上 下
106 / 116
第3章 公爵令嬢の選択

第27話 ルインズベリー公爵家

しおりを挟む
「さて皆様。テスタ宰相も、当面わたくしを狙うことは諦めたと思います。
 ですが、ここまで事が大きくなった以上、他の貴族の手前、わたくしには王宮で暮らすよう勧められるかもしれません。
 そうなれば断るのは難しいと思います。
 残念ですが、皆様への護衛依頼はそこまでとなります」

 ヴィレッタが寂しそうに呟いた。
 
「ええ?そうなの?この御屋敷暮らし、もう少ししたかったのに~」
「元々、場違いな俺たちだ。貴族の政争に巻き込まれるつもりはない」

 ベレニスはフカフカベッドに未練たらたらで、リョウは肩の力を抜いたように嘆息しながら呟いた。
 
「ただ、本日、王宮で陛下が下す決定まで時間がかかるでしょう。それまで、どうかよろしくお願いします」

 その笑顔に、私は切なくなる。
 このまま真実の自分を知らせず、別れの時を迎えていいのかと心が揺れる。

 だがヴィレッタは、これからサリウス王の側室となり、現王による権力奪還を目指す一部となるのだ。

 本当の真実を打ち明けてもいいのか?

 でも……ここで打ち明けなければ、二度と言う機会がないかもしれない。
 打ち明けよう。でないと、きっと後悔する気がする。
 
「ヴィレッタ!あの!」

 けれどその決意は、フィーリアに遮られた。
 
「残念っすけど、ヴィレッタさんを殺そうとした連中とシャイニング公爵家が無関係なのが、今の襲撃ではっきりしたっす」
「フィーリア……それはなぜ?」
 
「いいっすか、ローゼさん。
 あの宰相が恐れたのは、ローゼさんとセットになって今の王様に嫁ぐヴィレッタさんっす。
 自分の権力を奪われる恐怖を、上手く駆り立てられて性急に事を運ぼうとしたって感じっすね。
 多分早朝への包囲策を考えたのも、会話っぷりから昨夜っす」

 フィーリアは確信を持って言った。
 その言葉にベレニスが反応する。
 
「そういえば、ヴィレッタを教会で襲った連中や、私とフィーリアを商業ギルドで狙った連中の影が見えないわね。
 装備者を都合が悪くなれば殺すっていう魔導具の指輪も、誰もはめてなかったわ」
「単にラスボスがしゃしゃり出てきたから、裏の稼業の人たちは使わなかっただけじゃない?」
 
「いやいやローゼさん。
 これ最初っからおかしいと思うべきっすよ。
 昨日1日、ローゼさんとリョウ様はヴィレッタさんを護衛してましたが、怪しい気配は一切感知しなかったのも変すよ。
 逆に自分たちが狙われたのは、探られたくないのが商業ギルドにあったからっす」
「それって……ヴィレッタは元々命を狙われてなかったってこと?
 でも実際ジーニアの言葉通りに、ヴィレッタは教会で命を狙われ……あっ!」

 大事なことを思い出す。
 ジーニアという邪教の魔女が、信用なんてこれっぽっちもできないことを。
 
「つまり、俺たちをヴィレッタ嬢の側に置くためだけに、ジーニアが仕組んだ罠だったのか。
 一体、何のためにそんな手の込んだことをする?」

 リョウが小首を捻りながらフィーリアに訊く。
 
「そこまでは情報不足で断定できないっすが、想像はつくっす。
 ……本命の作戦にリョウ様やローゼさん、ベレニスさんが関与しないように目線を変えさせたかったんす。
 つまり、今回の邪教の目的は……」

 フィーリアの話の途中で、少し離れた空から黒煙と火の手が上がった。
 
「あの方角は……⁉」

 ヴィレッタが驚きの声を洩らし、走り出した。
 
「お嬢様!お待ちくだされ!」

 エマさんが後を追う中、私たちも後を追った。

 ***

 王国4大公爵家に数えられる、ルインズベリー家の豪華な屋敷が燃えていた。
 
「な、なんということだ」

 同じく4大公爵家であるニクラス・レスターは、眼前に拡がる光景に唖然とした。
 
「ええい!応援を呼べ!消化活動をするのだ!」

 この業火では、使用人含め全滅であろう。

 このタイミングでレスティア公爵家とアデル准男爵を陥れようとした仕掛け人、ポール・ルインズベリーが公爵家諸共消し去る。
 誰の仕業かと考えるも、ニクラスに答えは出ない。

 よもや宰相に進言した策が大ハズレで、責任を取って自害したのではあるまいか?と一瞬考えたが、当主エクベルトも、公子であるポールも、そんな選択をする人間ではない。

 だからこそ、ニクラスは早急な消火活動を命じたのだ。
 一刻も早く鎮火し、陛下と宰相のいずれかにも取り入れるように。

 そこへ1人の兵士が報告にやってきた。
 
「ニクラス様!燃え盛る屋敷から、何やら不気味な呻き声が聴こえてきます!」

 すると煙の中から、泥人形のような怪物が出現し、呻きながら屋敷から這い出てきた。
 兵士たちが一斉に剣を抜いて応戦するが、思いのほか強い力に兵士たちの剣は刃が立たず苦戦を強いられる。

 ニクラスも部下たちと共に戦うが、分厚い泥を斬ることはできず、徐々に追い詰められていった。
 
「まさか、この王都が襲われているというのか⁉そんな馬鹿な!
 応援は!応援はまだか!」

 泥人形は武器なんて所持していない。けれども、着実に1人また1人と兵士を倒しては、紅蓮の炎に包まれる屋敷へと放り投げていった。
 
「ニクラス様!泥人形が次々増えていきます!」

 兵士の悲鳴にも似た報告にニクラスは絶望する。
 泥人形の数は30体を超え、兵士たちも20名近くがすでに敗れ倒れた。

 ニクラスの剣が泥人形の身体に突き刺さり、その身体から血飛沫を上げるが、すぐに傷口が塞がってしまう。
 
「た!退却だ!退却せよ!」

 ニクラスが叫ぶが、時すでに遅く、泥人形たちに包囲されていた。
 そして泥人形たちは、ニクラスの眼前にまで迫ると一斉に飛びかかる。

 その時だった。
 空から光の矢が雨の様に降り注ぎ、泥人形たちを後退させる。
 
 それは魔法であり、ローゼたちが駆けつけてきたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...