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第3章 公爵令嬢の選択
第27話 ルインズベリー公爵家
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「さて皆様。テスタ宰相も、当面わたくしを狙うことは諦めたと思います。
ですが、ここまで事が大きくなった以上、他の貴族の手前、わたくしには王宮で暮らすよう勧められるかもしれません。
そうなれば断るのは難しいと思います。
残念ですが、皆様への護衛依頼はそこまでとなります」
ヴィレッタが寂しそうに呟いた。
「ええ?そうなの?この御屋敷暮らし、もう少ししたかったのに~」
「元々、場違いな俺たちだ。貴族の政争に巻き込まれるつもりはない」
ベレニスはフカフカベッドに未練たらたらで、リョウは肩の力を抜いたように嘆息しながら呟いた。
「ただ、本日、王宮で陛下が下す決定まで時間がかかるでしょう。それまで、どうかよろしくお願いします」
その笑顔に、私は切なくなる。
このまま真実の自分を知らせず、別れの時を迎えていいのかと心が揺れる。
だがヴィレッタは、これからサリウス王の側室となり、現王による権力奪還を目指す一部となるのだ。
本当の真実を打ち明けてもいいのか?
でも……ここで打ち明けなければ、二度と言う機会がないかもしれない。
打ち明けよう。でないと、きっと後悔する気がする。
「ヴィレッタ!あの!」
けれどその決意は、フィーリアに遮られた。
「残念っすけど、ヴィレッタさんを殺そうとした連中とシャイニング公爵家が無関係なのが、今の襲撃ではっきりしたっす」
「フィーリア……それはなぜ?」
「いいっすか、ローゼさん。
あの宰相が恐れたのは、ローゼさんとセットになって今の王様に嫁ぐヴィレッタさんっす。
自分の権力を奪われる恐怖を、上手く駆り立てられて性急に事を運ぼうとしたって感じっすね。
多分早朝への包囲策を考えたのも、会話っぷりから昨夜っす」
フィーリアは確信を持って言った。
その言葉にベレニスが反応する。
「そういえば、ヴィレッタを教会で襲った連中や、私とフィーリアを商業ギルドで狙った連中の影が見えないわね。
装備者を都合が悪くなれば殺すっていう魔導具の指輪も、誰もはめてなかったわ」
「単にラスボスがしゃしゃり出てきたから、裏の稼業の人たちは使わなかっただけじゃない?」
「いやいやローゼさん。
これ最初っからおかしいと思うべきっすよ。
昨日1日、ローゼさんとリョウ様はヴィレッタさんを護衛してましたが、怪しい気配は一切感知しなかったのも変すよ。
逆に自分たちが狙われたのは、探られたくないのが商業ギルドにあったからっす」
「それって……ヴィレッタは元々命を狙われてなかったってこと?
でも実際ジーニアの言葉通りに、ヴィレッタは教会で命を狙われ……あっ!」
大事なことを思い出す。
ジーニアという邪教の魔女が、信用なんてこれっぽっちもできないことを。
「つまり、俺たちをヴィレッタ嬢の側に置くためだけに、ジーニアが仕組んだ罠だったのか。
一体、何のためにそんな手の込んだことをする?」
リョウが小首を捻りながらフィーリアに訊く。
「そこまでは情報不足で断定できないっすが、想像はつくっす。
……本命の作戦にリョウ様やローゼさん、ベレニスさんが関与しないように目線を変えさせたかったんす。
つまり、今回の邪教の目的は……」
フィーリアの話の途中で、少し離れた空から黒煙と火の手が上がった。
「あの方角は……⁉」
ヴィレッタが驚きの声を洩らし、走り出した。
「お嬢様!お待ちくだされ!」
エマさんが後を追う中、私たちも後を追った。
***
王国4大公爵家に数えられる、ルインズベリー家の豪華な屋敷が燃えていた。
「な、なんということだ」
同じく4大公爵家であるニクラス・レスターは、眼前に拡がる光景に唖然とした。
「ええい!応援を呼べ!消化活動をするのだ!」
この業火では、使用人含め全滅であろう。
このタイミングでレスティア公爵家とアデル准男爵を陥れようとした仕掛け人、ポール・ルインズベリーが公爵家諸共消し去る。
誰の仕業かと考えるも、ニクラスに答えは出ない。
よもや宰相に進言した策が大ハズレで、責任を取って自害したのではあるまいか?と一瞬考えたが、当主エクベルトも、公子であるポールも、そんな選択をする人間ではない。
だからこそ、ニクラスは早急な消火活動を命じたのだ。
一刻も早く鎮火し、陛下と宰相のいずれかにも取り入れるように。
そこへ1人の兵士が報告にやってきた。
「ニクラス様!燃え盛る屋敷から、何やら不気味な呻き声が聴こえてきます!」
すると煙の中から、泥人形のような怪物が出現し、呻きながら屋敷から這い出てきた。
兵士たちが一斉に剣を抜いて応戦するが、思いのほか強い力に兵士たちの剣は刃が立たず苦戦を強いられる。
ニクラスも部下たちと共に戦うが、分厚い泥を斬ることはできず、徐々に追い詰められていった。
「まさか、この王都が襲われているというのか⁉そんな馬鹿な!
応援は!応援はまだか!」
泥人形は武器なんて所持していない。けれども、着実に1人また1人と兵士を倒しては、紅蓮の炎に包まれる屋敷へと放り投げていった。
「ニクラス様!泥人形が次々増えていきます!」
兵士の悲鳴にも似た報告にニクラスは絶望する。
泥人形の数は30体を超え、兵士たちも20名近くがすでに敗れ倒れた。
ニクラスの剣が泥人形の身体に突き刺さり、その身体から血飛沫を上げるが、すぐに傷口が塞がってしまう。
「た!退却だ!退却せよ!」
ニクラスが叫ぶが、時すでに遅く、泥人形たちに包囲されていた。
そして泥人形たちは、ニクラスの眼前にまで迫ると一斉に飛びかかる。
その時だった。
空から光の矢が雨の様に降り注ぎ、泥人形たちを後退させる。
それは魔法であり、ローゼたちが駆けつけてきたのであった。
ですが、ここまで事が大きくなった以上、他の貴族の手前、わたくしには王宮で暮らすよう勧められるかもしれません。
そうなれば断るのは難しいと思います。
残念ですが、皆様への護衛依頼はそこまでとなります」
ヴィレッタが寂しそうに呟いた。
「ええ?そうなの?この御屋敷暮らし、もう少ししたかったのに~」
「元々、場違いな俺たちだ。貴族の政争に巻き込まれるつもりはない」
ベレニスはフカフカベッドに未練たらたらで、リョウは肩の力を抜いたように嘆息しながら呟いた。
「ただ、本日、王宮で陛下が下す決定まで時間がかかるでしょう。それまで、どうかよろしくお願いします」
その笑顔に、私は切なくなる。
このまま真実の自分を知らせず、別れの時を迎えていいのかと心が揺れる。
だがヴィレッタは、これからサリウス王の側室となり、現王による権力奪還を目指す一部となるのだ。
本当の真実を打ち明けてもいいのか?
でも……ここで打ち明けなければ、二度と言う機会がないかもしれない。
打ち明けよう。でないと、きっと後悔する気がする。
「ヴィレッタ!あの!」
けれどその決意は、フィーリアに遮られた。
「残念っすけど、ヴィレッタさんを殺そうとした連中とシャイニング公爵家が無関係なのが、今の襲撃ではっきりしたっす」
「フィーリア……それはなぜ?」
「いいっすか、ローゼさん。
あの宰相が恐れたのは、ローゼさんとセットになって今の王様に嫁ぐヴィレッタさんっす。
自分の権力を奪われる恐怖を、上手く駆り立てられて性急に事を運ぼうとしたって感じっすね。
多分早朝への包囲策を考えたのも、会話っぷりから昨夜っす」
フィーリアは確信を持って言った。
その言葉にベレニスが反応する。
「そういえば、ヴィレッタを教会で襲った連中や、私とフィーリアを商業ギルドで狙った連中の影が見えないわね。
装備者を都合が悪くなれば殺すっていう魔導具の指輪も、誰もはめてなかったわ」
「単にラスボスがしゃしゃり出てきたから、裏の稼業の人たちは使わなかっただけじゃない?」
「いやいやローゼさん。
これ最初っからおかしいと思うべきっすよ。
昨日1日、ローゼさんとリョウ様はヴィレッタさんを護衛してましたが、怪しい気配は一切感知しなかったのも変すよ。
逆に自分たちが狙われたのは、探られたくないのが商業ギルドにあったからっす」
「それって……ヴィレッタは元々命を狙われてなかったってこと?
でも実際ジーニアの言葉通りに、ヴィレッタは教会で命を狙われ……あっ!」
大事なことを思い出す。
ジーニアという邪教の魔女が、信用なんてこれっぽっちもできないことを。
「つまり、俺たちをヴィレッタ嬢の側に置くためだけに、ジーニアが仕組んだ罠だったのか。
一体、何のためにそんな手の込んだことをする?」
リョウが小首を捻りながらフィーリアに訊く。
「そこまでは情報不足で断定できないっすが、想像はつくっす。
……本命の作戦にリョウ様やローゼさん、ベレニスさんが関与しないように目線を変えさせたかったんす。
つまり、今回の邪教の目的は……」
フィーリアの話の途中で、少し離れた空から黒煙と火の手が上がった。
「あの方角は……⁉」
ヴィレッタが驚きの声を洩らし、走り出した。
「お嬢様!お待ちくだされ!」
エマさんが後を追う中、私たちも後を追った。
***
王国4大公爵家に数えられる、ルインズベリー家の豪華な屋敷が燃えていた。
「な、なんということだ」
同じく4大公爵家であるニクラス・レスターは、眼前に拡がる光景に唖然とした。
「ええい!応援を呼べ!消化活動をするのだ!」
この業火では、使用人含め全滅であろう。
このタイミングでレスティア公爵家とアデル准男爵を陥れようとした仕掛け人、ポール・ルインズベリーが公爵家諸共消し去る。
誰の仕業かと考えるも、ニクラスに答えは出ない。
よもや宰相に進言した策が大ハズレで、責任を取って自害したのではあるまいか?と一瞬考えたが、当主エクベルトも、公子であるポールも、そんな選択をする人間ではない。
だからこそ、ニクラスは早急な消火活動を命じたのだ。
一刻も早く鎮火し、陛下と宰相のいずれかにも取り入れるように。
そこへ1人の兵士が報告にやってきた。
「ニクラス様!燃え盛る屋敷から、何やら不気味な呻き声が聴こえてきます!」
すると煙の中から、泥人形のような怪物が出現し、呻きながら屋敷から這い出てきた。
兵士たちが一斉に剣を抜いて応戦するが、思いのほか強い力に兵士たちの剣は刃が立たず苦戦を強いられる。
ニクラスも部下たちと共に戦うが、分厚い泥を斬ることはできず、徐々に追い詰められていった。
「まさか、この王都が襲われているというのか⁉そんな馬鹿な!
応援は!応援はまだか!」
泥人形は武器なんて所持していない。けれども、着実に1人また1人と兵士を倒しては、紅蓮の炎に包まれる屋敷へと放り投げていった。
「ニクラス様!泥人形が次々増えていきます!」
兵士の悲鳴にも似た報告にニクラスは絶望する。
泥人形の数は30体を超え、兵士たちも20名近くがすでに敗れ倒れた。
ニクラスの剣が泥人形の身体に突き刺さり、その身体から血飛沫を上げるが、すぐに傷口が塞がってしまう。
「た!退却だ!退却せよ!」
ニクラスが叫ぶが、時すでに遅く、泥人形たちに包囲されていた。
そして泥人形たちは、ニクラスの眼前にまで迫ると一斉に飛びかかる。
その時だった。
空から光の矢が雨の様に降り注ぎ、泥人形たちを後退させる。
それは魔法であり、ローゼたちが駆けつけてきたのであった。
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