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魔法学校高等部編

34.お嬢様と竜のパートナー

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「それじゃあ、乗るからね? 魔法で絶対落ちないから安心して」

 私は、金色の飛竜、アンネローゼちゃんの頭を優しくなでる。

(本当に? 途中で落ちたら大変なことになるわよ?)

「もう! なんでそんなに怖がるのさ!」

 テイミング魔法の特徴は。
 魔法をかけた動物を、人が乗れるくらい大きくすること。
 その動物と仲良くなれること。

 それと。

 飛空船やキナコと同じような魔法の結界が張られるから。
 乗っている人は自分から降りない限り、絶対に落ちないこと。

 だから。
 どんなに空中で回転しても、落ちることは絶対にないから!

「それにね、もしなにかあっても、キナコが助けてくれるから平気だよ!」

 私は、隣にいるキナコをちらっと見る。
 彼女は嬉しそうに何度もうなずいた。

「そうですよ! ボクはご主人様のパートナーだからね!」

 自慢げに胸を張るキナコ。
 なんだか……可愛い。

 私は、おもわずキナコの頭を軽くなでる。
 ツインテールの彼女の髪が、嬉しそうにぴょんと飛び跳ねた。
 
 
 アンネローゼちゃんは、一瞬、リュート様を見たあと。
 長い首を下げて、私の耳元で小さな声でつぶやいた。

(……昔、落ちたのよ……)

「……え?」

(だから、昔落ちたのよ。……あの子が……)

 リュート様に視線をうつすと。
 彼は子供のような瞳でこちらを眺めている。

「じゃあ、リュート様は貴女に乗ったことがあるのね?」

(……すごく小さな頃に)

「それって、リュート様がいくつくらいの時?」

(三歳くらいだったかしら……)

 ……。

 …………。

 えーと?

 それは……。
 さすがに、乗れないんじゃないかなぁ……。
 
(小さかった彼が背中に登ってきたの。それはもう嬉しかったわ。でも……)

 アンネローゼちゃんは一瞬嬉しそうな表情を見せた後。
 頭を大きくさげてうずくまった。 

(興奮した私が飛び上がったら、彼が落ちてしまったのよ……)

 それって。
 子供がイタズラで背中にのって、落ちちゃった的な感じだよね?
 ほとんど飛んでないよね?

(……二度とあんな思いをしたくないのよ! だから!)

 もう!
 私は、興奮する彼女を優しく抱きしめた。
  
「だから、大丈夫なんだってば。お願い! 信じて!」

 アンネローゼちゃんは。
 ビックリした表情で目を大きく開くと。
 やがて、目を閉じて小さな声でつぶやいた。

(アナタ……とてもやさしい匂いがするのね……)

 え。
 私なに食べたっけ?
 思わず、口をおさえると。
 彼女は優しい表情になって微笑んだ。

(いいわ。乗ってちょうだい。私、勇気をだして飛んでみるから)


**********

 私を乗せたアンネローゼは、一気に上空まで駆け上がっていく。

 やがて雲を抜けると。
 満天の星空が広がっていた。
 
「うわぁ、初めて空を飛んだけど。これは……ちょっとすごいね……」

 後ろを振り向くと。
 真っ赤な顔で興奮しているリュート様がいる。
 ぴったりとくっついた背中から……。
 彼の体温とか、ドキドキした心臓の音を感じる。

 えーと、つまり。
 
 アンネローゼちゃんの背中の上に。
 前側に私が。
 その後ろにリュート様が、私につかまって乗っているんだけど……。

 ……。

 …………。

 だってね!

 飛ぶ直前にアンネローゼちゃんから、切ない声でどうしてもって、お願いされたら。

 ……断れないじゃん!
 

「どう? ちゃんと飛べるでしょ?」

 アンネローゼちゃんに話しかけると。
 彼女は嬉しそうにこちらを振り返って。

 嬉しそうに目を細めた。

(リュート様と星空を飛べるなんて夢みたい……)
  
 なんだか。
 可愛いな。

「クレナ様、ありがとうございます。こんなにすごい星空は初めて見ました……」

 リュート様は。
 感動して目にうっすら涙がにじんでいた。

 ……でも。

「綺麗ですよね、星空って」

 うん。わかる。
 すっごくよくわかる!

 初めての空って、私も感動したもん。
 笑顔でリュート様のほうを振り向いた。 

「ええ。本当に……。そして、貴女も……」

 背中から伝わる、リュート様の鼓動が早くなってる気がする。
 
 貴女って。えーと?

 アンネローゼちゃんのことかな。

 もう!
 
 これって。パートナーっていうか。
 実はずっと好き同士だった幼馴染が、初デートするみたいな感じだよね?

 ってことは。
 私はお邪魔……かな?
 
 ちらっと横を見ると。

 隣をドラゴンの姿をしたキナコが飛んでいる。

「それじゃあ、私はここで失礼しますね。お二人とも頑張って!」

「え? クレナ様?」

 私は、改めて魔法をかけなおすと。

 アンネローゼちゃんからおもいきり飛び降りた。

「え?!」

(な、なにしてるのよ!)


**********


 風を切るような音がして。
 二人の姿がすぐに小さくなっていく。

「キナコ、受け止めて!」

「任せて。ご主人様!」

 キナコは私の下に回り込むと。
 大きな背中で受け止めてくれた。

 ふぅ、ちょっとだけ怖かったけど。
 さすがキナコ!

 すぐに、アンネローゼちゃんとリュート様が追いかけてくる。

「クレナ様、大丈夫ですか?」

(びっくりしたじゃない。ちょっと、大丈夫なの?)

 私は、二人の横を平行して飛ぶと。
 笑顔で話しかけた。

「ほら、ちゃんと二人でも飛べてるじゃない?」

「え?」

(あら、ホントね……)

「でも、この『星空の散歩』は、全て貴女の魔法のおかげですよね?」

 リュート様は、すこしアンネローゼちゃんを見た後。
 頬を赤くして、私に問いかけてきた。
 
 なんだか、本当に。
 初々しいカップルみたい。

「うーん、それもあるんですけど」

 私は、唇に指をあてて、考える仕草をしたあと。
 ニッコリ微笑んだ。

「でも、いつかきっと。素敵な竜騎士様になれますよ!」

 リュート様は。
 真っ赤な顔をしてうつむいた。

 
 よし!
 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』には全然登場してないイベントだったけど。

 多分これで。

 熱い友情が……生まれたよね?
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