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星降る世界とお嬢様編

22.お嬢様と金髪の悪役令嬢

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 砦に攻め込んでいた帝国軍は。
 上空の飛空船団の撤退に合わせて、引きあげていった。


「負傷者の救助を優先にしろ!」
「運ぶのを手伝ってくださいー!」

 私たちは、ケガをした人たちの救護にあたっている。

 砦の中にはたくさんのテントが張られて。
 ルーランド砦の巨大な広場は、臨時の救護施設になっていた。


「お姉ちゃん!」

 背後から泣きそうな声が聞こえた。
 振り向くと。

 真っ白な魔星鎧スターアーマー を着た黒髪の少女が立っていた。
 
 鎧は日差しを受けて、まるで真珠のようにキラキラ輝いている。
 スカートのように見えるフリルや、背中の大きなリボン。
 
 まるで、ウェディングドレスみたい。 
 
 知ってるよ。
 この衣装って。
 ラストイベントで主人公が着ていた鎧だよね。

 ゲームでたくさんヒロインの姿は見てきたのに。
 目の前の天使のような可愛さに、思わず息をのむ。

 ナナミちゃんは、目に涙を浮かべて。
 こらえ切れないように唇をかんでうつむいた後。
 ぎゅっと私に抱きついてきた。

「よかったぁ、お姉ちゃんに会えたよぉー……」
「ナナミちゃん……」

 よく見ると、彼女の鎧にたくさんの傷がついている。

 そっと、柔らかい黒髪をなでると。
 一瞬驚いた表情で見上げてきて。

 涙を流したまま、嬉しそうに微笑んだ。

「お父さんとお母さんも無事ですよ。あと、執事のクレイさんも」

 目の前の景色が、涙で大きくゆがんでいく。

 ……。

 ……よかった。

 よかったよぉ。

 みんな無事だったんだ。
 私は涙をふいて大きく深呼吸した。

 ……大丈夫。きっとリリーちゃんも、無事だよね?


**********


<<いもうと目線>>

「さすが星乙女ちゃんよね。ワイバーン隊があんなに早く倒されるなんて」
「感心してる場合じゃないわよ。……あれじゃ私たちがだましたみたいじゃない!」
「あら? あのままだったらアンタの父親死んでたわよ?」

 サキの言葉に、思わず言葉を飲み込む。

 本当に。
 
 ――いろいろ予想外だわ。

 まさか、少し帝国の陣形を教えただけで。
 攻撃側の帝国軍が追い詰められてるなんて。
 
 しかもモンスターまで引き連れてて、数では圧倒的に勝っていたのに。

「とりあえず、これ以上の攻撃は中止よ。お父様にもそう伝えて」

「いやいや、むりっしょ。あのおっさんやる気満々ですよ」
「人の父親をおっさんって呼ばないの! あと皇帝陛下ね!」

 近くで控えてた赤髪の少女に注意すると。
 彼女はめんどくさそうな表情をして立ち上がった。

「まぁ、とりあえず伝えてくるわ。これ貸しだからね!」
「いいから、カレンちゃん。さっさと行きなさいね?」

 サキの迫力に負けたカレンが、背中の翼を羽ばたかせて飛んでいった。
 あの子……絶対私を皇女だと思ってないよね。
 
 私にもサキにも、普通に友達感覚だし。


「……ねぇ、サキ。お姉ちゃん怒ってるかな?」
「んー、さすがに怒ってるかもしれないわねぇ」

 普通に考えたら、王国から見たここまでの戦いって。

 サキを通して、帝国軍の弱点を入手。
 信じて攻め込んだところを、いきなり伏兵でどかーんと撃破。

 うん……ダメだ!
 どう考えても罠にはめた感じだよ。
 言い訳が思いつかない。 

「ねぇ、サキ! 今すぐお姉ちゃんのところにゲートを出して!」
「いやよ。そんなことしたら、敵のど真ん中に出ちゃうじゃない。アンタも私もすぐに捕まるわよ」
「それでも! ……私、お姉ちゃんに嫌われたくない!」
「はぁ……」

 サキはあきれたように、両手を広げている。
 こいつら、私の部下だよね?

 なんでこんなにいうこと聞かないのよ!

「落ち着きなさい。何のためにずっと準備をしてきたのよ」
「だって……」

 焦る私の両肩に、手を伸ばしてくる。

「あの子は、アンタの事信じると思うわよ。優しいお姉ちゃんなんでしょ?」

 サキの言葉で。
 私は、前世のお姉ちゃんを思い出す。

 キレイな黒髪、やさしい笑顔。
 中学までは、ふんわりとしたショートボブだったのに、高校に入ってから長く伸ばし始めて。
 私はどっちのお姉ちゃんも大好きだった。

 大きな瞳がすごく可愛くて。
 
 妹の私から見ても、すごくきれいな人だった。
 
 お姉ちゃん……。


「それよりさ。私は、こっちの方が怒ると思うわよ?」

 サキは、床に縛られて倒れている少女をちらりと見た。

 金色の長い髪。
 お人形みたいな顔立ち。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』で、悪役令嬢として登場する彼女は。
 現実では、お姉ちゃんの親友……ううん、それ以上の存在になっているみたいだった。

 そんなの許せない!
 お姉ちゃんの近くにいていいのは、私だけなんだから!

「だって、ずいぶん姿が変わってるけど、あのリリアナだよ? こんなやつ排除して当然よ!」
 
 リリアナ・セントワーグっていえば。

 金髪で縦ロールの、典型的な悪役令嬢キャラ。

 第一王子の婚約者だった彼女は。
 高飛車で傲慢、親の権力と婚約者の立場を利用してやりたい放題。
 攻略対象に近づく主人公に、様々な嫌がらせ行っていた。
 
 何度、あのキャラ殴ってやろうかと思ったか!

「もう……。それはゲームの話でしょ?」

 サキはあきれた表情を見せている。
 ちょっと、なんでこいつの味方をするわけ?

「ゲームでも現実でも一緒よ! 縦ロールの髪がまっすぐになったからって、性格まで治るわけないじゃない!」

 さてどうしてやろうかな。
 ずっーと僻地にゲートを出して、一人で放り出すとか。
 
 それか。
 私の召使として、ボロボロの服で働かせて。
 お姉ちゃんと私が仲良くしてるのを見せつけるとか。

 うん。
 うんうんうん!
 ……それいい。
 
 最高だわ!

 それでいこう!!

「う……ううん……」

 リリアナが気が付いたみたいで、ゆっくり目が開いていく。
 私は彼女の目の前に立つと、大きく腕組みをした。

「お目覚めかしら、悪役令嬢リリアナ! お姉ちゃんの代わりに私が退治してやるわ!」
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