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魔法学校高等部編

32.お嬢様と法国のドラゴン

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 魔法学校の生徒会交流会の内容は、帝国と行ったのと同じ流れで。
 
 まず、お互いの学校の一年間の活動報告をして。
 意見交換を行う。

 で。

 それが終わったら、法王様も出席するパーティーに出席。

 そのまま、全員宮殿に泊って。
 朝に解散っていう感じなんだけど。

 友好国同士の生徒会の、王国と法国では。
 帝国の交流会とは少しだけ違うところがあって。
 伝統的に、参加メンバーは相手国の生徒会と一緒の部屋で宿泊することになっている。

 もちろん、男女は別々の部屋だけど。

 ……なんだかこれって。
 修学旅行みたいだよね。


 報告会では、緑髪に整った顔のイケメン、リュート様が活動の報告をしていた。
 ゲームでも、確か。
 こんなシーンがあったような気がする。
 
 そういえば。
 飛行場で驚いた表情をされたあとは、普通だったんだよね。

 あれって……。
 なんだったんだろう?

 ふと、向かいのテーブルに座っている栗色の髪をした少女と目が合った。
 彼女は、はにかむように微笑んだ。
 大きな丸い眼鏡が、前世みたいですごく懐かしい。

 だって。
 ファルシア王国には眼鏡の文化がないから。
  
「クレナちゃん、私たちの番ですわよ」

 隣に座っていたリリーちゃんが、顔を近づけて耳元でささやいた。
 彼女の金色の髪から、花のような香りが流れてくる。

「ありがとう、リリーちゃん」

 ……たしか。
 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』では。
 ここでの活動報告で、リュート様の好感度が変わるんだよね。  

 これってゲームだと選択式なんだけど。
 実際には、目の前に選択画面とか現れないから。

 ――ここはもう。

 自分の記憶を頼りに話すしかないよね!

「それでは、ファルシア王国魔法学校の活動報告をはじめます……」

 お願い私の記憶力!
   
 王国にラスボスがあらわれたときに、援軍に来てもらえるように。
 熱い友情で結ばれる選択を話せますように
   

**********

「いやぁ、ファルシアの竜姫様のご活躍は、法国でも有名なんですよ」

 交流会の歓迎パーティーがスタートすると、リュート様は真っ先に私の近くにやってきて。
 ずっと笑顔で話している。

 たぶん、選択肢は成功たんだと……思いたい。
 ここでゲームと同じように熱い友情を誓い合わないと。
 えーと。
 何を話せばいいんだっけ?

 ……思い出せない。
 やっぱり、選択画面、出てきてくれないかなぁ。

 笑顔でリュート様と雑談をしていると。
 突然目の前に、メッセージが現れた。

 え?

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『この国でたくさんのドラゴンが見れて、私感動しました』
『この国では、ドラゴンが大切にされているんですね』
『リュート様がカッコよくて……見惚れてしましました』
『すこし風に当たりに、バルコニーにいきせんか』

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 
 ……なにこれ。

 これって。
 ゲームの選択画面だよね?

 なんで空中に浮かんで表示されてるのさ!

 この中のどれかを選んでしゃべればいいのかな?
 
 びっくりして周りを少し眺めると。
 キナコがこっちをみて嬉しそうに笑っている。
 
 あー……。
 キナコがやったのね。

「クレナ様?」

 リュート様は、私の表情をみて、不思議そうな顔をしている。
 このメッセージ画面、私にしか見えてないみたい。 
 
 ……思い出して。
 これってどれがあたりだったんだけ。

「リュート様。この国では本当にドラゴンが大切にされているんですね」

 確か……このセリフのはず。

 リュート様は。
 私のセリフを聞くと、顔がぱっと明るくなった。

「そうなんですよ! 私たちの国ではドラゴンと人間は対等なんです」

 空中に、再び選択メッセージが浮かぶ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『ドラゴンと対等の立場なんて……素敵ですね』
『人間とドラゴンが対等って、どういう意味ですか?』
『リュート様の今のセリフ……素敵です』
『だからリュート様は竜騎士を選んだのですか?』

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ……なんだろう、この感じ。

 現実の世界なのに。
 本当にゲームをしてるみたい。

 たしかに、のぞんだのは私だけど。
 なんだかすごくシュールな光景なんですけど。

「えーと。人間とドラゴンが対等って、どういうことなのですか?」

 彼は突然私の両手を握ると。
 嬉しそうに顔を近づけてきた。

「興味がありますか?」

「え、ええ」

 リュート様は子供のように目を輝かせて。
 嬉しそうに話を続ける。

「この法国では、ある偉大なドラゴンが信仰されていまして、どのようなドラゴンでも大切にしています」
「はい、聖なるドラゴンの信仰ですよね」

 事前に勉強したから、それはちゃんと知ってる。
 その偉大なドラゴンが……。
 かみたちゃんの言ってた『白い聖竜』なのかなぁ。

「ドラゴンには、人の言葉を話せる個体も、話せない個体もいるんですけど」
「ええ」

「この国では、人間と同じように、働いて対価を得ているんです」

 私の頭の中に。
 アルバイトをしている強大なドラゴンが思い浮かぶ。
 なんだか……可愛いけど不思議な感じ。

 って。
 また目の前に選択画面が表示されたんですけど!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『どんなに強いドラゴンでも対等なのですか?』
『リュート様と仲の良いドラゴンは、どんな子なんですか?』
『本当に、ドラゴンがお好きなんですね』

『リュート様……好きです』

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ……。

 覚えてないから。
 もう全然覚えてないから!

 ていうか。

 多分ゲームの選択肢と違ってるよね?
 最後のなんて、完全におかしいよね!?

 この中だったら。
 えーと。

「あの……どんなドラゴンでも対等なんですか?」
「たとえば?」

 リュート様は興味深そうに私を見つめる。

「たとえば、山のような大きなドラゴンだったり……聖なるドラゴンだったり……」

 彼は、きょとんとした顔をしたあと。
 少し嬉しそうに笑い出した。

「あはは、面白いことをいいますね」
 
「そうでしょうか?」  

「私たちはドラゴンと共に生きてますからね。例えば、強いドラゴン程、意思疎通が大変なことはよく知っていますよ」

 彼は、再び私の両手をぎゅっと握る。

「ですから。クレナ様が、竜王と呼ばれるドラゴンと意思疎通ができることは……本当に、すばらしいことなんですよ」

 普通そう思うよね。
 だってファンタジー世界の王様だもん、ドラゴンって。

 ……でもね。

「キナコ、ちょっとこっちきて」

 私は、すぐ近くで嬉しそうに私たちの様子をみていたキナコを呼んだ。

「ご主人様、どうしたの?」
「妹さんかな? よく似ているね」

 キナコは、似ているといわれてすごく嬉しそうに両手で頬をおさえる。

「その竜王……です」
「……え?」

「この子が、その竜王です」

 リュート様の笑顔がひきつったようにかたまった。
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