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魔法学校高等部編

13.お嬢様と赤ワイン

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 魔法学校の飛行場。
 黒い大きな飛空船は、魔法石の光の粒に包まれてキラキラ光っている。
 
 何度見ても。
 飛び立つ前の飛空船ってホントにきれいだな。
 
「ファルシア王国生徒会の皆様、お見送りありがとうございます」

 アイゼンラット帝国の生徒会を代表して。
 生徒会長のアリア様じゃなくて……副会長のサキさんが丁寧に挨拶をする。

 アリア様……ゲートで先に帰っちゃったしね。
 んー。正確にいうと帰らされた?

 表向きは、風邪をひいて先に飛空船に戻ったことになってるけど。

「こちらこそ。とても有意義な交流会でした。アリア様にもよろしくお伝えください」

 私も、生徒会を代表して丁寧にお辞儀をする。
 あの子、今頃怒ってるだろうな。

 それにしても。
 ……由衣が皇女様かぁ。

 由衣……アリア様を想像すると、なんだか嬉しくて。
 自然と笑みがこぼれてしまう。

 うん、また会えるよね。
 ホントはずっと一緒にいたいけど、皇女様だもんね。
 こっちから会いに行くと、謁見とかになるのかな……。
 うーん。どうやれば申し込めるんだろう。

「なんだか楽しそうね、クレナちゃん」
「あ、はい。すいません。道中気を付けてくださいね」

 まずい。
 ボーっとしてたかも。

 あわてて、船に乗り込もうとしていたサキさんに答えると。

 彼女は、いたずらっぽい笑顔で近づいてきた。
 え?
 私の頭を指さしてる?
 
「あれ? クレナちゃん頭になにかついてるわよ?」
「ホントですか?」

 慌てて頭を手でおさえると。

 急に目の前に彼女の綺麗な顔が近づいてきた。 
 ビックリして目を閉じると。
 柔らかな感触が唇に伝わった。

「えええええ?!」

「うふふ、また会いましょうね。クレナちゃん」

 少し照れた顔をした仕草をして、サキさんは飛空船に乗り込んでいった。

「ク、クレナちゃん。大丈夫ですか? あのおばさんめ!」
「お姉ちゃん、消毒! 消毒しないと!」

 リリーちゃんとナナミちゃんが慌ててかけよってくる。
 
 もう。
 またサキさんにからかわれたんですけど! 


**********

「ふーん。じゃあアンタの妹が第一皇女だったんだ」
「うん。なんか全然変わってなかったけど。会えてよかった~」
 
 ジェラちゃんが、手に持った赤ワインを飲みながら興奮気味に顔を近づけてくる。
 顔がほんのり赤いんだけど。
 アルコール入ってなかったよね?

「あれが、お姉さまの妹さんでしたか。うーん。似てませんでしたね」
「言われてみれば、少しだけクレナちゃんと雰囲気が似てましたわ」

 考えてみたら。
 生徒会メンバーって。
 シュトレ王子以外、みんな乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の事を知ってるんだよね。
 
 おまけに、七人中四人が転生者だし。


 私たちは、昨日歓迎会を開いた来賓用の部屋で、打ち上げパーティーをしていた。
 シュトレ王子は、今日は公務で出席できないんだって。

 おかげで、ナイショの話も出来るんだけど。
 ちょっと……寂しいな。

「まぁ、アリア様も可愛かったけど……やっぱり僕はクレナちゃん一筋だな」

 ガトーくんが、私にウィンクしてくる。
 もう。
 いつもそんな感じなんだから!

「ガトーくん! もし言われた子が本気にしたらどうするのさ!」
「えー? 本気にしてくてもいいのになぁ」

 さわやかな笑顔で両手を広げる。
 ほんっとに軽いノリなんだから。
 ガトーくんは、前世でもタラシだったのかもしれない。
 きっとそれで、女の人ともめてこの世界に……。
   
「ねぇ、クレナちゃん。なにかおかしな考えてない?」

 あれ?
 今の顔に出ちゃってた?

「なんてね。困った顔もかわいいねー」
「もう! ガトーくんのそういうノリ禁止!」

 ガトーくんと話すといつもこんな感じなんだから!

「ちょっと、そこの茶色王子! クレナちゃんに近づきすぎですわ!」

 突然リリーちゃんが後ろから抱きついてきた。
 ふわりと彼女の甘い匂いが広がる。

「わたくしはクレナちゃんが世界一大好きですわ……だから相手がシュトレ王子でも仕方なく……」
「リ、リリーちゃん?」
「でもすごく寂しいですわ……できればずっと一緒にいたいですわ……」
「ちょっと? リリーちゃんどうしたの?」

「んー。やっぱり無理。シュトレ王子には渡しませんわー……」
 
 抱きついたリリーちゃんが私に頬を寄せてくる。
 横顔をみると、なんかすごく真っ赤なんですけど! 
 
「お姉ちゃん。私もお姉ちゃんが大好きです!」

 同じように顔を真っ赤にしてふらふらしたナナミちゃんが、正面から抱きついてきた。

 ……。

 …………。

 これって、まさか。

 部屋を見渡すと、ジェラちゃんとガトーくんが、ソファーに座って……眠ってるし!
 
「ねぇ、キナコ! これどうなってると思う?」

 私は、近くで果物をほうばっていたキナコに声をかける。

「もぐもぐ、そのワイン。アルコール入ってますよ。ボクが魔法で成分変えたので」

 キナコはテーブルに並んでいた赤ワインを指さすと。
 再びもぐもぐ食べ始めた。
 
「えええええ!? キナコなにやってるのよ!」
「ご主人様ったら知らないんですか? そのほうが果物にあって美味しいんですよ?」

 キナコは、グラスにワインを注ぐと。
 美味しそうに飲み始めた。

「ちょっと、キナコも未成年でしょ! アルコール禁止!」

 私は、キナコの持っていたグラスを取り上げた。

「えー! ボクドラゴンですよ? 未成年とか関係ないと思うんだけどなぁ」
「いいから! すぐ元にもどして!」

 私は、リリーちゃんとナナミちゃんに抱きつかれた状態で。
 キナコに大声で叫んだ。

 私もなんだか、ポカポカした気分なんだけど。


**********

 大騒ぎになった打ち上げが終わって。
 
 私は酔いを醒ますために、空中庭園に来ていた。

 透き通った空から流れてくる風が少しつめたくて。
 ほてった体を心地く刺激してくる。
 ……すごく気持ちいい。

「あれ? クレナ?」

 振り返ると。

 金色の髪に優し気な青い瞳の青年が立っていた。
 
 わーい。
 シュトレ王子だ。

 私は嬉しくて王子に抱きついた。 

「どうしたの? 少し顔が赤いけど……大丈夫?」

 王子はいつも優しいな。
 それに。
 いつも大好きなお日様みたいな暖かい匂いがする。
 ずっとこうしてたいな。

 あーでも。
 ちゃんと言わないといけないことがあったんだ。
 内緒にしたらだめだよね。
 こんなに大好きなんだから。

「王子……私ね、ずっと内緒にしてたことがあるの」
「どんなことかな?」

「私転生者なの。前世の記憶とかあってね。それでそれで、前世のゲームでシュトレ様の事を知っていたの」

「ゲーム? それはオセロのようなもの?」
「ううん、乙女ゲームっていってね。王子さまたちと恋愛を楽しむものなの」

「恋愛を……?」

 王子は顔を少し赤くする。
 うふふ、カワイイ。

「その……恋愛ゲームで、オレはだれと結ばれるのかな?」
「ゲームの主人公は星乙女なの。だから星乙女と結ばれるわ」

「星乙女ってことは。クレナと結ばれるのかな?」

 王子は、私をベンチに座らせると。
 優しい笑顔で微笑んだ。

 マントを私の上にかけてくれる。
 前にもこんなことあったよね。嬉しいな。

「ううん。私じゃなくてね。ナナミちゃんみたいな女の子なの……私のキャラはね、男の子だから違うの……」

 いろいろ王子に伝えたいのに。

 なんだか……すごく眠くなってきた。

「そうなんだ。そのゲームと違ってよかったよ。オレは、クレナしか見てないから」

 唇に優しい感触が伝わった気がする。
 嬉しいな。

 幸せだな。

 
 気が付くとふわふわとした気分で。

 ――見慣れた天井の景色が目の前に飛び込んできた。

 ……。

 ………。
 
 ……あれ? 
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