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魔法学校中等部編
46.お嬢様と子供の頃の約束
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数日後。
招待状に記載のあった日。
私は、謁見の間の豪華な扉の前で待機している。
今日の私は、メイド長のセーラ率いるメイド隊の皆様が数時間かけてつくった『芸術作品』。
丁寧に編み込んでもらった髪には、可愛らしい小さなティアラ。
ふんわりとした白いレースと空色のロングドレス。
朝早くから湯浴して体になじませた優しい甘い香り。
私史上、一番おしゃれな私だと思う。
セーラたちは笑顔で送り出してくれた。
「……クレナ? 嫌なら嫌でいいんだぞ。今すぐお父さんが乗り込んで断ってやるから!」
「あはは。ありがとう、お父様。大丈夫だから」
「クレナちゃん、自分の心に正直に。ね?」
一緒にいるのは、お父様とお母様。
キナコとナナミちゃんは、あとで行われる予定のパーティー会場で合流予定。
パーティーっていっても。
参加者は王家の家族と、ウチの家族だけなんだけど。
これ、バッドエンドになっても開催するのかなぁ。
「クレナ・ハルセルト様、参られました!」
合図とともに、重そうな扉が開く。
大きな謁見の間。
玉座に続く赤い絨毯の上を、お父様お母様と一緒に並んで歩く。
最初に来た時って。
この場所の雰囲気に飲まれて、すごく緊張したんだけど。
今は……別の理由で緊張している。
玉座の前につくと。
両手でスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げて頭を下げた。
「よく来たね、クレナちゃん。来てくれてありがとう。頭をあげて」
顔あげると、優しく微笑む国王様と目があった。
「申し訳ないけど、リードとレディナは退出してもらってもいいかな? 二人きりで話がしたいんだ」
「おまえ! 人の娘になにかしたら戦争だぞ! 戦争だからな!」
「もう。アナタ落ち着いてください。クリール……お願いね」
大人げないお父様を、お母様がなだめながら退出する。
「キミたちも退出してもらっていいかな?」
近くにいた護衛の兵士や宰相も、頭を下げて退出してく。
「さて。これで二人きりなんだけど。先に言っておくね」
二人きりになった静かな謁見の間に、国王様の声が響いた。
どうしよう。
緊張する……。
「今まで王家のわがままで、シュトレ王子の婚約者でいてくれて。本当にありがとう」
玉座から立ち上がると、頭を下げた。
「そんな。私こそ色々ありがとうございました」
慌てて、私も頭を下げる。
しばらく、二人で頭を下げた状態のままになった。
「あはは、なんだかおかしいね」
国王様は、突然笑い出しその場に座り込んだ。
私も、国王様に合わせてちょこんと座る。
「クレナちゃんはさ、なんとなく僕の奥さんに似てるんだよ」
「トルテ様と、ですか?」
「うん、そうだよ。今日は頑張ってパーティー出席するって言ってたから。会えるんじゃないかな」
やっぱり子供みたいに笑う人だなぁ。
でも……どこかシュトレ王子に……似てる。
親子だもんね。似てて当然なんだけど。
昔はそんなこと思わなかったな。
「さて、本題にはいろうかな」
「はい」
国王様の顔が真剣になる。
私は気持ち的に正座のつもりで、かしこまる。
ヒールがあるから横座りなんだけど。
ドレス姿だから、ものすごくスカートが広がってて、見えないと思うし。
こういうのは、気持ちが大事だよね。
「あらためていうけど、シュトレは第一王子だ。将来国王になる」
「……はい」
「聞きたくない話かもしれないけど。もしクレナちゃんに断られても、もう次の相手も決まってるんだ」
そうなんだ。
その可能性は考えてたけど。
胸がずきんと痛む。
「お相手って? 聞いても平気なのでしょうか?」
「クレナちゃんなら平気さ。相手はアイゼンラット帝国の第一皇女だよ」
帝国って。
あの……敵対するはずの帝国?
「向こうから申し入れがあったんだよ。クレナちゃんと破棄して婚約してくれって。まだ返事はしてないよ」
もし。
もしこの婚約が成立したら。
帝国が攻めてくるイベントは……無くなる?
世界を滅ぼすラスボスを連れてきたりはしない?
……どうしよう。
ちゃんと決めてきたのに。
かみたちゃんにも背中を押してもらったのに。
だめだ!
そんな弱気じゃ、王子と一緒に国を背負うなんてとてもできないよ。
シュトレ王子と将来結婚を考えるなら。
私は……この国の王妃になるんだから。
だから。
決めてきたんだ。
――もう迷わないって。
「国王様。それは、私が破棄したらの話ですよね?」
「そうだね。破棄したら、だね」
私はその場で、立ち上がると。
今までの人生のすべて。
今までで最高の笑顔で。
今までで一番優雅にお辞儀をした。
「私は、シュトレ王子を愛してます。改めて、婚約の話お受けいたします」
謁見の間に沈黙の時間が流れる。
どう考えたって。
帝国の第一皇女との婚約の方が王国にとっても、ううん。
世界の未来の為にも……良いのかもしれないけど。
でも、私は。
シュトレ王子の隣にいようって決めたから。
ずっと一緒にいたいって思えたから。
だから、簡単には諦めてあげない!
悪役令嬢になっても、かまわない!
そのままの姿勢で、頭を下げていると。
急に国王様が笑い出した。
「あはは。うん、だとおもってね。実は帝国には僕が勝手に断っておいたよ」
え?
慌てて顔をあげると。
いたずらっぽく笑う国王様の顔があった。
「煽ったみたいでごめんね。でもこんな風に国を背負うっていうのは、正攻法ではうまくいかないんだよ」
えええ?
ええええええええ!?
もう!
このタヌキ親父ぃぃ!
今、ものすごく恥ずかしいことしちゃいましたよ!
ううん。
するつもりではいたんだけどさ!
今度は、恥ずかしくて顔をあげられないんですけど!
「王族っていうのは、ズルさも必要なんだよね。たとえば」
国王様が、玉座の後ろにある柱を指さすと。
そこには……。
真っ赤な顔をしたシュトレ王子がいた。
**********
私たちは、王宮の空中庭園に来ている。
「ゴメン、クレナ! だますつもりは本当になかったんだ……」
シュトレ王子が頭を下げる。
「父から、大事な話があるから残ってろって言われて……信じてもらえないかもしれないけど」
きれいな金色の髪が、風にサラサラ揺れてる。
よく見たら耳が真っ赤だ。
なんだか……いつもの王子とちがって。
カワイイ。
「頭をあげてください、シュトレ様……それより」
「それより?」
「……全部聞いてましたよ……ね?」
「……ゴメン。最初から……いたから……」
顔あげたシュトレ王子
澄んだ青い瞳と目が合う。
……。
…………。
静かになった空中庭園で。
小鳥のさえずりが可愛らしい音楽を奏でている。
……だよね。
そうだよね!
いたんだもんね。
あの場所に。
あー、もう。
消えたい。
今すぐ消えたいんですけど!
思わずしゃがみ込む。
「え?……クレナ、大丈夫?」
心配そうなシュトレ王子の声が聞こえる。
やっちゃったよぉ。
せっかく私史上最高におしゃれしてきたのに。
かっこよく、王子に告白するつもりだったのに。
ごめん、セーラとメイド隊のみんな。
こんなに頑張ってくれたのに、活かせなかったよぉ。
……よし!
もう失うものなんて何もないよね!
「シュトレ様!」
私は立ち上がって、シュトレ様に向き直る。
予定が変わっちゃったけど。
頑張るってきめたから。
「文化祭の花火の返事をさせてください!」
もう恥ずかしすぎて、王子の顔が見れないけど。
目を閉じながらでも伝えよう。
「……うん」
せっかく目を閉じてたのに。
王子の優しい声に反応して、目をあけてしまった。
ああ。
やっぱり私は。
この人が大好きだ。
両手でスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げて頭を下げた後。
今の私の気持ちをのせて。
今この瞬間に、私史上最高のスマイルを!
「約束のその先も、ずっとずっと。貴方のそばにいさせてもらえませんか?」
シュトレ王子は顔をさらに赤くして固まっている。
あれ?
失敗した?
私の人生初の告白だったんだけど。
「……もし、シュトレ様がよろしければ……ですけど」
恥ずかしくて、胸がドキドキしてるのがわかる。
おもいきって視線をあげて。
シュトレ王子の顔を見ると。
そこには。
私が今までに見たどんなイベントスチルよりも素敵な笑顔があった。
「もちろん! もちろんだよ! オレはずっとずっと、君だけを見てきたんだ!」
二人の距離が近づいて。
両手で引き寄せられて、強くギュッと抱きしめられた。
頰に、シュトレ王子の鼓動が伝わる。
なんだかすごく……心地よくて安心する。
「キスしてもいい?」
私は身体を預けたまま、こくりと頷く。
唇を通して。
王子のやわらかい感触と体温を感じた。
**********
<<いもうと目線>>
「これがお姉ちゃんか~。うふふ、確かに笑顔に面影があるわ~」
私は、魔人の先が撮ってきた映像クリスタルを眺めていた。
「かわいいでしょー! 目がキラキラしてて、もう本当に妖精みたいなのよ」
サキは、頬を赤らめながら、一緒に映像をみていた。
……よし。
すべて終わったら、サキはやっぱり首で!
映像には、お姉ちゃんのほかに、不必要な女が沢山映っていた。
なにこいつら!
私のお姉ちゃんに馴れ馴れしくしないでよ!
「で、やっぱり似てるでしょ、この子。ゲームの星乙女に」
クリスタルは、お姉ちゃんに抱きつく黒髪の女を映していた。
ええ……確かに似てるわね。
ゲームみたいに、好きな相手に媚びるところとか。
おまけに!
なにこいつ、『お姉ちゃん』っとか気軽に呼んでるのよ!
ゆるせない。
ゆるせない。
ゆるせない。
お姉ちゃんの横にいるのは私のはずなのに!
お姉ちゃんの妹は私一人なのに!
「アリア様、準備ができました」
「わかったわ。今行く!」
「ねぇ。ホントにやる気なの? ゲームでも帝国はあいつを制御できなかったんでしょ?」
「大丈夫よ、そのためにたくさん実験したんじゃない」
王国には、星乙女が二人もいるんだから油断はできないけど。
……ラスボスを召喚して。
かならず王国とお姉ちゃんに近づく虫たちを退治してやる!
私には、神様みたいなものからもらった力があるんだから!
この日の為に作成した、真っ黒なネックレスを首にかける。
……これはさえあれば。
私なら制御できる。
待っててお姉ちゃん。
絶対助けに行くからね!
招待状に記載のあった日。
私は、謁見の間の豪華な扉の前で待機している。
今日の私は、メイド長のセーラ率いるメイド隊の皆様が数時間かけてつくった『芸術作品』。
丁寧に編み込んでもらった髪には、可愛らしい小さなティアラ。
ふんわりとした白いレースと空色のロングドレス。
朝早くから湯浴して体になじませた優しい甘い香り。
私史上、一番おしゃれな私だと思う。
セーラたちは笑顔で送り出してくれた。
「……クレナ? 嫌なら嫌でいいんだぞ。今すぐお父さんが乗り込んで断ってやるから!」
「あはは。ありがとう、お父様。大丈夫だから」
「クレナちゃん、自分の心に正直に。ね?」
一緒にいるのは、お父様とお母様。
キナコとナナミちゃんは、あとで行われる予定のパーティー会場で合流予定。
パーティーっていっても。
参加者は王家の家族と、ウチの家族だけなんだけど。
これ、バッドエンドになっても開催するのかなぁ。
「クレナ・ハルセルト様、参られました!」
合図とともに、重そうな扉が開く。
大きな謁見の間。
玉座に続く赤い絨毯の上を、お父様お母様と一緒に並んで歩く。
最初に来た時って。
この場所の雰囲気に飲まれて、すごく緊張したんだけど。
今は……別の理由で緊張している。
玉座の前につくと。
両手でスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げて頭を下げた。
「よく来たね、クレナちゃん。来てくれてありがとう。頭をあげて」
顔あげると、優しく微笑む国王様と目があった。
「申し訳ないけど、リードとレディナは退出してもらってもいいかな? 二人きりで話がしたいんだ」
「おまえ! 人の娘になにかしたら戦争だぞ! 戦争だからな!」
「もう。アナタ落ち着いてください。クリール……お願いね」
大人げないお父様を、お母様がなだめながら退出する。
「キミたちも退出してもらっていいかな?」
近くにいた護衛の兵士や宰相も、頭を下げて退出してく。
「さて。これで二人きりなんだけど。先に言っておくね」
二人きりになった静かな謁見の間に、国王様の声が響いた。
どうしよう。
緊張する……。
「今まで王家のわがままで、シュトレ王子の婚約者でいてくれて。本当にありがとう」
玉座から立ち上がると、頭を下げた。
「そんな。私こそ色々ありがとうございました」
慌てて、私も頭を下げる。
しばらく、二人で頭を下げた状態のままになった。
「あはは、なんだかおかしいね」
国王様は、突然笑い出しその場に座り込んだ。
私も、国王様に合わせてちょこんと座る。
「クレナちゃんはさ、なんとなく僕の奥さんに似てるんだよ」
「トルテ様と、ですか?」
「うん、そうだよ。今日は頑張ってパーティー出席するって言ってたから。会えるんじゃないかな」
やっぱり子供みたいに笑う人だなぁ。
でも……どこかシュトレ王子に……似てる。
親子だもんね。似てて当然なんだけど。
昔はそんなこと思わなかったな。
「さて、本題にはいろうかな」
「はい」
国王様の顔が真剣になる。
私は気持ち的に正座のつもりで、かしこまる。
ヒールがあるから横座りなんだけど。
ドレス姿だから、ものすごくスカートが広がってて、見えないと思うし。
こういうのは、気持ちが大事だよね。
「あらためていうけど、シュトレは第一王子だ。将来国王になる」
「……はい」
「聞きたくない話かもしれないけど。もしクレナちゃんに断られても、もう次の相手も決まってるんだ」
そうなんだ。
その可能性は考えてたけど。
胸がずきんと痛む。
「お相手って? 聞いても平気なのでしょうか?」
「クレナちゃんなら平気さ。相手はアイゼンラット帝国の第一皇女だよ」
帝国って。
あの……敵対するはずの帝国?
「向こうから申し入れがあったんだよ。クレナちゃんと破棄して婚約してくれって。まだ返事はしてないよ」
もし。
もしこの婚約が成立したら。
帝国が攻めてくるイベントは……無くなる?
世界を滅ぼすラスボスを連れてきたりはしない?
……どうしよう。
ちゃんと決めてきたのに。
かみたちゃんにも背中を押してもらったのに。
だめだ!
そんな弱気じゃ、王子と一緒に国を背負うなんてとてもできないよ。
シュトレ王子と将来結婚を考えるなら。
私は……この国の王妃になるんだから。
だから。
決めてきたんだ。
――もう迷わないって。
「国王様。それは、私が破棄したらの話ですよね?」
「そうだね。破棄したら、だね」
私はその場で、立ち上がると。
今までの人生のすべて。
今までで最高の笑顔で。
今までで一番優雅にお辞儀をした。
「私は、シュトレ王子を愛してます。改めて、婚約の話お受けいたします」
謁見の間に沈黙の時間が流れる。
どう考えたって。
帝国の第一皇女との婚約の方が王国にとっても、ううん。
世界の未来の為にも……良いのかもしれないけど。
でも、私は。
シュトレ王子の隣にいようって決めたから。
ずっと一緒にいたいって思えたから。
だから、簡単には諦めてあげない!
悪役令嬢になっても、かまわない!
そのままの姿勢で、頭を下げていると。
急に国王様が笑い出した。
「あはは。うん、だとおもってね。実は帝国には僕が勝手に断っておいたよ」
え?
慌てて顔をあげると。
いたずらっぽく笑う国王様の顔があった。
「煽ったみたいでごめんね。でもこんな風に国を背負うっていうのは、正攻法ではうまくいかないんだよ」
えええ?
ええええええええ!?
もう!
このタヌキ親父ぃぃ!
今、ものすごく恥ずかしいことしちゃいましたよ!
ううん。
するつもりではいたんだけどさ!
今度は、恥ずかしくて顔をあげられないんですけど!
「王族っていうのは、ズルさも必要なんだよね。たとえば」
国王様が、玉座の後ろにある柱を指さすと。
そこには……。
真っ赤な顔をしたシュトレ王子がいた。
**********
私たちは、王宮の空中庭園に来ている。
「ゴメン、クレナ! だますつもりは本当になかったんだ……」
シュトレ王子が頭を下げる。
「父から、大事な話があるから残ってろって言われて……信じてもらえないかもしれないけど」
きれいな金色の髪が、風にサラサラ揺れてる。
よく見たら耳が真っ赤だ。
なんだか……いつもの王子とちがって。
カワイイ。
「頭をあげてください、シュトレ様……それより」
「それより?」
「……全部聞いてましたよ……ね?」
「……ゴメン。最初から……いたから……」
顔あげたシュトレ王子
澄んだ青い瞳と目が合う。
……。
…………。
静かになった空中庭園で。
小鳥のさえずりが可愛らしい音楽を奏でている。
……だよね。
そうだよね!
いたんだもんね。
あの場所に。
あー、もう。
消えたい。
今すぐ消えたいんですけど!
思わずしゃがみ込む。
「え?……クレナ、大丈夫?」
心配そうなシュトレ王子の声が聞こえる。
やっちゃったよぉ。
せっかく私史上最高におしゃれしてきたのに。
かっこよく、王子に告白するつもりだったのに。
ごめん、セーラとメイド隊のみんな。
こんなに頑張ってくれたのに、活かせなかったよぉ。
……よし!
もう失うものなんて何もないよね!
「シュトレ様!」
私は立ち上がって、シュトレ様に向き直る。
予定が変わっちゃったけど。
頑張るってきめたから。
「文化祭の花火の返事をさせてください!」
もう恥ずかしすぎて、王子の顔が見れないけど。
目を閉じながらでも伝えよう。
「……うん」
せっかく目を閉じてたのに。
王子の優しい声に反応して、目をあけてしまった。
ああ。
やっぱり私は。
この人が大好きだ。
両手でスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げて頭を下げた後。
今の私の気持ちをのせて。
今この瞬間に、私史上最高のスマイルを!
「約束のその先も、ずっとずっと。貴方のそばにいさせてもらえませんか?」
シュトレ王子は顔をさらに赤くして固まっている。
あれ?
失敗した?
私の人生初の告白だったんだけど。
「……もし、シュトレ様がよろしければ……ですけど」
恥ずかしくて、胸がドキドキしてるのがわかる。
おもいきって視線をあげて。
シュトレ王子の顔を見ると。
そこには。
私が今までに見たどんなイベントスチルよりも素敵な笑顔があった。
「もちろん! もちろんだよ! オレはずっとずっと、君だけを見てきたんだ!」
二人の距離が近づいて。
両手で引き寄せられて、強くギュッと抱きしめられた。
頰に、シュトレ王子の鼓動が伝わる。
なんだかすごく……心地よくて安心する。
「キスしてもいい?」
私は身体を預けたまま、こくりと頷く。
唇を通して。
王子のやわらかい感触と体温を感じた。
**********
<<いもうと目線>>
「これがお姉ちゃんか~。うふふ、確かに笑顔に面影があるわ~」
私は、魔人の先が撮ってきた映像クリスタルを眺めていた。
「かわいいでしょー! 目がキラキラしてて、もう本当に妖精みたいなのよ」
サキは、頬を赤らめながら、一緒に映像をみていた。
……よし。
すべて終わったら、サキはやっぱり首で!
映像には、お姉ちゃんのほかに、不必要な女が沢山映っていた。
なにこいつら!
私のお姉ちゃんに馴れ馴れしくしないでよ!
「で、やっぱり似てるでしょ、この子。ゲームの星乙女に」
クリスタルは、お姉ちゃんに抱きつく黒髪の女を映していた。
ええ……確かに似てるわね。
ゲームみたいに、好きな相手に媚びるところとか。
おまけに!
なにこいつ、『お姉ちゃん』っとか気軽に呼んでるのよ!
ゆるせない。
ゆるせない。
ゆるせない。
お姉ちゃんの横にいるのは私のはずなのに!
お姉ちゃんの妹は私一人なのに!
「アリア様、準備ができました」
「わかったわ。今行く!」
「ねぇ。ホントにやる気なの? ゲームでも帝国はあいつを制御できなかったんでしょ?」
「大丈夫よ、そのためにたくさん実験したんじゃない」
王国には、星乙女が二人もいるんだから油断はできないけど。
……ラスボスを召喚して。
かならず王国とお姉ちゃんに近づく虫たちを退治してやる!
私には、神様みたいなものからもらった力があるんだから!
この日の為に作成した、真っ黒なネックレスを首にかける。
……これはさえあれば。
私なら制御できる。
待っててお姉ちゃん。
絶対助けに行くからね!
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