魔法陣の文字を書き換えって……?」
「ええ、成功してよかったですわ」

 嬉しくて喜びを隠せないみたい。
 上目づかいで私を見つめている。
 おもわず彼女の金色の頭に手を当てると、嬉しそうに目を細めた。
 
 ぷぷ。なんだか子犬みたい。

 ……って!

 ちょっと。なにやってるのさ、私!
 ダメだ。
 きっと私の顔は、とろけたチーズみたいになってるに違いない。
 彼女の可愛らしい笑顔を見ていると……感情が抑えられなくなりそう。
 
 どうしよう……。

「ちょっとまってよ。魔法陣って図形と文字が揃って発動するはずよね? 文字を変えたりしたら動かないはずよ!」

 ジェラちゃんが、私とリリーちゃんの間に入ってきた。
 ふぅー。
 正直、助かったよぉ。
 
 でも確かに。
 魔法陣って図形と文字にすべて意味があるから。
 一文字でも違うと発動しないはずだよね?

「意味が通じるように変更すればいいのですわ。例えば『強い』を意味する文字を『弱い』に変えたりとか」

 私の視線に気づいたみたいで。
 嬉しそうに空中に文字を書きはじめる。
 
「リリーちゃんすごい……」

 文字を一生懸命書いてるポーズが、すごく可愛くて。
 息をするのも忘れそうだよ。

 私は、あらためて。
 嬉しそうに微笑む金髪の少女と目があった。

 ……彼女の笑顔も。
 ……大好きの言葉も。
 ……抱きしめてくれる温もりも。

 全部、私が彼女の親友だから。

 影の魔法でも記憶を守ってくれるくらい、大切な大親友。
 だから。

 私のこの気持ちがもし……恋愛だとしても。
 気づいたらダメだし。
 気づかれたらダメだ。  

「アンタ……そんなことしてたの……」
「うふふ、あんなに上手くいくとはおもいませんでしたわ」

 大丈夫。
 大丈夫だよ。

 ――今は。
 
 世界を守ることに集中しよう。


**********

 かみたちゃんの後ろの画像では。
 相変わらず、暗黒竜の大きな影のような姿が映し出されている。

「まぁ、あれよね。弱体化してるんでしょ。なんだか簡単に倒せそうじゃない!」
「ねぇ、かみたちゃん。どれくらい弱くなってるの?」

 私の問いかけに。
 少し困った表情を見せた。
  
「それがですね~。王宮にいたときよりは弱いんですけど。予言よりは強いんですよー」

 ――えーと?

 それってつまり。
 弱くはなったんだけど。
 結局ゲームより強いってこと?

「ふーん? でもまぁ、私もいるし、ゲームと違って星乙女が二人もいるのよ? 余裕でしょ?!」

 ジェラちゃんが腰に腕をあてて、自信満々にこたえた。
 
 確かに。
 ゲームのヒロインだったナナミちゃんだけじゃなくて。
 私も星乙女なんだけど。

 でも……。
 ゲームみたいに攻略対象のラブ度が見えるわけじゃないし。
 この場所にいる攻略対象って。
 シュトレ様と、ガトーくんだけだし。

 一応ソロ攻略でもラスボス倒せたけど。
 それは攻略対象とヒロインのラブ度がお互いMAXなのが最低条件だったはず。
 
 私は、ちらっとシュトレ王子を見る。
 シュトレ様は私の視線に気づいて、にっこりと微笑んだ。
 その優しい笑顔に、胸がドキドキしている。
 
 なのに……なんで私の心はこんなにも、頼りないんだろう。

 これでラスボスなんて倒せるのかな……。    
 
「ええ、ですから。ここで皆さんの星乙女の力を見せて頂きますー」

 ちょっと、かみたちゃん!
 また私の心読んだでしょ?

 って………。

 それじゃあ。
 それじゃあ。

 今までの心の会話、全部聞かれてたの?! 

「安心してください。星乙女の力の源は恋なんですよー。ですから、アカリちゃんの想いが……」
「かみたちゃん、ストップ!」

 私は、いたずらっ子みたいに笑うかみたちゃんに飛びかかると。
 両手で口をふさいだ。
 

**********
 
「それじゃあ、皆さん魔法で武器を出してみてくださいー」

 かみたちゃんの話だと。
 私たちがこの空間にいる間は、向こうの時間は止まってるんだって。

 なので。
 その間に星乙女の力を自由に出せるように、みんなで特訓することになった。
 
 何故か男女分けて特訓するらしくて。
 この場所には女性陣だけ集まっている。

「特訓楽しみですわ」
「ほら、出したわよ」
「お姉ちゃん、これでいいのかな?」
 
 リリーちゃんとジェラちゃんが魔法の杖。
 ナナミちゃんは、ゲームと同じように魔法の剣と盾を出現させている。
 ゲームでのヒロインは攻撃も防御も出来るオールラウンダーだったから、ナナミちゃんも同じなのかも。

 私は、いつもの大きなランスと盾を出現させた。

「はい、皆さんの力はわかりましたので。一度しまってください」

 かみたちゃんの言葉に従って、みんな出現させた武器をしまう。

「次に目を閉じて、リラックスしてくださいー」

 なんだろう。
 言われた通りに目を閉じる。

 かみたちゃんの言葉は、まるで魔法みたい。
 ゆっくりと心に浸み込んでいくような感覚。

 なんだか……とってもいい気持ちになってくる。 

「さぁ、アナタが心から好きな相手を思い浮かべてください」

 私が……心から好きな相手……。

「恥ずかしがらずに、心が想った通りに。ゆっくりと想像してくださいー」

 ――頭に浮かぶのは。

 シュトレ王子の優しい瞳と。
 天使みたいな笑顔のリリーちゃん。

 ダメだ……。

 私は……この二人のどちらが大切なんだろう。


(選ばなくていいと思うよ)

 不意に声が聞こえた。

(心に思ったまま。それでいいんだよ、アカリちゃん)

 一人の男の子が優しく声をかけてくる。
 金色に光る髪。
 青く澄んだ瞳。

 シュトレ王子そっくりな男の子は、私の手を取ると嬉しそうに微笑んだ。

 ……知ってる。
 この人は……。
 ずっとずっと昔。
 初めてこの世界に来た私に優しくしてくれた人。

(まぁ、僕が君の近くにいられないのは残念だけど……二人とも僕の子孫だからさ)

 照れたように頭に手をあてる。
 言われてみたら。
 二人とも雰囲気が似ている気が……する。

(感じるままに。我慢しないで、迷わないで。今アカリちゃんが大好きな人と幸せになって)

 その自然な微笑みから。
 迷っている自分の心に勇気をもらった気がした。

 
「はい、そこで愛しい気持ちのまま、もう一度武器を出現させてください」

 再び、キナコの声が聞こえてくる。

 ……私が今。心から大切な二人を思い浮かべて。
 ……武器を…出現させる。

 その瞬間。
 空の星が祝福してくれるような不思議な力を感じて。
 全身がすごく幸せな気持ちで満ちてくる。

「もう目を開けても大丈夫ですよ。これが星の力を借りて戦う星乙女の力ですー」

 ゆっくりと、目を開けると。

 私のランスも盾も、金色にキラキラと輝いている。
 まるで、夜空の星を散りばめたみたい。

「うわぁ、クレナちゃんの武器、すごくキレイですわ」
「ちょっと、これなによ!?」
「お姉ちゃん、なんだか武器と盾が大変なことに……」

 三人の武器も、私と同じように輝きを放っている。
 すごくあたたかい光。
 これが星乙女の力なの?

「魔法の武器は、星乙女との愛の力で強くなるんですよ」

 かみたちゃんは、私たちを見て満足そうにうなずく。 

「つまり。お互いの愛の証みたなものですねー」
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